りゃん のコメント

孫崎さんはたびたびキッシンジャーの理論を引き合いに出しますが、その全貌がどういうものなのか、孫崎さんの引用だけではよくわかりませんでした。それを知るには、原典やその訳などにあたればいいのでしょうが、その余裕もないので、なにかないかとネットをみていたところ、古いもののようですが、詳しく解説した論文があったので、ここに引用しておきます。pdf形式になっています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kokusaiseiji1957/1958/5/1958_5_40/_pdf

54ページあたりに要約的な記述がありますが、それをみてわかるのは、

1、キッシンジャーの戦略は、全面戦争(*1)への拡大をふせぎつつ核兵器をもちいた限定戦争(*2)をおこなうにはどうしたらいいかを、当時のソ連を想定しつつ、考察しているのであり、核兵器の不使用の戦略ではなく、先制不使用の戦略ですらないこと。
2、孫崎さんの引用している「どんな紛争においても国家の生存という問題がそれに巻込まれないような枠を作ることが、アメリカ外交の仕事である。」につづいて、「しかし同様に、中間目的(*3)を達成しようとする決意、いかなるソ連の軍事的な動きに対してでも力で抵抗するという決意について、疑問を残
さないようにしなければならない。」とあること
がわかります。
そして、限定戦争が全面戦争にむかわないための補助線として、
3、アメリカが限定戦争政策の立場を堅持すれば、ソ連をして、全面戦争に訴えるか、限定戦争の段階に止るかの苦しいジレンマに直面させることができる。
を想定していることがわかります。

ただちに気づくことですが、これはすでに核兵器をもっているソ連という相手に対する戦略なのであり、今の北朝鮮のように、核開発放棄そのものを「国家の生存という問題」と定義している場合はキッシンジャー戦略の想定外であるということです。

キッシンジャー自身がこの論文が書かれて以後どう考えているのかは知らないし、キッシンジャー以外の理論家がキッシンジャーを改変しつつなにかの説を唱えているのかも知れませんが、私の想像では、今回のような事態は米国にとってもはじめての事態でキッシンジャー理論が通用しない事態であり、なにかもともと決まった戦略があるわけではないとおもいます。ですから孫崎さんも、キッシンジャー理論に自分の立場を応援してもらおうなどとは考えないほうがいいのではないでしょうか。

No.5 84ヶ月前

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