放送作家・美濃部達宏ブログ

5年以内にトヨタやソニーがアナウンサーを雇う時代になる

2017/09/19 08:30 投稿

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■キリンビール炎上事件

先日、キリンビールが炎上した。

キリンビール社員の飲み会映像に激しい反発 「だからアサヒに勝てない」とネットで非難轟轟|JCASTニュース

記事によれば、2017年9月5日放送の『ガイアの夜明け』が、「なぜ勝てない? 万年2位…キリンビールの苦悩」と題し、王者アサヒビールに対して、2位のキリンビールの社員たちが奮闘する様子を放送。

その中で、先輩社員が後輩社員を居酒屋に連れて行き、その飲みの席で、
「今のまま10年後になったら下の子がついてこないでしょ。俺できない、知らない、やだ、そんな奴にリーダーやってほしくない。お前、どれだけやっとんねん。やってないねん。やれや!できるやろ!!」
と、叱咤したところ、後輩社員が涙を流したシーンがパワハラだと視聴者の不快を買ったためだという。
掲示板やTwitterでは、
「こんな飲み会してるからキリンはアサヒに勝てんのや」
「麒麟一番搾りだろ、部下を搾ってどうすんだよ」
「ビール会社がビールを不味くするとか、本末転倒過ぎて そりゃ勝てませんわって感じですわw」
という声が上がったらしい。
(放送を確認したところ、先輩社員と後輩社員の関係性から一概にパワハラとは言えないと思ったが……)結果的に、キリンビールのブランドは『ガイアの夜明け』の放送によって著しく傷つけられてしまったことになる。
私はこの事件を教訓に、そろそろ企業もテレビ番組の取材を安易に受けるべきではないと提言したい。
それは時代と共にテレビというメディアのタイプが変化しているからだ。

■企業の思惑と番組スタッフの情熱のズレ

そもそも企業がテレビ番組の取材を受け入れるのは、安いコストで大きなプロモーションの効果を得られるという思惑を抱いているからだろう。

通常、ゴールデン帯でテレビCMを流せば、たった1回、数十秒で数千万円のコストがかかるのに、番組の取材を受け入れれば長尺で、しかもそれが無料で放送してもらえるのだ。
『ガイアの夜明け』はテレビ東京といえどもゴールデン帯の60分番組、テレビCMを基準にしたとしたら、その価値は何千倍となる。
すると、取材内容が企業のブランドイメージを損なうものでないと想定できたら、どの企業も当然、ウェルカムだろう。
しかし、あらためて考えてほしいのは、テレビ番組が取材を申し込むのは、あくまで番組を作るためであり、企業のブランド価値に貢献するためではない。
もちろん、取材する企業に対して極力配慮はするが、制作スタッフが情熱を注いでいるのはその企業に対してではなく、あくまで自分が作っている番組に対してである。
だからテレビCMの皮算用で、安く、大きなプロモーションが期待できると、安易に飛びつくのは危険なのである。

■テレビはAMラジオ化している

さらに言うと、もはや“テレビCMのコストと比較してお得”という考え自体は前時代的なのでやめた方がいい。

テレビCMには昔ほど、そのコストに見合う効果がないからだ。
まったく効果がなくなったというわけではない。
現在でも、テレビ以上に、全国的に、大規模に、一斉に宣伝できるメディアは他に存在しない。
しかし、その視聴者層はこの20年で大幅に変化している。
今、もっともテレビを観ているのは、F3層(50代以上の女性)、次いでM3層(50代以上の男性)である。
つまりテレビはほとんど高齢者しか聴いていないAMラジオと同じユーザー層に支えられているのだ。
最近、ネットニュースでは、テレビ番組の視聴率が話題になることが多いが、例えば、今、民放でもっとも視聴率が高い番組は、日本テレビの『イッテQ』、子供に人気という印象の番組だが、それはただの印象でしかない。
実際、『イッテQ』を一番観ているのはF3層で約20%を占め、次いでM3層で16%、その次もF2層(女性・35〜49歳)で14%であり、チャイルド層は13%しかいない。
また、若い男性に人気という印象の『アメトーク』も一番観ているのはF3層で全体の20%を超えている。
これらの番組はまだ全世帯層で観られるということを意識して、視聴者層のバランスが良い方だが、ほとんどのゴールデン帯の番組は視聴者の半分はF3・M3層で占められている(ゴールデン帯の番組に旅、グルメ、健康企画が多いのはそれが理由である)。
つまり、高視聴率番組というのは、多くの人が観ている番組、ではなく、もっともテレビを観るF3・M3層を獲得した番組、ということである。
(なので、ネットニュースで、ある女優が主演をして低視聴率だから、彼女は若者に人気がない、というのはまったくの間違いで、実際はF3・M3層の高齢者からの支持がないか、高齢者にとってつまらないドラマなのである)
そうした視聴者層に支えられたテレビに、(とくに子供や若者を狙って)企業が何億円もかけてCMを流しているのはもはやナンセンスだが、さらにその位置を選べないのも問題である。
位置というのは、例えば、ある企業が、ゴールデン帯の60分番組のスポンサーになったとする。
毎月、何億円も支払ってCMを流してもらうが、その60分番組がスタートしてから、果たして何分後にCMが流れるかを企業側は選べない。
視聴率には分計というものがあって、1分間ごとに視聴率が計測されているが、番組によってはスタートした頃は1桁、後半では20%近くという場合もある。
すると、同じ数億円払っていてもまるで早朝か深夜の番組にCMを流しているのと同じ効果しか得られない企業もあるのだ。
ただ、まだそれでもCMを目にしてもらえればいい方だろう。
今、若い世代の多くはテレビを観たとしてもハードディスクに録画し、イッキ観をする。
すると当然、CMはスキップする。
昔より圧倒的に話題になるCMが少なく、また、CMをキッカケに音楽が売れたり、ブームが生まれなくなったのはこれが原因でもある。

このように、テレビが変化している中で、CMに毎月何億円も投下する広告戦略を企業はそろそろ本気で見直すべきである。
また、そんなCMコストと比べてお得だからと、テレビ番組の取材を安易に受け入れることも考え直すべきだ。
では、今後、企業はどのようなメディア戦略を打っていくべきなのだろうか?
先に結論を言ってしまうと、今後、企業は、番組をネット上で内製化するのが適切だと考える。
つまり、トヨタがトヨタTVを、ソニーがソニーTVをネット上で放送するということだ。

■5年以内に企業が番組を内製化する時代になる

「企業が番組を作るなんて難しいんじゃないか?」

と、思う人はよくよく考えてみてほしい。
では、YouTuberはどうだろう?
彼らは元々、テレビ局やテレビ番組の制作会社で働いていたわけでもなく、まったくのアマチュアである。
しかし、人気YouTuberは数百万回も動画が再生され、タレント並みの人気を誇っている。
なぜ彼らにできて、企業でできないのか?
私は、企業の社員が自らその企業の商品やサービス、また、その企業が得意とする専門分野を、番組にしてネットで発信するべきだと考えている。
例えば、化粧品メーカーなら、研究員がどうしてその化粧品が肌にいいのか説明したり、販売員が化粧のテクニックを番組内で紹介したりするのだ。
それは検索数狙いのキュレーションサイトで素人ライターが書いた化粧品のコピペ記事よりも正しい情報だし、素人YouTuberが化粧の仕方を紹介するよりよっぽど説得力がある。
そもそもコンテンツというものは、どれだけそのコンテンツに制作者の熱意が込められているかでクオリティが変わってくるものだ。
テレビ局の番組スタッフに取材してもらうよりも、企業の社員が思いを込めた商品やサービスを自ら発信した映像の方が、熱意が伝わり、クオリティが高いものなるに決まっている。
そして、それによりロイヤリティが高いファンを獲得できるようになるはずである。

情報が瞬時に世界に広まり、すべての商品やサービスがコモディティ化していく今の世の中で、どれだけロイヤリティが高いファンを獲得できるかが、今後の企業の重要な戦略になってくる。
そうした時代に合わせて、まちがいなく今後5年以内に企業が番組を内製化する時代はやってくるはずだ。
もちろん、発信したい情報をよりわかりやすく、おもしろく視聴者に観てもらうために、外部のクリエイターや技術者を協力スタッフとして雇ってもいいだろう。
そうしたとしても、テレビCMに何億円もかけるより、よっぽどコストも安くて済む。
今、タレントやアナウンサーを志望している若者は、今後、テレビ局やプロダクションに入ることを目指すより、自分が好きな商品やサービスを提供する企業に入ることを目指すという選択肢も考えた方がいいかもしれない。

以上、私見。


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