りゃん のコメント

わたしは、前から書いているように、まともな反ワクチン論というものはあるとおもっているし、ワクチンに副作用があることを否定したこともない。それどころか、発熱などのありふれた副作用が「最後の一押し」となって食欲低下や誤嚥性肺炎がはじまり、結果としてなくなってしまった高齢者も特養などにはいるかもしれないとおもっている(これも前に書いた)。ただし、そういうのは、「ふりかえってみて投与すべきでなかったといえるケース」ではあるかもしれないが、「ワクチンの副作用死」といっていいのかはよくわからない(定義の問題ではある)。

まともでない反ワクチン論のひとつの特徴は、断定的なところだ。たとえば「イベルメクチンは効く」というのがそれだ。イベルメクチンは効くのかもしれない。そういう論文はある。しかしそうでない論文もあり、チャイナ肺炎治療に適応を得るにはまだ至らない。そのうえで、厚労省はイベルメクチンを治療に使えるように便宜をはかっている。ただこれだけの事実をそのとおりに受け止められないヒトビトがいる。

もうひとつ例をあげよう。「6月に超過死亡が多かったのは、ワクチンの副作用死のせいだ」というのがそれだ。一般に、ある施策をおこなっているときに超過死亡がマイナスならその施策がマイナスの原因だろうと、強い反証がない限り、考えられやすい。日本のような高齢化社会ではたいていのできごとは人が死ぬ方向にはたらきやすいから、そのなかで、ある施策をおこなったときに超過死亡が減っていれば、その施策が超過死亡減少の原因と推論しやすいということだ。一方、超過死亡が増えたときはその逆で、様々な要因が原因と考えられる。その部分の十分な検討こそが立論のいのちであるはずなのに、いい加減にしか論じないで「6月に超過死亡が多かったのは、ワクチンの副作用死のせいだ」という論考があるのだ(もちろん、仮説をだすことや、その仮説について議論することがダメだといっているわけではない。念のため)。

6月に医療逼迫はなかったかもしれないが、4,5月に医療逼迫があったのなら、6月の超過死亡は4,5月の医療逼迫と関連するかもしれない。
そもそも「医療逼迫」を、重症者のために中等者以下が入院できないこと、と定義しているようにみえるが、チャイナ肺炎のためにそれ以外の疾患が入院治療できない医療逼迫もあるし、高齢者が感染を恐れて病院への受診控えをしているために、がんの発見が遅くなったり慢性疾患の管理が悪くなったりという医療逼迫もある。そういう要素を十分に考慮していないのではないか。
等々。
わたしは、「6月に超過死亡が多かったのは、ワクチンの副作用死のせいではない」と言っているのではない。「6月に超過死亡が多かったのは、ワクチンの副作用死のせいだ」と決めつけるのは議論を尽くしていないと言っているのだ。

まともでない反ワクチン論のもうひとつの特徴は、まちがいを訂正しないところだ。上でとりあげたBonaFidrの件をみても明らかだとおもうが、もうひとつ取り上げておこう。

しばらくまえ、タレントの野々村真がワクチン接種の副作用で入院し重篤化しているという噂が流れた。この噂をうたいながらネットで踊り狂っていたヒトビトもいる。しかし、野々村の事務所は野々村がワクチン接種していたことを否定した。そして、野々村が新型コロナウイルスに感染していたと明らかにした。つまり、野々村はワクチン接種をせず、チャイナ肺炎に感染して、生死のあいだをただよったのだった。そしてわたしが見る限り、自分は間違った噂を流したと訂正したヒトはひとりもいない。

No.14 38ヶ月前

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