中共はウイグルに対して、イスラエルがパレスチナに対しておこなっている以上の人権侵害をおこなっているので、これをイスラム諸国のあいだで問題化しないために、イラン、トルコ、アラブ諸国との友好関係は不可欠だ。ここは中共にとっては当たり前の基本線だ。 しかしこの基本線を維持しつつも、今回中共に果たせる役割はあったし、果たすべきだった。 ます第一に、いま戦争を継続したいのはイスラエルだけだ。 ハマスがテロをおこなったとき、イスラエルがわざとハマスに侵攻させ、それを好機としてガザ全体を制圧する目的だという説を唱えるヒトビトがいた。これは単なる陰謀論だが、その後イスラエルは、いわゆる「草刈り」戦略から、「根絶やし」戦略に換え、ガザ全体を制圧しようとしている。 一方、米国の動きを見ていると、なんとか一時的にでも停戦させようとしている。G7も同じだ。パレスチナ自治政府を含むアラブ諸国も、ガザ侵攻には反対するが、かといってハマスを積極的に支持しているわけではなく、さらに自国がイスラエルと戦争するつもりもない。イランも、ハマスやヒズボラ等を通じてイスラエルにちょっかいは出すが、自国がイスラエルと戦争するつもりは今のところは積極的にはなさそうだ。そしてハマスは、組織壊滅につながるのだから、しないですめば戦争はしたくないのだ。 国連(安保理、総会)では細かい語句の問題で賛成反対棄権がわかれているが、戦争をしたいかしたくないかを実際の行動から推量すると上のようになる。(一時的な)和平への条件は、かなりととのっている。 第二に、中共はイスラエルとサウジとの接近を前提に、イランとサウジとの接近を画策した。この方向性は中共の利益になるし、少なくともアラブ諸国の利益にはなったし、アラブ諸国の利益になればそれは反射的に中共の利益にもなり得る。 ところが、ここで和平をおこなわないと、これまでの中共の努力が最悪水の泡だ。中共は自国の利益のためにも停戦に積極的に介入する理由はあるのだ。 第三に、第一の状況とはいえ、イスラエルともイランともはなしができるのは中共だけだ。さらに結果的に和平工作に失敗しても、世界はその努力において中共に好感を感じるだろうし、米国は中共に一定の感謝をするであろう。 つまり、いまは、中共が国際政治のなかで存在感を示しうる絶好の機会なのだ。 ではなぜ中共の動きは不活発なのだろうか。 記事中にも「中国が現在の紛争で何か新しいことをしたり、指導的な立場に就いているのを実際に見たことがありません」とある。 以下はわたしのまったくの想像だが、おそらく国内事情のせいだと考えている。 王毅では中東は能力的に無理。秦剛がいたらブリンケンと呼応しながらなにか役割を果たした可能性はあるが、もういない。 若手の実力派はいるのだろうが、いまは経済的にも奈落の底に落ちつつあり、政治的には李克強暗殺説も流れるほど習独裁権力は不安定だ。そういうときには、黙っているのが処世術なのだろう。 こうして、中共は絶好の機会をのがしつつあるとみている。 ちなみにインドはどうか。インドは、1947年のパレスチナ分割決議には反対し、その後ずっとアラブ諸国との良い関係は維持しているが、今回はイスラエル支持でぶれていない。こういうあたりに、インドの「自国第一」のありようを感じる。
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孫崎享チャンネル
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中共はウイグルに対して、イスラエルがパレスチナに対しておこなっている以上の人権侵害をおこなっているので、これをイスラム諸国のあいだで問題化しないために、イラン、トルコ、アラブ諸国との友好関係は不可欠だ。ここは中共にとっては当たり前の基本線だ。
しかしこの基本線を維持しつつも、今回中共に果たせる役割はあったし、果たすべきだった。
ます第一に、いま戦争を継続したいのはイスラエルだけだ。
ハマスがテロをおこなったとき、イスラエルがわざとハマスに侵攻させ、それを好機としてガザ全体を制圧する目的だという説を唱えるヒトビトがいた。これは単なる陰謀論だが、その後イスラエルは、いわゆる「草刈り」戦略から、「根絶やし」戦略に換え、ガザ全体を制圧しようとしている。
一方、米国の動きを見ていると、なんとか一時的にでも停戦させようとしている。G7も同じだ。パレスチナ自治政府を含むアラブ諸国も、ガザ侵攻には反対するが、かといってハマスを積極的に支持しているわけではなく、さらに自国がイスラエルと戦争するつもりもない。イランも、ハマスやヒズボラ等を通じてイスラエルにちょっかいは出すが、自国がイスラエルと戦争するつもりは今のところは積極的にはなさそうだ。そしてハマスは、組織壊滅につながるのだから、しないですめば戦争はしたくないのだ。
国連(安保理、総会)では細かい語句の問題で賛成反対棄権がわかれているが、戦争をしたいかしたくないかを実際の行動から推量すると上のようになる。(一時的な)和平への条件は、かなりととのっている。
第二に、中共はイスラエルとサウジとの接近を前提に、イランとサウジとの接近を画策した。この方向性は中共の利益になるし、少なくともアラブ諸国の利益にはなったし、アラブ諸国の利益になればそれは反射的に中共の利益にもなり得る。
ところが、ここで和平をおこなわないと、これまでの中共の努力が最悪水の泡だ。中共は自国の利益のためにも停戦に積極的に介入する理由はあるのだ。
第三に、第一の状況とはいえ、イスラエルともイランともはなしができるのは中共だけだ。さらに結果的に和平工作に失敗しても、世界はその努力において中共に好感を感じるだろうし、米国は中共に一定の感謝をするであろう。
つまり、いまは、中共が国際政治のなかで存在感を示しうる絶好の機会なのだ。
ではなぜ中共の動きは不活発なのだろうか。
記事中にも「中国が現在の紛争で何か新しいことをしたり、指導的な立場に就いているのを実際に見たことがありません」とある。
以下はわたしのまったくの想像だが、おそらく国内事情のせいだと考えている。
王毅では中東は能力的に無理。秦剛がいたらブリンケンと呼応しながらなにか役割を果たした可能性はあるが、もういない。
若手の実力派はいるのだろうが、いまは経済的にも奈落の底に落ちつつあり、政治的には李克強暗殺説も流れるほど習独裁権力は不安定だ。そういうときには、黙っているのが処世術なのだろう。
こうして、中共は絶好の機会をのがしつつあるとみている。
ちなみにインドはどうか。インドは、1947年のパレスチナ分割決議には反対し、その後ずっとアラブ諸国との良い関係は維持しているが、今回はイスラエル支持でぶれていない。こういうあたりに、インドの「自国第一」のありようを感じる。