RT 21 Apr, 2023 西側の保守政党がポピュリズムや崩壊に向かう理由 https://www.rt.com/news/575057-decline-australia-liberal-party/ オーストラリア自由党の衰退は、内部分裂と方向性の喪失が他国でも同系統の政党を悩ませていることを示すケーススタディである- グレアム・ハイス記 オーストラリアのジャーナリスト/元メディア弁護士 米国の共和党や英国の保守党に似た伝統的な保守政党であるオーストラリア自由党は、現在、深刻な危機に陥っている。この状況は、過去数十年間に西側の殆どの保守政党が経験した不安定さと似て非なるものである。 1940年代後半に結成された自由党は、小規模で超保守的な国民党(農業部門を代表)と連立し、第二次世界大戦後の殆どの期間、オーストラリアを統治してきた。 昨年行われた連邦選挙では、自由党は労働党(オーストラリアのもう一つの主要政党)に敗れ、ほぼ10年間続いた政権に幕を下ろした。最近のニューサウスウェールズ州選挙では、同様に長らく政権運営を続けてきた自由党主導の政権が労働党に敗れた。 現在、労働党は連邦政府、オーストラリアの6つの州のうち5つの州、そして両準州で政権を担っている。 自由党の選挙での敗北はどのようにしてもたらされたのだろうか。かつての支配的な政党が、なぜ全国どこでも選挙に勝てないように見えるのか。自由党に未来はあるのか?これらの疑問とその答えは、西側の保守政党と自由民主主義の未来に関わる重要な問題を提起している。 ■保守主義からの逸脱 自由党の衰退は、党内だけでなく、同党の長年の忠実な推進者でありメディア担当アドバイザーであるマードック・メディア帝国にも、多くの怒りに満ちた議論を巻き起こしている。 自由党の衰退は、本来、公然と厳しく攻撃すべき「差別的でないイデオロギー」を採用することで、真の保守主義から逸脱した結果である、というのが一般的な見解である。 自由党の創設者であり、1949年から1966年まで首相を務めたロバート・メンジーズの保守的な価値観を再び取り入れるべきとまで言う人もいる。 しかし、これは自己欺瞞に近いものである。メンジーズは、白豪主義、大英帝国の維持、南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策の擁護に尽力していた。メンジーズが現代の自由党に何を提供できるのかは分かり難い。だからこそ、彼は1966年に辞任し、引退後は党から断固として無視されたのだろう。 同様に、自力で政権を取ろうとする伝統的な保守政党が、西側の自由民主主義国家で現在主流となっている「差別的でないイデオロギー」を公然と攻撃できると考えるのは見当違いである。そうすることは、有権者のかなりの部分を疎外することになり、彼らを敵に回して成功はあり得ないだろう。 自由党が提案する「右傾化」という救済策は、より実質的なものでなければ、選挙で忘れ去られるだけだ。 ■内部分裂 現在の自由党の危機を鋭く分析するには、まず、自由党が何十年も内部分裂に悩まされてきたこと、そしてそれが現在の苦境の大きな原因であることを認識することから始めなければならない。 過去20年間の自由党の歴史をざっと見ただけでも、この党が2つの激しく対立する派閥で構成されていることがわかる。 まず、保守派は、同性婚やトランスジェンダーの権利に反対するなど宗教的な伝統的保守の価値観を公言し、気候変動に疑問を持ち化石燃料を支持し、経済学ではサッチャー派で中小企業の利益を代弁している。さらに、外交政策では強い親英・親米を掲げ、一方で熱狂的な反中国を掲げている。2013年から15年まで首相を務めたトニー・アボットはこの派閥の元リーダーだが、現在の自由党党首であるピーター・ダットンは、現在、その旗振り役として煮え切らない。 第二に、穏健派―社会的に進歩的で、例えば#MeToo運動やトランスジェンダーの権利などを受け入れている。彼らは気候変動への取り組みに固くコミットし、再生可能エネルギーを提唱し、経済学ではケインズ主義的で、グローバル経済の利益を代表する。また、外交政策や中国に関しても、より現実的だ。2015年から18年まで首相を務めたマルコム・ターンブルは、この派閥の元リーダーだった。 ■実際は文化戦争に非ず この20年間、自由党の主導権をめぐって、この2つの派閥の間で果てしない戦いが繰り広げられてきたように思う。それぞれの側が勝利を収めたが、そのどれもが得るものが少なく決定的なものではなかった。ターンブルは2015年に首相だったアボットを退陣させた。その後、2018 年にダットン率いるクーデターでターンブル自身が首相の座を追われ、スコット・モリソンが妥協の産物で首相に就任した。 モリソン政権の後期は派閥争いが激しく、モリソンの分裂的な宗教の自由法案を含む重要法案を通過させることができず、穏健派の議員は定期的に議場を横切って労働党の野党に投票すると脅した。当然のことながら、モリソン政権は2022年5月の選挙で落選した。 自由党の戦略家たちは、2つの派閥の重要性を軽視し、「我々は広い教会である」というレトリックを維持している。 その一方で、両派閥が2つの異なる経済的利益集団を代表していることを認めようとはしない。 旧来の国家を基盤とするエリートと、1970年代以降、世界経済のグローバル化に伴って台頭してきた新しいグローバル・エリートのことである。 この2つのグループの経済的利益と目的は、互いに正反対である。この20年間、グローバル化した新しい経済が旧来の国民国家に基づく経済秩序を徐々に駆逐していく中で、両者の間にイデオロギーの公開戦争が勃発した。 このイデオロギー対立は「文化戦争」と呼ばれるが、保守派は社会政策に関する単なる意見の違いに過ぎず、合理的な議論によって解決されると考えている。実際には、文化戦争は競合するイデオロギー間の対立であり、2つの根本的に異なる経済的世界秩序を、双方が正当化しようとしているのである。これが議論によって解決できないのは、 新しいグローバル・エリートは、異なる考えを持つ人々を「抹殺」するなど、新・全体主義的な方法で自分たちの世界観を押し付けることに全力を注いでいるからだ。 西側の全ての保守政党が直面している根本的なジレンマは、これら二つの相反する経済グループの利益を同時に代表しようとしたのは保守政党だけだったということだ。そのため、保守政党だけが激しいイデオロギー内部分裂に悩まされ続けているのである。 ■架空のマルクス主義者と闘う それは、保守派の政治家が、自分たちを飲み込み、分断している革命的な世界経済とイデオロギーの変革に対する洞察力を完全に欠いていることを示すものである。彼らは愚かにも、グローバリストの「差別的でないイデオロギー」を「左翼」あるいはさらに不正確な「マルクス主義」と分類することに固執している。 それは全くナンセンスである。これらのイデオロギーは、極めて強力なグローバル経済エリートの利益を正当化するものであり、だからこそ、メディア、大学や学校、大企業、官僚機構、政治プロセスなど、西側自由民主主義国家のほぼ全ての重要な機関に簡単に入り込み、支配することができたのである。 保守派が文化戦争に完敗したのも無理はない。ダボス会議に出席するエリートたちと戦うべきところを、カール・マルクスと戦ってしまったのだ。 伝統的な左翼イデオロギーは、社会主義や、経済エリートから労働者階級への富の再分配を促進したものである。 西側の現在の支配的なイデオロギーは、新しいグローバル経済エリートの地位と富の増大を正当化し、彼らはグローバル化の過程で貧しくなった人々(伝統的な労働者階級を含む)を徹底的に侮蔑している。 保守派のこの理解不足は更に悪化しているが、それは、オーストラリアの労働党、英国の労働党、米国の民主党といった伝統的な左翼進歩政党が、過去50年の間に、今や殆ど独占的に新しいグローバルエリートの利益を代表する政党に変貌したことを、保守派が認めようとしないことに因る。 ジェレミー・コービンやバーニー・サンダースのような旧来型の社会主義者が、最終的に党から永久に叩き出されるようなイデオロギー的な掃討作戦に過ぎないのだ。 このイデオロギーの一本化は、今や支配的なグローバル化した経済的利益からの支援増大とともに、オーストラリアの労働党、米国の民主党、そして英国のキーア・スターマーの労働党の今後の選挙での勝利の説明となる。 このことは、オーストラリア自由党の政治家たちには気づかれなかった。彼らは何十年も自分たちの内部抗争に夢中になっていたのだ。信じられないことに、労働党のアルバネーゼ首相が社会主義者だと本気で信じている自由党員が大勢いる。
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RT 21 Apr, 2023
西側の保守政党がポピュリズムや崩壊に向かう理由
https://www.rt.com/news/575057-decline-australia-liberal-party/
オーストラリア自由党の衰退は、内部分裂と方向性の喪失が他国でも同系統の政党を悩ませていることを示すケーススタディである-
グレアム・ハイス記
オーストラリアのジャーナリスト/元メディア弁護士
米国の共和党や英国の保守党に似た伝統的な保守政党であるオーストラリア自由党は、現在、深刻な危機に陥っている。この状況は、過去数十年間に西側の殆どの保守政党が経験した不安定さと似て非なるものである。
1940年代後半に結成された自由党は、小規模で超保守的な国民党(農業部門を代表)と連立し、第二次世界大戦後の殆どの期間、オーストラリアを統治してきた。
昨年行われた連邦選挙では、自由党は労働党(オーストラリアのもう一つの主要政党)に敗れ、ほぼ10年間続いた政権に幕を下ろした。最近のニューサウスウェールズ州選挙では、同様に長らく政権運営を続けてきた自由党主導の政権が労働党に敗れた。
現在、労働党は連邦政府、オーストラリアの6つの州のうち5つの州、そして両準州で政権を担っている。
自由党の選挙での敗北はどのようにしてもたらされたのだろうか。かつての支配的な政党が、なぜ全国どこでも選挙に勝てないように見えるのか。自由党に未来はあるのか?これらの疑問とその答えは、西側の保守政党と自由民主主義の未来に関わる重要な問題を提起している。
■保守主義からの逸脱
自由党の衰退は、党内だけでなく、同党の長年の忠実な推進者でありメディア担当アドバイザーであるマードック・メディア帝国にも、多くの怒りに満ちた議論を巻き起こしている。
自由党の衰退は、本来、公然と厳しく攻撃すべき「差別的でないイデオロギー」を採用することで、真の保守主義から逸脱した結果である、というのが一般的な見解である。
自由党の創設者であり、1949年から1966年まで首相を務めたロバート・メンジーズの保守的な価値観を再び取り入れるべきとまで言う人もいる。
しかし、これは自己欺瞞に近いものである。メンジーズは、白豪主義、大英帝国の維持、南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策の擁護に尽力していた。メンジーズが現代の自由党に何を提供できるのかは分かり難い。だからこそ、彼は1966年に辞任し、引退後は党から断固として無視されたのだろう。
同様に、自力で政権を取ろうとする伝統的な保守政党が、西側の自由民主主義国家で現在主流となっている「差別的でないイデオロギー」を公然と攻撃できると考えるのは見当違いである。そうすることは、有権者のかなりの部分を疎外することになり、彼らを敵に回して成功はあり得ないだろう。
自由党が提案する「右傾化」という救済策は、より実質的なものでなければ、選挙で忘れ去られるだけだ。
■内部分裂
現在の自由党の危機を鋭く分析するには、まず、自由党が何十年も内部分裂に悩まされてきたこと、そしてそれが現在の苦境の大きな原因であることを認識することから始めなければならない。
過去20年間の自由党の歴史をざっと見ただけでも、この党が2つの激しく対立する派閥で構成されていることがわかる。
まず、保守派は、同性婚やトランスジェンダーの権利に反対するなど宗教的な伝統的保守の価値観を公言し、気候変動に疑問を持ち化石燃料を支持し、経済学ではサッチャー派で中小企業の利益を代弁している。さらに、外交政策では強い親英・親米を掲げ、一方で熱狂的な反中国を掲げている。2013年から15年まで首相を務めたトニー・アボットはこの派閥の元リーダーだが、現在の自由党党首であるピーター・ダットンは、現在、その旗振り役として煮え切らない。
第二に、穏健派―社会的に進歩的で、例えば#MeToo運動やトランスジェンダーの権利などを受け入れている。彼らは気候変動への取り組みに固くコミットし、再生可能エネルギーを提唱し、経済学ではケインズ主義的で、グローバル経済の利益を代表する。また、外交政策や中国に関しても、より現実的だ。2015年から18年まで首相を務めたマルコム・ターンブルは、この派閥の元リーダーだった。
■実際は文化戦争に非ず
この20年間、自由党の主導権をめぐって、この2つの派閥の間で果てしない戦いが繰り広げられてきたように思う。それぞれの側が勝利を収めたが、そのどれもが得るものが少なく決定的なものではなかった。ターンブルは2015年に首相だったアボットを退陣させた。その後、2018 年にダットン率いるクーデターでターンブル自身が首相の座を追われ、スコット・モリソンが妥協の産物で首相に就任した。
モリソン政権の後期は派閥争いが激しく、モリソンの分裂的な宗教の自由法案を含む重要法案を通過させることができず、穏健派の議員は定期的に議場を横切って労働党の野党に投票すると脅した。当然のことながら、モリソン政権は2022年5月の選挙で落選した。
自由党の戦略家たちは、2つの派閥の重要性を軽視し、「我々は広い教会である」というレトリックを維持している。
その一方で、両派閥が2つの異なる経済的利益集団を代表していることを認めようとはしない。
旧来の国家を基盤とするエリートと、1970年代以降、世界経済のグローバル化に伴って台頭してきた新しいグローバル・エリートのことである。
この2つのグループの経済的利益と目的は、互いに正反対である。この20年間、グローバル化した新しい経済が旧来の国民国家に基づく経済秩序を徐々に駆逐していく中で、両者の間にイデオロギーの公開戦争が勃発した。
このイデオロギー対立は「文化戦争」と呼ばれるが、保守派は社会政策に関する単なる意見の違いに過ぎず、合理的な議論によって解決されると考えている。実際には、文化戦争は競合するイデオロギー間の対立であり、2つの根本的に異なる経済的世界秩序を、双方が正当化しようとしているのである。これが議論によって解決できないのは、 新しいグローバル・エリートは、異なる考えを持つ人々を「抹殺」するなど、新・全体主義的な方法で自分たちの世界観を押し付けることに全力を注いでいるからだ。
西側の全ての保守政党が直面している根本的なジレンマは、これら二つの相反する経済グループの利益を同時に代表しようとしたのは保守政党だけだったということだ。そのため、保守政党だけが激しいイデオロギー内部分裂に悩まされ続けているのである。
■架空のマルクス主義者と闘う
それは、保守派の政治家が、自分たちを飲み込み、分断している革命的な世界経済とイデオロギーの変革に対する洞察力を完全に欠いていることを示すものである。彼らは愚かにも、グローバリストの「差別的でないイデオロギー」を「左翼」あるいはさらに不正確な「マルクス主義」と分類することに固執している。
それは全くナンセンスである。これらのイデオロギーは、極めて強力なグローバル経済エリートの利益を正当化するものであり、だからこそ、メディア、大学や学校、大企業、官僚機構、政治プロセスなど、西側自由民主主義国家のほぼ全ての重要な機関に簡単に入り込み、支配することができたのである。
保守派が文化戦争に完敗したのも無理はない。ダボス会議に出席するエリートたちと戦うべきところを、カール・マルクスと戦ってしまったのだ。
伝統的な左翼イデオロギーは、社会主義や、経済エリートから労働者階級への富の再分配を促進したものである。
西側の現在の支配的なイデオロギーは、新しいグローバル経済エリートの地位と富の増大を正当化し、彼らはグローバル化の過程で貧しくなった人々(伝統的な労働者階級を含む)を徹底的に侮蔑している。
保守派のこの理解不足は更に悪化しているが、それは、オーストラリアの労働党、英国の労働党、米国の民主党といった伝統的な左翼進歩政党が、過去50年の間に、今や殆ど独占的に新しいグローバルエリートの利益を代表する政党に変貌したことを、保守派が認めようとしないことに因る。
ジェレミー・コービンやバーニー・サンダースのような旧来型の社会主義者が、最終的に党から永久に叩き出されるようなイデオロギー的な掃討作戦に過ぎないのだ。
このイデオロギーの一本化は、今や支配的なグローバル化した経済的利益からの支援増大とともに、オーストラリアの労働党、米国の民主党、そして英国のキーア・スターマーの労働党の今後の選挙での勝利の説明となる。
このことは、オーストラリア自由党の政治家たちには気づかれなかった。彼らは何十年も自分たちの内部抗争に夢中になっていたのだ。信じられないことに、労働党のアルバネーゼ首相が社会主義者だと本気で信じている自由党員が大勢いる。