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【第284号】『のび太の新恐竜』ともやウィン

2020/08/12 07:00 投稿

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マクガイヤーチャンネル 第284号 2020/8/12
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おはようございます。

暑くて暑くてもうやってられないマクガイヤーです。

梅雨が終わったら、全然雨が降らないことにもびっくりですね。




マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



○8月17日(月)19時~「『日本沈没2020』湯浅政明と小松左京の悪魔合体」

7/9よりNetflixで湯浅政明監督によるアニメ『日本沈没2020』が配信されています。

小松左京のSF小説『日本沈没』は「日本人とはなにか」をSFというフィールドで描いた名作ですが、これまで映画化・テレビドラマ化・マンガ化と、様々なメディアで語りなおされてきました。いずれの作品もその時々の「いまの日本」を描こうとしていました。

湯浅政明監督による『日本沈没2020』もこの系譜に則りつつ、『マインドゲーム』『夜明け告げるルーのうた』『DEVILMAN crybaby』などで披露した作家性が詰まった作品でもあります。

そこで湯浅政明のフィルモグラフィーと共にSFとしての『日本沈没2020』について解説するようなニコ生を行います。

ゲストとして声優の那瀬ひとみさん(https://twitter.com/nase1204)をお迎えしてお送り致します。



○8月31日(月)19時~「最近のマクガイヤー 2020年8月号」

詳細未定。

いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。



○藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄の作品評論・解説本の通販をしています

当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。

https://macgyer.base.shop/items/19751109


また、売り切れになっていた『大長編ドラえもん』解説本『大長編ドラえもん徹底解説〜科学と冒険小説と創世記からよむ藤子・F・不二雄〜』ですが、この度電子書籍としてpdfファイルを販売することになりました。

https://macgyer.base.shop/items/25929849


合わせてお楽しみ下さい。




さて、今回のブロマガですが、この連休中に観た『のび太の新恐竜』について書かせて下さい。ネタバレを含みますが、オトナはネタバレを頭に入れたまま観ても楽しい映画だと思います。


●日本映画界のメフェィストフェレス 川村元気

川村元気は日本映画界のメフェィストフェレスである――以前、そんなことをニコ生で言ったりブログで書いたりしました。

https://macgyer.hatenablog.com/entry/20161203/1480771805

簡単にまとめると、川村元気はクリエーターの魂と引き換えに興行的な成功を約束する悪魔的プロデューサーである、という見立て……いや、真実です。


そんな川村元気は、プロデューサー業以外にも小説家として作家活動をしているのですが、2018年に『ドラえもん のび太の宝島』の脚本を担当し、脚本家デビューしました。

『スターウォーズ』『007』といった、オリジネイターが喪われた後も何十年も続く人気シリーズの新作が作られる場合、セルフオマージュや引用が沢山ある作品になるのは仕方のないところです。オリジネイターが参加していないので、セルフオマージュや引用が分かり易い「正統性の証」になるのですから。むしろオトナの観客にとっては、セルフオマージュや引用が楽しみの一つになることもあるでしょう。

問題は、セルフオマージュや引用が「単なるサンプリング」にならず、一本の映画として面白いかどうかです。その観点からいうと、『のび太の宝島』は「単なるサンプリング」どころか、まるでAIを使って『大長編ドラ』の名場面を抜き出してつなぎ合わせたかのような映画でした。

https://ch.nicovideo.jp/macgyer/blomaga/ar1448341


だから、元気が再度脚本を務める『のび太の新恐竜』には全く期待していませんでした。コロナ禍で公開が延期される前は3月に公開予定であり、8月に山崎貴のCG映画『STAND BY ME ドラえもん 2』が公開予定だったので、2020年はドラえもんが二回もレイプされるのかと思っていたものです。



●前回の犯したミスを今回は犯さない優等生 川村元気

ところが、『新恐竜』を観て驚きました。『宝島』で気になっていた点のほとんどが、『新恐竜』では解消されていたのです。


まず、『宝島』で最も気になった「地球生体エネルギー」のような都合の良い疑似科学的エネルギーは出てきません。


また、近年のドラ映画に頻出する、クライマックスでの説教合戦や演説合戦はありません。『竜の騎士』のように悪役のいないお話です。ゲスト参加する木村拓哉や渡辺直美演じるタイムパトロールと敵対するかと思えば、『T・Pぼん』に出てくるチェックカードを上手く使い、事態を見守るしかないことを上手く説明しています。子供と一緒に劇場にくる親の視点を代表するキャラクターといってしまえばそれまでですが、『宝島』のシルバーの立ち位置が最悪だったことに比べれば、改善されているといって良いでしょう。


最大の改善点は、「創世記」と「箱庭」テーマの扱いです。

手塚治虫にとっての『ファウスト』や、石森章太郎にとっての「新人類」のように、藤子・F・不二雄にとって「創世記」はライフワークのようなテーマでした。そして、これを上手く扱うために「箱庭」という要素が頻出します(Fが模型作りが大好きだった、というのもありますが)。

『大長編ドラ』でも、『鉄人兵団』『竜の騎士』『アニマル惑星』『創世日記』などで、科学技術による知的生命体と文明の創世が描かれます。ドラえもんのひみつ道具を使って「箱庭」のように自分たちの王国を作る――今の(ゲーム)用語でいうところのクラフト要素とでもいうべきものは、ほぼ毎回出てきます。

そこには、「箱庭」内のキャラクターには魂があり、そこで生活し、時には成長さえしているという、明確な世界観があり、藤子・F・不二雄の自作品に対する価値観がある――という話は同人誌で書いたので、是非とも読んで下さい。https://macgyer.base.shop/items/25929849

ただ、『宝島』ではのび太が帆船を作るくらいしかクラフト要素が出てきませんでした。箱庭的王国やユートピアを作るのは、敵であるシルバーの方です。

この点が『新恐竜』では改善されています。「飼育用ジオラマセット」を使って恐竜王国を作るのは誰もがやりたいことでしょうし、この王国が最後の最後までキーアイテムとなるのも上手いです。『のび太の恐竜』と『竜の騎士』の合わせ技といってしまえばそれまでですが、Fの大事なところ――真髄や精神を引き継いでいるといって良いでしょう。まぁ、昨年の『月面探査記』における「創世記」と「箱庭」テーマの扱いが、上手いを通り越してFに対するアンサーソングのようになっていたので、大いに参考にしたのかもしれませんが。



●しかし凡ミスはする

Fの死以降のドラ映画でやられがちだった欠点はほとんどないのですが、本作独自のミスや、気になってしまう点が幾つかあります。


ドラ映画は日常から異世界や冒険への導入が重要です。思い返せば、『宝島』のそれも、インターネットで世界中のどこでもみれる時代に新島誕生のニュースとひみつ道具をかけあわせたり、夏休みの工作の延長のような感覚で帆船を作ったりと、導入部だけは上手かったです。

今回のそれも。『のび太の恐竜』を下敷きとしているせいか、かなり上手いのですが、タイムふろしきの使い方が間違っているところだけはミスしています。

具体的にいえば、卵の化石を孵化させるシークエンスで、タイムふろしきに包んだまま孵化するというのがおかしいです。

なんらかの原因で孵化しなかったからこそ化石になったのであって、一旦タイムふろしきで時間を逆行させて卵に戻した後は、普通の時間の流れで温めるなりなんなりして孵化させる必要があります。

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原作である大長編『のび太の恐竜』ではきちんと段階を踏んでいました。なんなら、のび太が卵を温めるという努力が、それだけ愛情を恐竜に注いでいるという演出にも寄与していました。

凡ミスといえばそれまでですし、時間移動が絡むとSFセンスの無い人はこういったミスをやらかしがちなのですが、脚本段階で誰か注意してあげられる人はいなかったのでしょうか。

特に今回は恐竜の生き残りが鳥であるとか、白亜紀の大気成分は現在と違うとか、最新学説に基づいた(とされる)物語がキモとなっているそうなので、余計に気になってしまいます。



●川村元気とセカイ系

また、これはミスというより気になってしまう点が、クライマックスにあるセカイ系的展開です。

自分が育てた恐竜キューとミューを白亜紀末期に戻しにきたのび太たちですが、白亜紀は白亜紀でも、あと数時間で隕石が落下し、恐竜が絶滅するというタイミングでした。

ここでのび太は、隕石落下を回避してでもキューとミューを守ろうとします。しかしそれは、恐竜絶滅を無かったことにすることであり、その後の地球の生命史を大幅に変える行為です。人類すら生まれてこないでしょう。

このことが原因で、本来の時間の流れを守ろうとするタイムパトロールたちと対立するわけですが、これは明らかにセカイ系的展開です。もっといえば、隕石落下を回避してヒロインを守ろうとした『君の名は。』や雨が降り続く世界になろうともヒロインの命を救う『天気の子』と同じ展開です。二作とも川村元気がプロデュースし、大ヒットした作品であることはいうまでもありません。

 

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