こんにちは。マクガイヤーです。
前回の放送「ニコ生マクガイヤーゼミ 『オデッセイ』と火星で生き延びる方法」は如何だったでしょうか?
「文芸と科学両面からの解説が面白い」「あのシーンはそういう意味だったとは」「映画が観たくなる」……と非常に評判が良く、嬉しい限りです。ただ、ネタバレもあるので、映画を観てから番組をご覧になった方がいいかもしれませんね。
今後の放送予定ですが、以下のようになっております。
○2/25(木)20時~
「最近のマクガイヤー 2016年2月号」
いつも通り、最近面白かった映画や漫画やについて、まったりとひとり喋りでお送りします。
とりあえず
その他もろもろについて語る予定です。
○3/5(土)20時~
「ニコ生マクガイヤーゼミ 今だから復讐したい『ジャンゴ 繋がれざる者』とタランティーノ映画」
2/27(土)よりクエンティン・タランティーノ監督期待の新作『ヘイトフル・エイト』が公開されます。
そこで前作『ジャンゴ 繋がれざる者』を中心にタランティーノ映画の観方について解説する予定です。
是非とも『ジャンゴ 繋がれざる者』を観賞してから放送をお楽しみください。
以上、ご期待ください。
さて、今回のブロマガですが、映画『オデッセイ』と原作小説『火星の人』について、放送では語りきれなかったことについて書かせてください。
映画『オデッセイ』は、最近日本で公開されている洋画、それも本格SF映画としては異例なことに、ヒットしているようです。
本国アメリカでヒットした理由は、なんとなく分かります。アメリカ社会におけるSFの立ち位置、シーンにぴったり合った歌詞を持った音楽、なによりも、窮地に陥った人間(ただしアメリカ人)を社会全体で助けようとする価値観……これはヒットするべくしてヒットした映画です、アメリカでは。
しかし、日本でもヒットするとは意外でした。『オデッセイ』は2/5に公開されたわけですが、土日で興収4億9601万2000円を記録し、初登場1位を獲得したそうです。
参考リンク: http://www.mtvjapan.com/news/cinema/26590
『プロメテウス』も『インターステラー』も大ヒットした、とは言いがたい日本で、本作がここまでヒットしたのは何故でしょうか?
昨年末に公開された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は大ヒットしましたが、上映前に本作の予告編が上映されていました。『フォースの覚醒』で盛り上がった後、もう一本宇宙っぽい映画を観るかと劇場に来た客が多かったのかもしれません。また、SFという単語を一つも出さず、あくまでも火星に取り残されたマット・デイモンを皆が「愛」で救おうとする「感動」大作として売り出したというのも、おなじみの手法ですが、それなりに効果があったのかもしれません。SF好きな自分としてはイヤーな感じですが。
ただ、公開後に、「火星でDASH村」というわかりやすいキャッチフレーズでSNSが盛り上がったというのも、理由の一つではないでしょうか。
宇宙服の破損をダクトテープで直すDIY精神、食料としてじゃがいもを栽培する前にまず土から作る「そこから?」感、どんなにピンチでもおやじギャグをとばす城島リーダーじゃなかった主人公マーク・ワトニー……まさにDASH村です。DASH島の方が近いかもしれませんが。
しかし、いかに『オデッセイ』が陽気で楽観的な雰囲気の映画のようにみえるとはいえ、劇中のマーク・ワトニーが本当に心の底から陽気で楽観的かどうかは別の問題です。
TOKIOだって毎日DASH島にいるわけではありません。最近のDASH島は城島リーダーと山口しかみかけませんし、珍しく松岡がDASH島にいる時があっても、ロケの無い日は松山市の小料理店でデートしててもおかしくないではありませんか。
参考リンク: http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151116-0002082...
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なにかひとつもらえるなら、無線機がほしい。(中略)いや、なんでもいいのなら、肌は緑色だが美しい火星の女王がいい。地球の”メイクラブ“についてより詳しく学ぶために、ぼくを助けにきてくれる美女がいいなあ。
もう長いこと、女性を見ていないから、ちょっといってみただけです。
とにかく、(中略)――まじめな話……もう何年も、彼女が居ない。高望みはしない。ほんとうだ。地球にいてさえ、植物学者/メカニカル・エンジニアの家のドアの前に女性が列をなすようなことは絶対にない。それでやっぱりなあ。
(中略)
地球にもどったら、ぼくは有名人だ、よね? あらゆる困難を克服した、恐れを知らぬ宇宙飛行士、だろ? 女性はそういうのが好きにきまっている。
生き抜こうという意欲が、さらに高まってきた。
『火星の人[新版]下 P220-221』
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……という、いかにも童貞な思考をするマーク・ワトニーとDASH島でロケするTOKIOとの間には、天と地ほどの開きがあります。
だから、たとえ陽気で楽観的な雰囲気が漂っていても、それは表面的なものに過ぎないと受け止めた方が、この物語を真に理解する手助けになるのではないでしょうか。
ヒントは幾つもあります。
その一つは、映画の後半、火星ミッションの統括責任者であるヴィンセントとサットコン(衛星コントロール)のエンジニアであるミンディが、ワトニーから送られてきた文章のニュアンスについて、冗談混じりに話すシーンです。
宇宙船ヘルメスに回収してもらうためには、MAVを軽量化しなくてはなりません。椅子も窓も船首エアロックも取り去るという思い切った改造プランを知らせる地球からの通信に、マークはこう返します。
“Are you F--king kidding me?”
「ぼくをクソからかってるんじゃないだろうな?」
ヴィセントとミンディは、果たしてワトニーは笑いながら、冗談としてこの通信を送っているのか? それとも、「そんな改造するなんてとんでもない!」と激怒して送っているのか? ということを冗談混じりに話し合っているわけです。
「冗談混じりに」というのは、ヴィンセントとミンディは、マークが本当はどんな気分なのか、だいたい分かっているからです。当然、前者――笑いながら――でしょう。何故なら、かなり挑戦的でリスクを伴う改造ですが、ことここに至っては、この改造をしなければ自分は助からないということをマークは理解している――ということをヴィセントとミンディは確信しているからです。
ちなみに、このシーンは原作にはありません。
『オデッセイ』は、原作をもの凄く尊重して映画化されています。映画化のために原作からカットされたシーンはありますが、原作を改変したシーンはごく僅かです。
このような複雑なニュアンスを持つシーンを追加したのは何故なのでしょうか?
それは、本作の登場人物――特にワトニーが喋る台詞の多くには二重の意味があり、隠された意味があるということを象徴的に伝えたかったからではないでしょうか。
宇宙飛行士が、本作のような状況で、火星に一人とりのこされる――これは控えめにいっても、絶体絶命のピンチです。控えめにいわなければ、死刑宣告でしょう。知力体力に優れた宇宙飛行士が慎重に慎重に頑張っても、無事に地球に帰還できる可能性は限りなく低いです。
つまり、火星でマーク・ワトニーは、常に生死に向き合った戦いを強いられているわけです。陽気な音楽と、陽気で楽観的なワトニーのジョーク混じりの一人語りで騙されてしまいますが、ワトニーはいつ死んでもおかしくありません。
しかし、常に、真剣に生死と向き合うことはできません。ストレスが大きすぎます。
そこで、陽気さや楽観性やユーモアの出番になるわけです。生死隣り合わせの状況では陽気さや楽観性やユーモアがないと正気を保てないのです。
そして、ワトニーはそのようなことが自然にできる男として描写されます。ワトニーが頼りがいのある男にみえるのは、彼が知力体力に優れた超人のような男ではなく、このような状況でも自然にジョークを飛ばせる男だからです。
これが一番端的に表されているのは、アクアマンのくだりでしょう。
原作小説の序盤、火星の衛星写真から、死亡したと思っていたマーク・ワトニーが生き延びていることを知ったNASAの幹部たちは、ワトニーのことを心配します。ところが……
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「どんな気分だろうな?」彼は思いをめぐらせた。「ワトニーは火星で立ち往生している。まったくのひとりぼっちで、みんな自分のことはあきらめてしまっただろうと思っている。そういう状況は人間の心理にどんな影響をおよぼすのか?」
彼はふたたびヴェンカトのほうを向いた。「いま、いったいなにを考えているんだろうな?」
[ログエントリー:ソル61]
アクアマン(アメリカン・コミックスのスーパーヒーロー。水陸両棲の海底人で、水棲動物とテレパシーで話ができる)がクジラを思い通りに動かすって、どういうことだ? クジラは哺乳類だぞ! ナンセンス!
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