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【第243号】実写版『惡の華』に満足できない

2019/10/16 07:00 投稿

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マクガイヤーチャンネル 第243号 2019/10/16
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おはようございます。マクガイヤーです。

先日の台風で被害に遭われなかったでしょうか?

川が4本も通っている川越に我が家がある自分は気が気では無かったのですが、運よく無事でした。市内では冠水した地域もあるのですが、まったく他人事ではありませんね。




マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



○10月20日(日)19時~「インセクター佐々木presents モンスターハンターの博物学」

9月6日に『モンスターハンターワールド:アイスボーン』が発売されます。本作はモンスターハンター・シリーズの最新作『モンスターハンター:ワールド』の超大型拡張DLCになります。

そこで、モンスターハンターに詳しい友人のインセクター佐々木さん(https://twitter.com/weaponshouwa)をお迎えしてモンスターハンターシリーズの歴史や各タイトル、登場するモンスターのデザインやモチーフについて解説し、ゲームの魅力を紹介する放送を行います。昆虫だけじゃないよ!



○11月10日(日)19時~「最近のマクガイヤー 2019年11月号」

詳細未定。

いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。



○11月24日(日)19時~「引退間近!本当はスゴイ獣神サンダー・ライガー~新日本プロレスJr.ヘビー級の歴史~」

獣神サンダー・ライガーが引退する2020年1月が刻々と迫ってきました。

マクガイヤーチャンネルでは、声優の那瀬ひとみさん(https://twitter.com/nase1204)、現役医師で作家の景山Q一郎さん(https://twitter.com/q1projectq)をお迎えして、獣神サンダー・ライガーについて大いに語って頂く予定です。



○11月4日(月)昼にロフトプラスワンウエストでイベントやります

https://www.loft-prj.co.jp/schedule/west/130480

阿佐ヶ谷ロフトで好評を博した山田玲司とDr.マクガイヤーのトークイベントがついに関西初上陸。

過去三回行った「マイナー生物大バトル:エロい生物編」、「エロコンテンツバトル」、「“俺の嫁”バトル」、から選りすぐったネタに、新ネタも加えて、昼から熱いエロ話に華を咲かせます。

初めてのお客様も、常連さんも、ご期待下さい!



○藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本の通販しています

当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。

https://macgyer.base.shop/items/19751109



○『やれたかも委員会』に取材協力しました。

『やれたかも委員会』(https://note.mu/yoshidatakashi3/n/na63c34ee5adc)の「童貞からの長い手紙」に取材協力しました。単行本1巻分のエピソードになるそうです。

ちなみに基になったお話はこちら

https://ch.nicovideo.jp/macgyer/blomaga/ar1011063





さて、今回のブロマガですが、実写映画版『惡の華』について書かせて下さい。先日のニコ生でも話しましたが、ちゃんと文章にしておいた方が良いと思うのですよ。



●『惡の華』原作漫画と実写映画

映画『惡の華』が9/27より公開されています。本作は押見修造による同名漫画を原作としており、同日に同じく漫画を原作とする『宮本から君へ』も公開されることもあり、話題になっています。


原作漫画『惡の華』ですが、はっきりいって大好きです。現在、漫画にちょっと詳しい人であれば、押見修造を一作も読んでいないということはありえないでしょう。『惡の華』は、『デビルエクスタシー』『ユウタイノヴァ』といった作品で用いたファンタジーや超自然的要素を全く用いず、押見がテーマとする思春期のあれやこれやに真正面から挑んだ、傑作であり、代表作の一つといって良いでしょう。

様々な要素は押見の個人的経験を基にしているにも関わらず、「自分の生まれ故郷から出ていけない閉塞感」、「思春期に抱く、周囲の人間と自分とは絶対的に異なる感覚――すなわち自我と孤独」、「愛と肉欲とそれらを越えたなにか」……といった、普遍的なテーマに訴えかける力を持っています。中学生編と高校生編とで画のタッチ、コマ割り、作風を劇的に変えて、最後に「思春期に決着をつける」というテーマが立ち上ってくると共に、結局誰もヒロインである仲村さんの孤独を理解できなかったことを突き付けるラストには鳥肌が立ちました。

『このマンガがすごい!』にランクインしたり、文化庁メディア芸術祭で推薦されたり、テレビでは史上初の全編ロトスコープでアニメ化されようとして、志半ばで力尽きたりしたのも、納得できる作品です。


だから今回の実写映画化は、第一報を聞いた時から納得しかありませんでした。



●井口昇と岡田麿里

特に監督が井口昇というのが信頼できます。

『片腕マシンガール』以降、可愛い女の子を主人公としたサブカル要素濃厚なアクション映画を比較的低予算でサクっと作るようなイメージを抱く人も多いかと思うのですが、元々井口監督といえば『クルシメさん』『恋する幼虫』といった、押見漫画を先取りしたようなテーマの映画を作っていた監督でした。そして、それらの要素は美少女アクション映画にも確かに受け継がれていました。井口作品が他のチープなグラドルアクション映画と一線を画したものになっているのは、井口監督が自身のやむにやまれぬ思春期の思いを主役である美少女に託していたからでしょう。

映画秘宝11月号でも、「井口昇と大槻ケンヂと町山智浩がいなければ『惡の華』は無かった」というインタビューにて押見が井口から受けた影響と理想の監督による映画化であったことを語っています。


更に、脚本は岡田麿里が務めるというではありませんか。秩父に閉じ込められ「学校へ行けなかった」岡田麿里が、群馬県桐生市に閉じ込められ学校とお祭りでテロを起こす『惡の華』の脚本を務めるなんて、ばっちりすぎるくらいばっちりです。

この座組で実写映画化される『惡の華』は、おそらく傑作中の傑作になるのではないか、そんなことを考えながら公開日を待ちつつ、公開直後に観に行きました。



●漫画の実写映画化問題

漫画が実写映画化される際に問題となるのは、原作とイメージが全く異なってしまう場合があることです。たとえば『デビルマン』、たとえば『ドラゴンボール EVOLUTION』、いずれも最悪の実写映画化として名高いです。


しかし、ここで強調しておきたいのは、漫画と映画は異なるメディアであるということです。

更に、一から物語を創ったわけではない映画の作り手が、「自分ごと」として実写化に取り組めるかどうか、「やむにやまれぬ思い」を込められるかどうか、といった問題があります。


監督である押井守本人が「ただ絵がでかくて、時間が長いテレビアニメに過ぎなかった」と自省している『オンリー・ユー』の方が原作漫画である『うる星やつら』の要素を多く残していますが、現在映画として名作とされているのはその自省を活かしたものの原作から遠く離れた『ビューティフル・ドリーマー』の方です。

コミック版のヘルボーイは非モテではなく、ラブクラフト要素はほとんどありませんが、比較的原作通りに映画化したニール・マーシャル版『ヘルボーイ』よりもデル・トロ版二作の方が映画として優れています。

なによりも、映画の歴史を変えたといっていいMCU作品は、どれも映画化にあたって原作コミックから改変されています。原作ファンの期待を良い意味で裏切る形から、アメコミ映画のフリをしてシブいジャンル映画を創る形まで様々ですが、共通しているのは一本の映画作品として良いものを目指そうという姿勢です。



●キャストの問題

で、実際映画『惡の華』を観たのですが、ここではっきりさせておきたいのは、『惡の華』は、基本的にはよくできた映画であるということです。監督や脚本家にとっての「やむにやまれぬ思い」も十二分に詰まっています。


問題は、キャストです。

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ほとんどのキャストは凄く良いです。

玉城ティナは、美少女テロリストである仲村さんを実写化するなら彼女しかいないというキャスティングですし、主人公の春日を演じる伊藤健太郎は22才でありながら無垢な中学生から藤原竜也みたいな高校生までをしっかり演じ分けています。秋田汐梨は撮影時にリアル中学生だったそうですが、玉城ティナと対置するキャストとしてかなり良いです。

……ですが、飯豊まりえが常盤さんというのは、なんとかならなかったのでしょうか? 飯豊まりえは女優として実力があると思いますし、僅か15歳で演じたキョウリュウバイオレットの頃から凄いと思っていたのですが、常盤さん役はとうなのでしょうか?

や、正確にいえば、玉城ティナが仲村さんを演じるという前提において、飯豊まりえが常盤さんにキャスティングされるのが問題なのではないかということです。「青春に決着をつける」というのが『惡の華』の大きなテーマの一つです。主人公の春日が最終的に選ぶ女性である常盤さんは、仲村さんにどことなく似ている必要があります。

本作はアニメでは無いので、最悪、似てなくても構いませんが、本作の常盤さん――飯豊まりえは、悪いことに(どちらかといえば)佐伯さん――秋田汐梨に似ているのです。これは、最悪のキャスティングといって良いでしょう。


仲村さんと常盤さんはセットでキャスティングする必要があります。最高なのは姉妹――たとえば5年くらい前の広瀬すずと広瀬アリスなんて最高でしょう。広瀬すずなら、仲村さんも演じられるでしょう。今回、玉城ティナを仲村さんにキャスティングしたのならば、池田エライザあたりが最適だったのではないでしょうか?


もっといえば、たとえ飯豊まりえであっても、上の画像のように茶髪&ボブカットにして、仲村さんに近づけるようなメイクをすればまだなんとかなったかもしれません。しかし、本実写版の飯豊まりえは何故か黒髪&セミロングなのです。



●高校生編が何故存在するのか

もう一点、今回の実写映画版には、高校生編で描かれる内容が薄いという問題があります。

約2時間の映画として再構成するにあたり、中学生編と高校生編をきっちり二つに分けるのではなく、ポイントゼロであるお祭りを境に時制を前後して描くというのは大正解の構成でしょう(同日公開の実写版『宮本から君へ』も決闘を境にして同じような構成をとっていました)。中学生編で終わりにせず、ちゃんと高校生編も映像化したのも、「思春期に決着をつける」という『惡の華』のテーマをよく理解しているのだと思います。

 

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