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マクガイヤーチャンネル 第122号 2017/6/5
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前回の放送「俺たちの『コブラ』」はいかがだったでしょうか?

久しぶりにナオトさんに出演して頂きましたが、ナオトさんは自分よりも『コブラ』の元ネタに詳しく、充実した放送になりました。




マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。


○6月24日(土)20時~

「サバイビング・ジブリ ジブリ・サバイバーとしての米林宏昌と『メアリと魔女の花』予想」

7/8より元スタジオジブリ現スタジオポノックの米林宏昌監督による期待の新作『メアリと魔女の花』が公開されます。

米林監督といえばカオナシのモデルで有名ですが、「麻呂」という仇名をつけられつつも、後進を育てられないことで有名なスタジオジブリで『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』という長編作品をしっかり形にして発表できた稀有な監督でもあります。

そしてこの二作には、あまり知られていませんが、スタジオジブリについてのメタ的な意味が込められてもいるのです。

そこで、『借りぐらしのアリエッティ』、『思い出のマーニー』の秘められた意味について解説しつつ、『メアリと魔女の花』について予想したいと思います。

是非とも『借りぐらしのアリエッティ』、『思い出のマーニー』を視聴した上でお楽しみ下さい。



○7月15日(土)20時~

「『ハクソーリッジ』と天才変態監督メル・ギブソン」

6/24よりメル・ギブソン久々の監督作である『ハクソーリッジ』が公開されます。

本作は2017年の第89回アカデミー賞において録音賞と編集賞を受賞しました。これまでどう考えても落ち目だったメル・ギブソンにとっての復活作なのですが、『ブレイブハート』『パッション』『アポカリプト』といったこれまでのメル・ギブソン監督作を観ていた我々には分かっていたことです。

メル・ギブソンが、稀代の変態にして天才映画監督であることを……

そこで、俳優・監督としてのメル・ギブソンについて振り返りつつ、『ハクソーリッジ』について解説したいと思います。

是非とも『ハクソーリッジ』を視聴した上でお楽しみ下さい。



○7月29日(土)20時~

「最近のマクガイヤー 2017年7月号」

いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。


詳細未定



○8月前半(日時未定)20時~

「しあわせの『ドラゴンクエスト』」

7/29に『ドラゴンクエスト』シリーズ久しぶりのナンバリングタイトルにして非オンラインタイトル『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』が発売されます。

『ドラクエ』といえば「国民的ゲーム」の冠をつけられることが多いですが、『ポケモン』『妖怪ウォッチ』『マインクラフト』といったゲームを越えたコンテンツが席巻し、ゲームといえば携帯ゲームである現在、事情は変わりつつあるようです。

そこで、これまでの歴代作品を振り返りつつ、ドラゴンクエストの魅力に迫っていきます。



さて、今回のブロマガですが、放送で話しそこねたジャンプコミックス版『コブラ』著者近影あいさつ文の素晴らしさについて書かせて下さい。


ご存知の方が大半だと思うのですが、ジャンプコミックスの表2――表紙カバーの袖というか裏面部分には、作者の近影とコメント文が載っていますよね。

このコメント文、「この前ディスニーランドに行ったら楽しくてビックリ!」みたいにヌルい日常報告や、「単行本が売れないとアシスタントに給料が払えない!」とか、他愛の無いことが書かれている場合も多いのですが、場合によっては、実に面白いわけですよ。


たとえば『キン肉マン』1巻はこんな感じです。


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やったぜーっ! とうとう念願かなって、キン肉マンが単行本になったぞー!! もうベストセラーまちがいなし! そうなれは本だけでなく、テレビ化…い、いや映画化だって夢ではないし、町ではキン肉マンの人形やお菓子だって売り出され、子どもたちは、それらを持ってキン肉マン音頭の大合唱。そして、ぼくたちはというと、連日のテレビの出演で大いそがし。

あらあ…夢だろうな…やっぱしー!!

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結局、ゆでたまごは1巻で書いたこの「夢」を、ほぼ全て実現してしまった……というのが以前ネットで話題になりました。

http://blog.livedoor.jp/qmanews/archives/52123708.html

実現していないのは「連日のテレビの出演で大いそがし」というところくらいですが、たまに深夜放送などで芸人と一緒に出演していたりするのをみると、テレビ出演よりも漫画描いていたいのだろうなあ、なんてニヤニヤしてしまいます。


このコメント文、近況的なものが多いせいか、あるいは忙しい漫画家の場合は編集者が毒にも薬にもならないことを代筆してる場合もあるせいか、愛蔵版になるとサクっとカットされてしまいます。Kindle等の電子書籍版でもカットされることが多いです。

勿体無いことこの上ありません。


というのは、『コブラ』のコメント文は、どれもこれも力の入ったものだからです。


例えば第1巻はこうです。


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とぼけた顔に葉巻をくわえ、すごいヤツが帰ってきた。

宇宙の荒野を駆けめぐり、無法者相手に立ち向かう……。

危険が危険をよび、左手の恐ろしい威力を秘めた、サイコ・ガンを抜くとき、海賊コブラの口元がニヤリとゆがむ。

レディー!

今日も死ぬほどたいくつだ。

一丁、なにかやらかそうぜ!

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七五調であり、最後に主人公の台詞を置きつつ、完璧な紹介文になっている名文です。寺沢武一はどこかでコピーライティングの勉強でもしたのでしょうか? 第1巻なのに「帰ってきた」なんて書いてあるのも、単行本を読み進めていくとその意味が解ってくるわけですね。


劇中、コブラは様々なイカした台詞を吐くのですが、そのほとんどは実際に口に出したら地獄のミサワ的な失笑を買うこと請け合いな軽口です。

欧米のアクション映画には、↑のような「人を殺す前後に軽口や捨て台詞を吐く」文化があります。これはジェームズ・ボンドに起源を持つのですが、007やイーストウッドやドロンやベルモンドの遺伝子を受け継いでいる『コブラ』は、軽口文化も受け継いでいるわけですね。

それが一番出ているのが第5巻のコメントです。


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この世に、神が存在するかだって?

いるとすりゃ、かなり意地の悪いヤツだろうな。信仰心のうすいオレとしては、トーストを落とせばバターのぬってあるほうが下になって落ちるし、目の前のクリームソーダを横から女の子にかっさらわれるなんてことは日常茶飯事だ。

神さまよ、ひとつだけいっておく。ヤツとの決着には手をだすな!オレが死ぬかヤツが死ぬか、それはオレが決める。

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これを実際に口に出したら、クサイことこの上ありません。

しかし、文章で読むとめっちゃ良い!

これだけで、寺沢武一は、相当多くの冒険小説やアクション映画に親しんでいることが分かります。


かと思えば、6巻のコメントには度肝を抜かれました。


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愛すべき人びと----ボブ・ジェームス、クインシー・ジョーンズ、ビル・エバンス、ジョン・レノン、ポール・ニューマン、ドミニク・サンダ、グレタ・ガルボ、ウインザー・マッケイ、ビアズレー、ウォルト・ディズニー、エドガー・アラン・ポー、アーネスト・ヘミングウェイ、ジョン・F・ケネディ、ジャン・ポール・サルトル、ハワード・ヒューズ、……そして、コブラ!!

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こんなコメント文をコミックスに書く漫画家なんて、今でも昔でもそうそういないわけですよ。

小説家や役者、ミュージシャンに混じって、ケネディやハワード・ヒューズが並んでいるところがまた「らしい」わけです。ジャン・ポール・ベルモンドではなくサルトルというのも、実に寺沢武一っぽいですね。つまり、単なる『コブラ』の元ネタ紹介というわけではなく、寺沢武一が自分の深い部分でレスペクトしている人を挙げているわけです。


ここら辺から、変化球的なコメントが続きます。

たとえば8巻。


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ある日、とがったシッポをはやした小悪魔が、鏡の中からでてきて、「あなたの望みを、ひとつだけかなえてあげましょう!」と、オレにいうかもしれない。そんなバカなことが起きるわけはないと思うだろうが、起きるはずもないバカなことが起きる、きょうこの頃である。

そんな時のために、あわてて返答にこまらないように、あらかじめリストを作っておくことにした。

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自分は、これに影響されて、実際にリストを作ったことを今でも覚えています。


で、自分が最も好きなコメントは第9巻のものだったりします。


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泣くのはよしなよ。ひとは涙を流すから悲しくなるのさ。なに…不幸だって!?オイオイやめとけよ。太陽が輝く下に生きていて、ニ本の足があれば人間はどこへでもいけるし、なんでもできる。おたくが不幸な環境にしがみついていること事態が、不運なのさ。運てのは自分自身、力づくで勝ちとるもんだ!え…その運てえのに負けたらどうするかって!?

フフ…その時は笑ってごまかすさあ!!

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この「笑ってごまかすさあ!!」は続く10巻の『異次元レースの巻』の一編(『コブラ』は長編でも短いエピソードの連作形式のようになっており、どこから読んでもシンプルにまとまった完成度の高い話が楽しめるのが凄いところです)のテーマを象徴する台詞で、このコメント文全体がその説明のようになっているのですが、やっぱり寺沢武一も気に入っているのだなとニヤニヤしてしまいます。


「その巻に収められているストーリーをセンス抜群に説明する」という意味では、12巻が最高です。


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愛する者を失った男の目にエメラルドグリーンの海がうつる。やつの思い出は海と同じ色をした瞳の奥に沈んでゆく。決して見せることのなかったブルーの翳りの中にやつの悲しさ、やさしさが流れ落ちる。夕日が海に落ち、すべてを琥珀色に変える時、やつは思い出を捨てた。赤い大円を背に豹のように走りだす。ふり返るやつの瞳の中には、すでに殺人者の黄金の光がきらめいている。

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12巻に納められているのは「神の瞳編」とよばれるエピソードで、自身のアイデンティティであるサイコガンが壊れたのをきっかけに自身について見つめなおし、一旦はアウトロー稼業を辞めようと決意するものの……という、ハードボイルド臭がプンプン漂うコブラにとっての『女王陛下の007』のような話です。

で、このコメント文は、ストーリーの核心をこれから読む読者の為にネタバレする事無く、しかし期待を抱かせつつ紹介する名文といえましょう。


長期連載になりがちな近年は平気で50巻とか100巻とか発売されるジャンプコミックスですが、『コブラ』のジャンプコミックスは18巻で一応完結しました。「一応」というのは、この後スーパージャンプやコミックフラッパーで続きが書かれたのですが、18巻には『コブラ』最終エピソードといって良い『リターンコブラ』が収められています。


まず16巻のコメントを紹介しましょう。