おはようございます、マクガイヤーです。
諸事情がありまして、ブロマガの更新が遅れました。
といっても、自分が書くのが遅れたわけではありません。
……ろくでなし子の気持ちが分かります。
マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。
○9月23日(土)20時~
「最近のマクガイヤー 2017年9月号」
・『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』
その他、いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします
○10月7日(土)20時~
「がんと免疫療法とがんサバイバー」
現在、日本人の死因第一位は悪性新生物――すなわちがんです。
がんの治療法としては、これまで手術、放射線療法、化学療法が3本柱とされてきました。
近年、新たな柱として注目されているのががん免疫療法です。免疫療法といえば、怪しい治療法がまかり通っていましたが、免疫チェックポイント阻害剤の劇的な効果がイメージを一身しました。
そこで、がんと免疫療法の歴史とメカニズムについて2時間じっくり解説する放送を行ないます。
渡辺謙、宮迫博之といったがんサバイバーはなぜ不倫するのか問題にも触れたいところです。
○10月28日(土)20時~
「最近のマクガイヤー 2017年10月号」
いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
詳細未定
○11月前半(日程未定)20時~
「ジャスティス・リーグのひみつ」
11月23日よりDCエクステンデッドユニバース(DCEU)の新作であり、期待の大作映画でもある『ジャスティス・リーグ』が公開されます。
しかしこのDCEU、前作である『ワンダーウーマン』はヒットしたものの。ライバルであるMCUに比べて勢いがありません。それどころか、テレビドラマやカートゥーンでのDCコミックス映像化作品に比べても元気がありません。
そこでこれまでのDCコミック諸作品を振り返りつつ、映画『ジャスティスリーグ』やDCEUの今後について占いたいと思います。
果たしてグリーンランタンや、マーシャン・マンハンターや、はたまたブノワビーストは出るのか?
ブースター・ゴールドやプラスティックマンの登場まで、暗い夜と光線技アクションシーンの我慢を強いられるのか?
ジョス・ウェドンは独占禁止法に違反しないのか
……等々、ジャック・カービーやニューゴッズの話題も交えつつ、様々なトピックで盛り上がりたいと思います。
さて、今回のブロマガですが、科学で映画を楽しむ法 第5回として書いている「『大長編ドラえもん』と科学」その4として、『のび太と鉄人兵団』の解説になります。
(基本的に、藤子・F・不二雄が100%コントロールしていると思しき原作漫画版についての解説になります)。
●大長編ドラ史上一、二を争う傑作
ある日、スネ夫から従兄弟に作ってもらったロボット「ミクロス」を自慢され、羨ましくなったのび太、いつものようにドラえもんに泣きつきます。コストを考えないのび太のおねだりと夏の暑さに耐え切れなくなったドラえもんはどこでもドアで逃避しますが、それを追いかけたのび太は北極で巨大なロボットの足と、超空間を通じてロボットのパーツ送付を誘導する装置らしきものを発見します。
次々と送られてくるパーツを、ドラえもんが用意してくれた鏡面世界で組み立て、遂に巨大ロボット「ザンダクロス」が完成します。しずかちゃんも加わり、誰にも迷惑がかからない鏡面世界で巨大ロボットを乗りまわして遊びまくるのび太たち。
ところが、ザンダクロスは地球侵略の尖兵として、知性にあふれたロボットたちが棲むメカトピア星の鉄人兵団から派遣された土木工事用ロボットでした。共に派遣された少女型スパイロボットであるリルルはザンダクロスを回収し、鏡面世界で前線基地を建設しはじめます。のび太とドラえもんはジャイアンやスネ夫と協力し、鉄人兵団の地球侵略に対抗しようとする……というのがあらすじです。
・侵略SFものとしての完成度
・ロボットものとしての迫力
・ゲストヒロインとしてのリルルの魅力
・そのリルルと交流するしずかちゃんの魅力
……このような魅力がたっぷり詰まった本作は、大長編ドラえもんに関するアンケートを行なえば『のび太の魔界大冒険』と共に必ず上位に食い込む名作とされています。
というか、はっきり書きますが、自分は本作を大長編ドラ史上の最高傑作だと考えています。
大長編ドラえもんも本作でもう7作目、藤子・F・不二雄としては少年少女が異世界で冒険を繰り広げてちょっとだけ成長するというサマーストーリーにマンネリを感じていたのでしょう。本作は、血沸き肉踊る異星人侵略ものの皮をかぶりつつ、その実際は、藤子・F・不二雄の文明・歴史・戦争観がスパークしたり、「世界の終わり」としての黄昏が描かれたりする、ガチSFだったりします。
本作には他の大長編ドラえもんと同じく、下敷きとなる作品があります。
火星人の侵略を描いた海野十三の『火星兵団』です。
タイトルで既に元ネタを明かしているわけですが、
・舞台が現代(当時)であること
・火星人たちは人間をどれい化ならぬ家畜化するために侵略してくること
・蛸のような姿を持つ火星人たちは、地球侵略にあたってロボットに乗り込んでいること
・人間に変装した火星人が主人公である少年から情感を学ぼうと交流すること
……といった点が、『鉄人兵団』との共通点として挙げられます。
『宇宙開拓史』が『火星のプリンセス』を、『海底鬼岩城』が『海底二万里』を下敷きにしていたように、『鉄人兵団』は『火星兵団』を下敷きにしているわけです。
『火星兵団』は1939~40年にかけて小学生向け新聞に連載された小説です。藤子・F・不二雄は1933年生まれであり、ほぼリアルタイムで『火星兵団』を呼んでいたはずです。
(ちなみに、海野十三作品は青空文庫で読めます)
●海野十三
海野十三は日本におけるSF作家の元祖とも呼べる存在で、H.G.ウェルズや江戸川乱歩に強く影響された小説を書いていました。火星人や宇宙船等の超科学的ガジェット(当時は「奇想天外」と呼ばれました)が登場すること、時にエログロ極まりない出来事やものごとが出てくることなどが共通点です。手塚治虫も星新一も小松左京も石ノ森章太郎も、少年時代に読んだ海野十三のSF小説に影響を受けたことを公言しています。松本零士に至っては、ヤマトの初代艦長の名前(沖田十三)として引用することで、最大限のレスペクトを払っています。
ただ、大きな違いとしては、軍事小説も書いていたこと、徹底した前向きさがあることなどが挙げられるでしょう。
たとえば『火星兵団』の単行本におさめられた「作者の言葉」では、こんなことを書いています。
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皆さんもよく御承知のとおり、いまや全世界は、二つに分れて、世界戦争を始めかけています。今度の大戦は、どっちかを完全に叩きのめしてしまうまでは、やめにならないでしょう。そして勝敗いずれかの鍵は、民族的精神の強弱と、そしてもう一つは、科学力の強弱にかけられていると申してもよろしいのです。
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この文章は、書かれた時期が太平洋戦争開戦の数ヶ月前であること、海野十三は海軍との結びつきが強く、従軍作家を海軍情報部に推薦する立場にあったこと、その後自身も従軍作家(海軍報道班員)として青葉に乗艦したことなどを考え合わせなければなりません。
というのは、その4年前、1937年に書かれた『地球盗難』の「作者の言葉」には、こんなことを書いているからです。
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ところが今や世はあげて、科学隆興時代となり、生活は科学の恩恵によって目まぐるしいまでに便利なものとなり、科学によって生活程度は急激なる進歩をもたらし、科学に従事し、科学に趣味をもつ者はまた非常に多くなってきた。しかも国際関係はいよいよ尖鋭化し、その国の科学発達の程度如何によってその国の安全如何が直接露骨に判断されるという驚くべくまた恐るべき科学力時代を迎えるに至った。科学に縋らなければ、人類は一日たりとも安全を保証し得ない時代となった。(中略)いよいよ戦争の蓋をあけてみると、いかに意外な新科学兵器が飛び出してくるか、実に恐ろしいことである。開戦と同時に、戦争当時国は手の裡にある新兵器をチラリと見せ合っただけで、瞬時に勝負の帰趨が明かとなり即時休戦状態となるのかもしれない。勝つのは誰しも愉快である。しかし若し負けだったら、そのときはどうなる。世界列国、いや全人類は目下科学の恩恵に浴しつつも同時にまた科学恐怖の夢に脅かされているのだ。
このように、恩恵と迫害との二つの面を持つのが当今の科学だ。神と悪魔との反対面を兼ね備えて持つ科学に、われ等は取り憑かれているのだ。斯くのごとき科学力時代に、科学小説がなくていいであろうか。否! 科学小説は今日の時代に必然的に存在の理由を持っている。
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海野は戦争末期から戦後まで、日記をつけていた時期があります。死後に『海野十三敗戦日記』として出版もされています。ここには、戦争の行く末にわりあい楽観的な展望を抱いていた海野が、東京大空襲を目の当たりにして認識を変え、終戦にショックを受けたさまが記されています。
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降伏を選ぶか、それとも死を選ぶか? とトルーマンは述べているが、原子爆弾の成功は、単に日本民族の殲滅にとどまらず、全世界人類、否、今後に生を得る者までも、この禍に破壊しつくされる虞(おそ)れがある。この原子爆弾は、今後益々改良され強化される事であろう。その効力は益々著しくなる事であろう。
戦争は終結だ。
ソ連がこの原子爆弾の前に、対日態度を決定したのも、うなずかれる。
これまでに書かれた空想科学小説などに、原子爆弾の発明に成功した国が世界を制覇するであろうと書かれているが、まさに今日、そのような夢物語が登場しつつあるのである。
ソ連といえども、これに対抗して早急に同様の原子爆弾の創製に成功するか、またはその防禦手段を発見し得ざるかぎり、対米発言力は急速に低下し、究極に於いて日本と同じ地位にまで転落するであろう。
原子爆弾創製の成功は、かくしてすべてを決定し、その影響は絶対である。
各国共に、早くからその完成を夢みて、狂奔、競争をやってきたのだが、遂にアメリカが第一着となったわけだ。
日本はここでも立ち遅れと、未熟と、敗北とを喫したわけだが、仁科(※芳雄。原子核の研究に取り組み、理化学研究所に日本初のサイクロトロンを建設した物理学者)博士の心境如何? またわが科学技術陣の感慨如何?
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広島に落とされた「新型爆弾」が原子爆弾であることを察知し、敗戦を覚悟した海野は、一家心中まで決意します。
海野は、特定のイデオロギーを持っていたわけではありません。時に軍に寄り添い、時に大衆に寄り添い、自分が書きたいテーマを人々に最大限受け入れられる形で書いてきた大衆作家です。ただ、彼が一貫して主張してきたものは、科学の普及と発展の大切さと、日本――つまり「われわれ」が科学的に出遅れた場合に陥るであろう苦境についてでした。
このような海野の戦争や科学に対する認識が、著作を通じて海野の世界観に触れた手塚治虫や星新一や小松左京や石ノ森章太郎や、そして藤子・F・不二雄に影響を与えていないわけがありません。
特に『鉄人兵団』における侵略ものとしてのハードさやシリアスさ、戦争や文明に対する認識には、それがよく現れています。
●破壊兵器としての巨大ロボ
『鉄人兵団』でまず目を惹かれるのは、巨大ロボで遊ぶ面白さです。
巨大ロボなんて現実には存在しませんが、超空間から送られてくるパーツをタケコプター(と「かるがる手袋」)を使って飛びながら組み立てるさまは、実物大プラモデルをつくりあげる楽しさに満ち満ちています。『大あばれ、手作り巨大ロボ』に登場するタイタニックロボを引き継いだ描写なのですが、何故お台場の実物大ガンダム立像にあれだけの人が集まるのか、何故ガンダムの撤去やユニコーンガンダムの建設時にいつも以上に大勢の人が集まるかが良く分かります。
巨大ロボ ザンダクロスのデザインも実に良いです。アシスタントを務めていたたかや健二が百式をモデルにデザインしたことは有名な話ですが、シャープな百式が、藤子・F・不二雄(と藤子プロ)の手で骨太に作画され、トリコロールカラーも相まって実に味わい深いデザインとなっています。HG百式を改造してザンダクロスを作ろうとしたら、手を入れなければならない箇所が多すぎてフルスクラッチになったというのは良く聞く話です。この後登場する鉄人兵団のロボットと全くデザインラインが異なるのは意図的なものでしょう。
誰にも迷惑をかけない鏡面世界で、ザンダクロスに乗って遊びまくる楽しさも面白いですが、ここでさりげなく重力場コントロール技術についての説明がなされます。
本当に巨大ロボットに乗ったらパイロットはミンチになってしまう――というのは柳田理科雄が良く扱うネタですが、これに対する説明であると共に、ザンダクロスが地球よりもはるかに科学的に進んだ世界から送られてきたことを示す、良い描写です。そもそも、こんなに大きな巨大ロボがこんなに動けるように作れる金属は存在しないのですが、そこも重力場をコントロールすることで成立させているのでしょう。
で、三人は、それまで楽しく遊んでいたザンダクロスには、破壊兵器としての秘められた力があったことに恐怖するのですが、これも実に良い描写です。後に土木工事用ロボであるとの説明がなされるのですが、原作も映画も、明らかに大量破壊兵器として描写されています。『アイアン・ジャイアント』や『風立ちぬ』を例に出すまでも無く、そもそも男子の心がときめく物体は、心行くまで弄って遊びたおせるメカニックとしての魅力と、人殺し機械としての背徳感を、同時に備えているものと相場が決まっているのです。
●異星人侵略ものとしての出来のよさ、という仕掛け
ザンダクロスを持ち主であるリルルに返したものの、どうみても普通の人間ではないことから、不安でたまらないのび太。
本作ののび太は、通り一遍の思考しかできないミクロスを言葉遊びでやりこめたり、勝ち目の見込みのない決戦前に「0点しかとれないテストを受ける前の気持ち」を例に出したりと、かなり知性的でクールです。まるで、本作に登場しない出木杉くんが半ば乗り移ったかのような感もあります。
これを埋めるためか、本作ではコメディリリーフとしてミクロスが大活躍します。物語を終結に結びつける一言まで口にするミクロスは、誰しもが認める名脇役でしょう。関係ないですが、ミクロスはグルーンやヘルムヴィーゲ・リンカーに似てますね。
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