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マクガイヤーチャンネル 第129号 2017/7/26
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おはようございます。マクガイヤーです。

子供たちが夏休みに突入し、羨ましいことこの上ないです。学生のうちに、もっと夏休みを楽しんでおけば良かったなあ……と後悔しながら働いております。


過去に放送しました

マクガイヤーゼミ 第12回「『食人族』と科学からみたカニバリズム」


がニコニコニュース公式で記事化されました。

http://originalnews.nico/35179

今後も定期的に記事化されるようです。



マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。


○7月29日(土)20時~

「最近のマクガイヤー 2017年7月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

お題

・ジョージ・A・ロメロ追悼

・最近のガンプラ『今日で捨てましょう』

『ライフ』

『仮面ライダ―アマゾンズ season2』

『カリギュラ』

『カーズ/クロスロード』

『ジョン・ウィック:チャプター2』

『パワーレンジャー』

『めしにしましょう 3』

『僕達の魔王は普通 1』

『SDガンダム デザインワークス』


その他、気になった映画や漫画や時事ネタなどについてお話しする予定です。



8月12日(土)20時~

「しあわせの『ドラゴンクエスト』」

7/29に『ドラゴンクエスト』シリーズ久しぶりのナンバリングタイトルにして非オンラインタイトル『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』が発売されます。

『ドラクエ』といえば「国民的ゲーム」の冠をつけられることが多いですが、『ポケモン』『妖怪ウォッチ』『マインクラフト』といったゲームを越えたコンテンツが席巻し、ゲームといえば携帯ゲームである現在、事情は変わりつつあるようです。

そこで、これまでの歴代作品を振り返りつつ、ドラゴンクエストの魅力に迫っていきます。

アシスタントとして、声優の那瀬ひとみさんが出演して下さいます。


https://twitter.com/nase1204



8月26日(土)20時~

「最近のマクガイヤー 2017年8月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。

詳細未定



○9月2日(土)20時~

「諸星大二郎、その魅力(仮)」

手塚治虫に「きみの絵だけは描けない」と言われ、宮崎駿に「大好きです」とリスペクトされ、エヴァやハルヒやもののけ姫や諸星あたるの元ネタにもなった唯一無二の漫画家、諸星大二郎。

民俗学や考古学からクトゥルフ神話までを自在に扱いこなし、怪奇・SF・ファンタジー漫画の名作を何作も描いてきた諸星大二郎の魅力を、2時間たっぷりと語りつくします! 

アシスタントとして、久しぶりに編集者のしまさんが参加してくれます。


みんなぱらいそさいくだ!




さて、今回のブロマガですが、科学で映画を楽しむ法 第5回として書いている「『大長編ドラえもん』と科学」その2……というか、『のび太の魔界大冒険』の解説になります(基本的に、藤子・F・不二雄が100%コントロールしてると思しき原作漫画版についての解説になります)。


この『魔界大冒険』、ゲストキャラクターとして初めて年上女子ヒロイン――美夜子さんが登場し、魔界での手に汗握る大冒険が繰り広げられる『鉄人兵団』と並ぶ屈指の人気作なのですが、『大長編ドラえもん』の要素が出揃った作品でもあると思うのですよ。



●『のび太の魔界大冒険』:魔法と科学

いつものようにママに怒られ、野球でミスをし、すっかり現実に嫌気がさしたのび太くん。魔法が使える世界の空想をしていたのですが、ドラえもんにもしずかちゃんにも笑われ、出木杉くんに相談にいきます。

ここでの出木杉君の説明が奮っています。


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「べつにわらわないよ。

魔法も昔はちゃんとした学問として研究されていたんだから」


「ほんと!?」


「昔の人びとは、世界は人間以上の大きな力で動かされていると考えた。

神とか、悪魔とか、精霊とか。


かれらはその大きな力が自分たちになにを与えようとしているのか、

幸福か……災いか……、

それをしりたいと思った。

大きな力を味方につけたいと考えた。


古代バビロニア人は「占星術」を発明した。

星の動きで運命を占おうというわけだ。

これが現代の天文学の基礎になったんだよ。


「錬金術」なんて学問もあった。

ほかの鉱物を金にかえる術だ。

成功はしなかったが、さまざまな実験が化学の進歩に大きく役だったんだ。


だから科学も魔法も根は一つなんだよ」


……と、「科学」と「魔法」の起源が一緒であることを説明します。


これは『のび太の恐竜』に引き続いて、ものすごく分かりやすい科学史の説明でもあります。

出木杉くんがいう「大きな力」というのは、すなわち「自然の力」のことです。

自然の力を学び、味方につけ、自分たちの力とするために自然科学が発達したわけです。



「じゃ、どうして魔法だけすたれちゃったの?」


というのび太の質問にも


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「魔法ってのは悪魔の力をかりる術だと思われたんだね。

神にそむく学問ということになったんだ。


一五世紀から一七世紀まで、徹底的な魔女狩りがおこなわれた。

魔法を使った者、使ったとうわさされた者をかたっぱしから捕え、拷問し、死刑にしちゃったんだ。

それと、あとから発達した科学が、それまでの迷信のウソを徹底的にあばいてしまった。で、魔法は息の根をとめられたってわけ。」


……と、すらすら語る饒舌さです。

出木杉くん、小学生のくせに「古代バビロニア」とか「錬金術」とか知ってるだけでもすごいのに、のび太の本質的な質問にも歴史や科学史を俯瞰してきっちり答えられるなんて天才かよ! ……という出木杉くんのすごさについては後述しますね。


「神にそむく学問なので排斥された」という部分は、自然科学も同じです。ガリレオは宗教裁判で有罪となり、プロテスタントの半分くらいはビッグバンも進化論も未だ認めていません。

「科学」が生き残ったのは、「魔法」と比較して合理的な説明が可能だからだったからです。


では、「魔法」も合理的な説明が可能な自然現象だったとしたら?

のび太はもしもボックスを使い、「科学」の代わりに「魔法」が発達した世界を実現します。

しかし、「魔法」が発達した世界は、苦労せずなんでも思い通りに実現できる世界などではなく、魔法を使うにも勉強や努力や高価な道具が必要な、「科学」が「魔法」にそのまま置き換わったような世界だったのです。


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「魔法もろくに使えないようじゃ、一流の大学や会社へ入れませんよ!」

……というママのお説教が爆笑です。



このような<「科学」の代わりに「魔法」が発達した世界>という世界観は、過去に様々なSF作品で扱われてきました。

最初期のもので有名なのは、異世界に住む妖精や精霊の力を引き出せる「魔法使い」がビジネスに魔法を活用している世界を描いたハインラインの『魔法株式会社』でしょう。


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他にも、ポール・アンダースンの『大魔王作戦』やハリイ・タートルダヴの『精霊がいっぱい!』なども同じような世界観を描いています。また、『魔法の国が消えていく(ウォーロック)』シリーズでは初めて「マナ」という形で消費されて枯渇するエネルギーとしての魔力が描かれました。この「数値化可能な魔力」という概念は、ロールプレイングゲームにおける魔力――マジックポイントの発想の源といって良いでしょう。


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『のび太の魔界大冒険』も、


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……という、科学技術がそのまま魔法に置き換わったような製品のCMが面白いです。

世界観の説明という意味では『ロボコップ』『スターシップ・トゥルーパーズ』に似ていますね。



●『のび太の魔界大冒険』:オマージュと引用

劇中、魔界の生態系や地理、大魔王デマオンの弱点を記した書物として、ナルニアデスの『魔界暦程』という本が出てきます。

『魔界暦程』はジョン・バニヤンの『天路歴程』に由来しています。『天路歴程』は一人のクリスチャンが妻子を棄てて巡礼の旅に出る冒険物語です。クリスチャンが人生で経験するであろう葛藤や苦難を通じて理想の姿に近づいていくさまを聖書のオマージュ―-というか、聖書に書かれた要素を解体・再構築して書かれています。道徳や教訓を伝える寓意物語として書かれており、いま読むとかなり説教くさいのですが、主人公が旅に出て成長する冒険物語としてよくできており、イギリス近代文学の基礎となったり、アメリカに渡った清教徒に大きな影響を与えたりしました。

『魔界大冒険』における、魔界に入ってからの冒険――南極の寒さ、危険な人魚やクジラ、海岸沿いの悪魔の港町、帰らずの原、魔界の猛獣がウヨウヨすむ森……といった冒険は、どことなく『天路歴程』におけるそれを連想させます。『ドラえもん』は当初ドタバタ生活ギャグマンガとして描かれましたが、『大長編ドラえもん』(それも特に後期)では、寓意物語という点が図らずしも共通しています。


「ナルニアデス」は、『ナルニア国物語』からとられています。『ナルニア国物語』は『天路歴程』から大きな影響を受けており、同じく聖書に書かれた要素を解体・再構築した冒険物語です。映画化もされましたね。DVDのパッケージでデカい顔をしてるライオンが、キリスト的な救世主・指導者・受難者としての役割を担っています。

『大長編ドラえもん』と『ナルニア国物語』は、数々の冒険・SF小説を解体・再構築した冒険物語という点で共通していますが、なによりも、非日常である異世界への入り口が日常にある点が同じです。ナルニア国への入り口は、衣装ダンスだったり帆船の絵だったりするのですが、これが、机の引き出しや畳の下やどこでもドアやとりよせバッグやもしもボックスが非日常への入り口であるという『ドラえもん』に影響を与えていないわけがありません。「ナルニアデス」というネーミングには藤子・F・不二雄のリスペクトを感じてしまいます。


その他、細かいネタ元を書けば

・魔法のじゅうたんは千夜一夜物語

・メジューサはギリシャ神話

・チンカラホイはちんから峠

・北風のテーブルかけはノルウェー民話

・魔王の城はカッパドキアの遺跡

……からとられています。

ここにも解体・再構築があるというか、パロディ精神があるわけですね。



●『のび太の魔界大冒険』:ヒロインとのロマンスの回避

普通の感覚で『魔界大冒険』を観た場合、どうしても気になってしまうのは、のび太と美夜子とのロマンスが徹底して回避されている点です。

『大長編ドラえもん』は冒険小説を下敷きにしていることもあり、物語の大枠は教養小説(ビルドゥングスロマン)に典型的な「行きて帰りし物語」として作られています。「行きて帰りし物語」にヒロインとのロマンスは必ずしも必要ありませんが、もしあるのならば、主人公が勇気を発揮したり、努力を重ねたり、一歩踏み出したりした結果、その褒章のような形としてヒロインの心や肉体が手に入る……というのが定型です。


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劇中、のび太は美夜子さんを置きざりにして逃げることとなります。

「いくらぼくでも女の子をおきざりにしてにげられるか!!」

と主人公らしいことを言うのですが、逆に説教される格好悪さです。


この後、のび太の活躍で大魔王を倒す方法が分かり、無事に美夜子さんを救うことができた……となれば、美しい話になりますが、そうではありません。

のび太はドラえもんや(伏線ゼロで登場する)ドラミちゃんの徹底したサポートを受けるのです。

タイムマシンでもしもボックスを使う前に戻るのも、

タイムふろしきで石化した身体を直してもらうのも、

ほんやくコンニャクで魔界暦程を解読し大魔王の弱点をみつけるのも、

全てドラえもんやドラミちゃんのおかげです。

問題解決のためにドラやドラミの道具を使わせてもらうだけではなく、問題解決の発想そのものがドラやドラミのおかげという点で、のび太は何の役にも立っておらず、発揮したり、努力を重ねたり、一歩踏み出したりしていないのです。