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【第321号】『進撃の巨人』と悪いアニキ(その2)

2021/04/28 07:00 投稿

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  • 進撃の巨人
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マクガイヤーチャンネル 第321号 2021/4/28
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おはようございます。マクガイヤーです。

またもや緊急事態宣言が発令されてしまいました。

都内の映画館はほとんど休館してしまいましたが、こんな時だけ埼玉県民で良かったなあと感じる今日この頃です。



マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



〇5月5日(水)19時~「こんな時だからみたい旅行映画たち」

新型コロナ過の中、気軽に旅行に行けない状況が続いています。国内旅行は可能でしょうが、海外旅行は少なくともあと一年は無理そうです。

そんな中、気分だけでも旅行に行ったような感覚を味わえる映画を特集します。ロードムービーに限らず、全く別の土地や風景、旅行そのものの魅力を味わえるような映画は数多くあり、そんな映画たちについて語れればと思います。


ゲストとして編集者のしまさん(https://twitter.com/shimashima90pun)をお迎えしてお送り致します。



〇5月30日(日)19時~「黒富野と白富野のあいだの『閃光のハサウェイ』」(日時が変更になりました、ご注意下さい)

5月7日より映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』が公開されます。1989~90年にかけて発表された富野由悠季による同名小説を、3作かけて映像化する、その第1作目になるそうです。なんでも、ガンダムにとっての「正伝」である宇宙世紀作品を各種メディアで展開するプロジェクト『UC NexT 0100』の第2弾として制作されるそうです。

『閃光のハサウェイ』が、いまこのタイミングで映像化されることに、驚きと納得の両方を感じてしまいます。発表当時、『閃光のハサウェイ』はイノセンスの象徴として過去作に登場したハサウェイ・ノアを抑圧された宇宙植民地の側に立つテロリストのリーダーとし、テロを繰り返す側の視点で描くガンダムシリーズとしては異端の物語だったからです。


しかし、アメリカ同時多発テロ事件から20年が経ち、いまもまだ「テロとの戦争」の最中にあります。テロリストの視点から語る物語は珍しくなくなりました。

富野由悠季の作風は『閃ハサ』以後どんどん「黒さ」を増しつつも、『ブレンパワード』を境に反転を迎えることとなります。一方で、「ガンダム」というコンテンツはサンライズの身売り以降、『SEED』『UC』でしっかりとブランド化しましたが、富野自身が『閃ハサ』のアニメ化に関わらないことにも、驚きと納得の両方を感じてしまいます。

そこで、映画化に合わせて、『閃光のハサウェイ』を中心に富野由悠季とその作品群・作風について解説するニコ生を行います。


ゲストとしてお友達の虹野ういろうさん(https://twitter.com/Willow2nd)をお迎えしてお送り致します。



〇藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄の作品評論・解説本の通販をしています

当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。

https://macgyer.base.shop/items/19751109


また、売り切れになっていた『大長編ドラえもん』解説本『大長編ドラえもん徹底解説〜科学と冒険小説と創世記からよむ藤子・F・不二雄〜』ですが、この度電子書籍としてpdfファイルを販売することになりました。

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合わせてお楽しみ下さい。




さて、今回のブロマガですが、前回の続きとして『進撃の巨人』について書かせて下さい。




●マスター・オブ・悪いアニキ

物語が進むと、「更なる悪いアニキ」として登場したジークに、メンター的な人物「トム・クサヴァー」がいたことが描かれます。


実の父親を陥れたジークにとって、真の「父親」的な人物なのですが……『進撃の巨人』を読み進めていくと、ジークによる両親の密告は、悩んだ末にクサヴァーの提案を受け入れたことによるものであったことが明かされます。

この時のクサヴァ―の台詞「両親は君を勝手に利用し見放した、愛さなかったのだ」は、クサヴァ―が実の両親にとって代わる存在であり、ジークが思想的な父親としてクサヴァーを自分の意思で選択したと同時に、ジークに心を奪われていったことを表しています。


このクサヴァ―が、明らかに町山智浩をモデルにしていることは有名です。


諌山創は、多くの漫画家と同じくラジオを聴きながら執筆しているそうなのですが、TBSラジオのハードリスナーであるそうです。

当初は、勝谷誠彦の右翼芸目当てで『ストリーム』を聴いていた諌山が、同じ番組で別曜日に出演しながら勝谷と思想的に対立していた町山に徐々に「心を奪われていった」こと、『失楽園』を引き合いに『ダークナイト』について解説したポッドキャストに影響を受けて「一生壁の中から出られなくても、メシ食って寝てりゃ生きていけるよ…でも、それじゃまるで家畜じゃないか」という台詞を書いたことを、吉田豪とのインタビューで語っています(『人間コク宝サブカル伝』収録)。

特に、後者については自分のブログ(http://blog.livedoor.jp/isayamahazime/archives/1137082.html)でも描いていて、町山による『ダークナイト』の解説では神に対して革命のような闘いを挑む主人公ルシファーの行動原理、(人間の)根源的な自由意志が「奴隷の幸福か、地獄の自由か」にまとめられるのですが、この「地獄の自由」はエレンの行動原理を最後の最後まで説明する重要なキーワードになります。


また、『漫画家、映画を語る。』では、町山智浩(やライムスター宇多丸)を信用する理由を語っています。

「ちょっと失礼な言い方になるかもしれませんが、まともな社会人じゃないところですかね(笑)。社会から逸脱していて、でも好きなものに対しては妥協しないところが信頼できます」


『進撃の巨人』の第二部では、エルディア人とマーレ人の民族衝突が大きなテーマとなります。第一部では「巨人との闘い」が実は「人と人との闘い」であることが描かれましたが、そこには民族・思想的背景があり、エルディア人の巨人化能力をマーレが世界支配のために利用する搾取構造があったわけです。このスケールの広がりが見事なのですが、諌山に「(ネット)右翼からの転向」という背景があったことに納得しつつ、そのキーマンとして諌山の頭の中には町山がいたわけです。


また、「社会からの逸脱」を理由として挙げていることも重要です。ケニーもジークも社会からの逸脱者です。ジークとエルヴィンは、物語の途中で革命を起こすことで社会からある意味で逸脱します。そしてエレンは、ある意味でのテロリストとなることで社会から逸脱します。

もっといえば、漫画家は社会から逸脱することで作品を創り上げる職業でもあります。

そういった意味では、「更なる悪いアニキにとっての悪いアニキ」として、トム・クサヴァー≒町山智浩が存在するわけです。


その後、町山智浩は『進撃の巨人』実写版の脚本を書きました。『進撃の巨人』完結までの展開を諌山に尋ね、まとめるような脚本にしたそうです。あまり評判の良くなかった実写版『進撃の巨人』ですが、少なくとも諌山は町山が脚本を書くことに感慨深い思いがあったことをあちこちで語っています。

『進撃の巨人』では、クサヴァ―がジークとキャッチボールをするシーンや、ジークがクサヴァ―のメガネを受け継ぐことが重要な意味を持って描かれます。

諌山創は、町山智浩と創作のキャッチボールを行い、社会から逸脱した重要な何かを受け継いだことを誇りとしているのでしょう。



●失楽園とテロ

それでは「社会から逸脱した重要な何か」とは何でしょうか?

これは、ジークとエレン、二人に共通の「敵」について考えてみれば、明らかになります。

 

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