MAAでは毎年11月に全国レクリエーションを実施し、これまでに長野県、石川県、愛知県を訪問してきました。全国各地から会員の方々が現地に集合して文化施設などを巡りながら交流を深める1泊2日のレクは、いずれも忘れがたい時間となっています。
しかし2021年は、新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて開催が見送られ、代わりにインターバルレクリエーションを行うことになりました。それが、宝塚歌劇団雪組の東京宝塚劇場公演「ミュージカル『CITY HUNTER』-盗まれたXYZ-」と「ショー オルケスタ『Fire Fever!』」の千秋楽ライブ中継鑑賞です。
ミュージカルの原作は、1985年から「週刊少年ジャンプ」で連載が始まり、コミックの累計発行部数が5,000万部を超える人気漫画「シティーハンター」。1987年にはテレビアニメ化され、各シリーズの主題歌からは数々のヒット曲が生まれています。特にエンディングテーマは、アニメ本編のラストシーンに重なるように流れ始める演出が印象的で、中でもTM NETWORKの「Get Wild」は今なおアニメと共に愛され続けているのではないでしょうか。
MAAとしては「このミュージカル『CITY HUNTER』で、あの『Get Wild』が歌われるの?!」というのが大きな関心事でもありました。また、「シティーハンター」の舞台になっている新宿はMAAの事務所もあるので、なおさら親近感も増すというものです。
そこで、東京公演の最終日にインターネット上と全国各地の映画館で行われるライブ中継を鑑賞し、その夜、Zoomで感想会を行うインレクが設定されることとなりました。
「宝塚歌劇」と聞くと、皆さんはどんなイメージを想起なさるでしょう。宝塚音楽学校の校訓「清く 正しく 美しく」や、劇団を構成する各組の「花・月・雪・星・宙(そら)」という名前から、厳しいレッスンを乗り越えて華やかなステージに立つ団員の方々の晴れやかな笑顔を思い浮かべる方も多いのではないかと思います。
団員の方々のそんな表情が大きく映し出されるネット中継は、宝塚の魅力が存分に伝わってくる素晴らしいものでした。
第一部の『CITY HUNTER』は、開演前の舞台上にアニメ版の楽しい雰囲気を取り入れた映像が投影され、これから始まる物語への期待感を高めてくれます。ところが幕が上がると同時に空気は一転、ハードボイルドな世界へとたちまち引き込まれていきました。
やがて場面は新宿に移り、主人公・冴羽獠を中心にそこで暮らす登場人物たちが歌とダンスを繰り広げます。そして、ほどなく――
獠を演じる雪組トップスターの彩風咲奈(あやかぜ さきな)さんが、銀橋を渡りながら歌ってくださった(感動したので尊敬語。「尊い」という意味に納得の尊敬語)のです。
あの、「Get Wild」を。
清く、正しく、美しく! そして、wild で tough に!
その後、物語は原作の要素をふんだんに盛り込みながら、ハードボイルドあり笑いあり、悪い人がいっぱいが出てきてああしてこうしてあれやこれやと展開していくわけですが、終盤、またも彩風さんが歌ってくださいました。
今度はアニメ版のもう一つのエンディングテーマ、「Still Love Her」を。
清い、正しい、美しい! そして、切ない……。
宝塚が「シティーハンター」を上演することが発表されたとき、原作のコミカルな部分を心配して「すみれコード的に大丈夫なのか」という反応もあったようですが、そんな心配も吹き飛ばす舞台でした。原作への敬意を随所に織り込み、劇団としての基本を大切にしつつ新しいものに挑戦する姿に触れ、つい沈みがちになってしまいそうな毎日の中、励まされているような気持ちになりました。
特に見入ってしまったのは、新宿の街を行き交う群衆シーン。主要キャラクターはもちろん、具体的な役名はない人物まで、それぞれの人がそこで生きている実感をもって演じられていることが伝わってきて、全員を目で追い切れないのが残念でした。
「Get Wild」の歌詞に「ひとりでは解けない愛のパズルを抱いて」という一節がありますが、この舞台では団員さん一人ひとりが輝くジグソーパズルのピースで、それぞれの場所にピタリとはまることで物語を完成させているのかもしれないな、などと考えながら、舞台は幕となりました。
第二部の『Fire Fever!』は情熱的な歌とダンスを中心としたショーで、「これぞ宝塚!」と思わせてくれる時間でした。トップさん以外全員がレオタード衣装に身を包んだ圧巻のラインダンスや、舞台奥の大階段から降りてくる定番のフィナーレからは、伝統を守り、受け継いでいくことへの誇りや矜持が感じられます。
その後のカーテンコールや千秋楽のご挨拶、この日の公演を最後に退団なさる団員さんたちの卒業セレモニーでは、皆さんのちょっとお茶目な素顔も垣間見え、温かい気持ちに包まれながら帰途につきました。
そしてZoom感想会では、各自が見に行った映画館でのお客さんの反応を報告したり、宝塚大劇場では衣装を着ける体験ができるそうなのでいつか全国レクで行きたいねと話したり、いつも通りの和やかな時間が流れます。この日の舞台を鑑賞していない方もいらっしゃったのですが、見ていなくても共通認識を持ち寄って楽しく語り合えました。そうできるのは、宝塚やシティーハンターがそれぞれ文化や作品として培ってきた力があるからこそなのでしょう。
こんなふうに、毎回そのとき触れる芸術を通して、続けていくこと、続いていくことへの気づきがあるのがレクの良さだなあと、再認識できた一日でもありました。
そういえば、「シティーハンター」の主要キャラクターである海坊主さんがちゃんと筋肉質の大男に見えたのがすごかった、という感想もたくさん出ていました。そう考えると、宝塚の演出力と演技力をもってすれば――
いつか、あのガンダムだって舞台化可能なのではないでしょうか。
いつか、あの「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙〔そら〕を越えて)」を、銀橋を渡りながらトップスターさんが歌ってくださるのではないでしょうか。あー、尊い……。
記:パピルス
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