中庸左派 のコメント

孫崎先生が紹介された論考によると、基本的に次の事実があげられている。

①プーチン大統領が、 2023年の両国間(*中露)の貿易額が約25%増加し、2270億ドルを超えると述べたことも注目に値する。また、プーチン大統領は、両国間の二国間貿易の90%がルーブルおよび/または人民元で行われていることを強調した。

②プーチン大統領の発言は明らかに中国指導部だけでなく、「世界の大多数」あるいは南半球にも向けられており、最近ますます支持を集めている脱ドル化など、中露の世界的な共同イニシアチブを促進することを意図していた。

③実際、プーチン大統領の訪問中に、米国財務省の最新データに基づく計算によると、北京は第1四半期に米国債と政府機関債を合わせて合計533億ドルを売却したと発表されたことは、おそらく偶然ではないだろう。中国の保有資産の保管国とみなされることが多いベルギーも、同じ期間に220億ドルの米国債を処分した。これらの数字は、中国が引き続き脱ドル化に取り組んでいることを強調している。

2024年3月現在、中国の決済の半分以上(52.9%)は人民元で決済され、42.8%は米ドルで決済されている。

④さらに、中国人民銀行が発表したデータによると、中国の金準備高は2023年第4四半期の2235.39トンから2024年第1四半期には2264.87トンに増加した。これは過去5年間のシェアの2倍である。

ゴールドマン・サックスによると、外国人が人民元建て資産の取引に意欲的になっていることが、引き続き人民元優先の脱ドル化に寄与している。

⑤昨年初め、ブラジルとアルゼンチンは人民元での貿易決済を許可すると発表した。世界的な脱ドル化の流れが始まったことで、多くの国が金保有量を増やし、国際取引に現地通貨を採用することで、準備金の多様化を加速させている。

⑥3月にインドネシアで開催されたASEAN財務相・中央銀行会議では、政策担当者らが米ドル、日本円、ユーロへの依存を減らし、現地通貨での決済に移行することを議論した。また4月初旬には、インド外務省(MEA)がインドとマレーシアがインドルピーでの貿易決済を開始すると発表したとインドのメディアが広く報じた。インドはすでにロシアとのエネルギー貿易の大半をルピーまたはルーブルで行っている。

⑦脱ドル化が加速する中、BRICS諸国はそれぞれの通貨バスケットに裏付けられた新たな準備通貨を確立する取り組みを続けている。BRICS加盟国は独自の通貨を開発していないが、2024年3月にクレムリンの補佐官ユーリー・ウシャコフ氏によると、BRICSブロックチェーンベースの決済システムが開発中だという。BRICSブリッジと呼ばれるこの決済システムは、中央銀行のデジタル通貨での決済のための決済ゲートウェイを使用して加盟国の金融システムを接続することになる。

理想的には、BRICS通貨はこれらの国々が既存の国際金融システムと競争しながら経済的独立を主張することを可能にするだろう。

⑧現在のシステムは米ドルが支配的で、通貨取引全体の約90%を占めている。最近まで、石油取引のほぼ100%がドルで行われていたが、2023年には石油取引の5分の1が非ドル通貨で行われると報告されている。

⑨ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は最近のインタビューで、2024年10月にロシアで開催される予定のBRICS首脳会議では脱ドル化の議題が中心となるだろうと明らかにした。首脳会議後、同盟はより強固になり、発展途上国を「まったく新しいゲーム」に導くことになるだろう。

https://responsiblestatecraft.org/dedollarization-china-russia/

要するに、中露先行により国際通貨ドルからの脱却を意識的に進めており、アメリカ帝国国債の売却や金保有への転換、さらにBRICS通貨等新決済システムの構築を行っている。この動きをグローバルサウスに向けて呼び掛けている。

それは、田中宇氏の表現を借りると、「米覇権潰しを宣言した中露」(『田中宇の国際ニュース解説』、6月2日)ということだろう。

だが、上記、①~⑨の事実は、日本ではほぼ報道されていない。それどころか、例えば、こういうXでの発言。「中国経済ガチカウントダウン!香港不動産価格がナイアガラ!?デフレ一直線で各種指標も危険水域へ!?若年失業率は改善の糸口ナシ!中国製造業PMIも予想外の50割れ!」(上念司氏)

Xでの発言なので、具体的な中味は知らないが、中国経済が「危険水域」だと言いたいらしい。

この手の言説は、日本では定番だろう。捏造ではないかもしれないが、世界の中での中国のGDPや、SCOやBRICSでの中国の役割を無視し、その意味で中国を貶めることに終始する言説。その意味では、「半ポスト真実」言説といってよいのだろう。

この上念司という人物は経済評論家らしいが、他にも、『悪中論:中国がいなくても、世界経済はまわる』(宝島社、2013年11月)とか、
『習近平が隠す本当は世界3位の中国経済』 (講談社+α新書 2017年6月)という本を書いていることからも、中国に批判的であることは分かる。

それはそれでよいが、問題はこれが日本の中国観の典型になっていることだと考えている。このあからさまな中国軽視、或いは悪意ある言説により、一方の「真実」が覆い隠されていることはミスリードになりかねない。

一方の真実とは、まさに①~⑨の動きである。

本来なら、両方の事実や現実を踏まえて論評をするとか、判断する必要がある。しかし、日本には中国の実像より、アメリカ帝国から見た中国像というフィルターがあり、正しい判断や論評をする上では、情報が不十分だ。だから、「半ポスト真実」とか、大本営発表と見る他ない。

こうした状況を強化し、より偏向に導くのが、上念氏らの言説ではないか?

少なくとも、中露グローバルサウスは、ドルの需要を減らす方向に動いている。しかも、アメリカ帝国は天文学的な財政赤字を抱えている。「ほとんどの米国民の家計が悪化している、との調査結果」もあるとのことだ。

http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2514.html?sp

国際情勢や経済を考える上では、中国のアラだけをやたら捜したがる日本の言論空間にドップリ浸かっていては、正しい判断はできず、B層的軽信と間違いに陥るだけだろう。そして、結果的に、アメリカ帝国と同盟して、中国に勝つ、みたいな時代錯誤の危険な発想にながされかねない。

だが、このようなB層は現実には圧倒的多数ではないか、と懸念している。その意味でも、日本は自滅しかねない。

No.5 3ヶ月前

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