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マクガイヤーチャンネル 第140号 2017/10/11
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おはようございます、マクガイヤーです。


前回の放送「がんと免疫療法とがんサバイバー」は如何だったでしょうか?

那瀬さんの的確な質問もあり、分かり易い回になったのではないかと思います。

久しぶりの科学解説回で肩に力が入ったせいか、放送後に白衣に滲んだ脇汗の多さに驚いたりもしました。

とりあえず、「代替療法はだいたい死ぬ」だけでも覚えて帰って貰えれば、こんなに嬉しいことはありません。



マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。


○10月21日(土)20時~

「最近のマクガイヤー 2017年10月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

詳細未定



○11月前半(日程未定)20時~

「ジャスティス・リーグのひみつ」

11月23日よりDCエクステンデッドユニバース(DCEU)の新作であり、期待の大作映画でもある『ジャスティス・リーグ』が公開されます。

しかしこのDCEU、前作である『ワンダーウーマン』はヒットしたものの。ライバルであるMCUに比べて勢いがありません。それどころか、テレビドラマやカートゥーンでのDCコミックス映像化作品に比べても元気がありません。

そこでこれまでのDCコミック諸作品を振り返りつつ、映画『ジャスティスリーグ』やDCEUの今後について占いたいと思います。

果たしてグリーンランタンや、マーシャン・マンハンターや、はたまたブノワビーストは出るのか?

ブースター・ゴールドやプラスティックマンの登場まで、暗い夜と光線技アクションシーンの我慢を強いられるのか?

ジョス・ウェドンは独占禁止法に違反しないのか

……等々、ジャック・カービーやニューゴッズの話題も交えつつ、様々なトピックで盛り上がりたいと思います。




さて、今回のブロマガですが、科学で映画を楽しむ法 第5回として書いている「『大長編ドラえもん』と科学」その7になります。

(基本的に、藤子・F・不二雄が100%コントロールしていると思しき原作漫画版についての解説になります)。



『のび太と雲の王国』

『のび太と雲の王国』は、ファンの間でも評価の割れる作品です。

自分は、老いと病気のためにクリエーターとしての力の落ちた藤子・F・不二雄が、それでも力を振り絞って書き上げた秀作なのではないかと考えています。

特に、終盤の安全保障と、それが内部的問題から破綻を迎える展開は秀逸です。


まず冒頭、いつものようにスネ夫とジャイアンに馬鹿にされたのび太は、自分なりに「雲の上の世界」について調べます。

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「たとえば……。

遠い昔、天上人に出会ったという日本人の記録がある。」

「まさか!?」

(中略)

「なんだ『羽衣伝説』じゃないか」

「古代中国にも記録があるんだ。

あの有名な孫悟空も天国で役人をしてたんだぞ。」

「ヨーロッパの天上界では巨人がいたといわれるし……。」


つまり、歴史的認識について説明しつつ、ここで元ネタ解説をやっているわけですね。

これに対して、ドラえもんが夢も希望も無いことを述べます。

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「気象衛星がとらえた雲の姿だよ」

「ほかにも何百という監視衛星が地球のすみからすみまでみはっているんだ。」

「世界中にレーダーがあってミサイル一発もみのがさない」

「もし、天国なんかあればとっくに発見されてるはずだよ。」


ですが、ここが出発点となるわけです。毎度のことながら、前提となる知識を小学生にも分かり易く解説しつつ、物語を転がす動機とする藤子・F・不二雄の手腕は今回も冴えわたっています。


雲を加工して自分たちの好きなように「王国」を作るというクラフト要素はいつもながらに楽しいですし、仲間から王国建設のための出資金を募って「株式王国」にするというアイディアも面白いです。大株主であるはずのスネ夫が王様になれずに邪険にされるというのもギャグとして楽しめます。


問題点は、『アニマル惑星』と同じく、強く環境保護を訴えようとするあまりに説教臭さが強すぎることです。

雲の上にクリーンエネルギーを駆使したユートピア「天上連邦」を運営している「天上人(と呼ばれる人間)」たちが存在しつつも、彼らは地上からの公害で人口が減少し続けており、表向きはのび太たちに友好的な態度をとりつつも、本当は地上人を憎んでおり、「ノア計画」というかなり残酷な方法で地上の文化を一掃しようとしている……という設定は、子供向け作品としてはよくできた部類に入ると思います。

本作のプロットは『竜の騎士』とほとんど同じなのですが、『竜の騎士』の恐竜人たちが外見は異形ですが話し合えば分かる知的種族として描かれていたのに対し、本作の天上人は地上人と同じホモ・サピエンスにも関わらず、地球を汚染する地上人たちを心底憎んでいるのです。グリーンピースやシーシェパードのような、過激な環境保護団体を思い起こさせます。

天上人たちは雲の上に絶滅危惧種を引き上げて保護することに力をいれているとか、既に宇宙人たちと外交関係を結んでいるというのも面白いのですが、問題はこの中にドンジャラ村のホイやキー坊のような、過去の『ドラえもん』にゲストとして登場したキャラクターたちがいることです。『ドンジャラ村のホイ』『さらばキー坊』『モアよドードーよ、永遠に』も、乱開発と環境破壊(と動植物の絶滅)についてテーマとしていた短編だったのですが、これらが一挙にまとめられて、最後に『さらばキー坊』と同じ裁判シーンでまとめられると、『ドラえもん』内スーパー環境破壊大戦というか、ものすごい説教臭さを感じてしまうのです。



とはいうものの、終盤の展開は秀逸です。

天上連邦に軟禁されるも、逃げ出すことに成功したのび太とドラえもん。天上連邦と交渉してノア計画を中止させるために、ドラえもんは「雲もどしガス」を用意します。固体化した雲を普通の雲にもどすガスなのですが、天上連邦はこの固体化した雲を国土として使っているため、天上人相手には恐るべき破壊兵器となるのです。

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「そんならんぼうな!」


とのび太は反対するのですが、これに対するドラえもんの説明が秀逸です。


「ほんとにつかうつもりはないんだ。

こっちの切り札としておどかすだけだよ。」

「力には力だ。

話し合おうと思っても 天上人とつりあうだけこっちも強くしないと 相手にされないだろ。」


つまりこれは、冷戦下の核抑止理論や、現在北朝鮮が核兵器と長距離弾道ミサイル発射能力を持とうとしている理由とまったく同じことをドラえもんは述べているわけです。「雲もどしガス」をガスタンクに繋いだ砲塔から発射できる兵器として描いているのも、隠喩の分かりやすさを示しています。

まさかドラえもんが「力には力だ」なんて台詞を言い放つ日がくるとは思いませんでしたが、これがオリジネイターたる藤子・F・不二雄の恐ろしさです(藤子・F・不二雄の亡き今、ギャグではなくシビアでシリアスな状況下でドラえもんにこのような台詞を吐かせることは難しいでしょう)。


この安全保障体制は、のび太たちから「雲もどしガス」を奪って実際に発射してしまう地上の密猟者――矮小化され寓意化された「悪人たち」のせいで破綻します。

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「あんなものだしたのが悪かった

ぼくの責任だァ!!」

と泣きながら「雲もどしガス」のタンクに特攻するドラえもんの姿は、作者のメッセージが溢れています。つまり、ドラえもんの「自殺」でしか事態を収拾できないほどの悲劇、ということを意味しているのです。核兵器(大量破壊兵器)を相互に持ち合うことによる抑止力と安全保障の仕組みは、それに携わる人間が愚かだったら、すぐに破綻してしまうのです……なんてことは、トランプと金正恩のチキンゲームにつきあわざるをえない2017年を生きている我々にとっては、笑えない話ですよね。