おはようございます。すっかり正月気分も抜けたマクガイヤーです。
一昨日の放送「マイナー手塚漫画大バトル」は如何だったでしょうか?
山田玲司先生の素敵なプレゼンに全く敵わず、思いだけで語ってしまったような気もするのですが、山田先生としまさんのおかげで良い番組になったと思います。
マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。
○1月28日(土) 20時~
「最近のマクガイヤー 2017年1月号」
・『動物戦隊ジュウオウジャーVSニンニンジャー 未来からのメッセージ from スーパー戦隊』
・『アンダーワールド ブラッド・ウォーズ』と『バイオハザード・ファイナル』
その他、いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
○2月5日(日) 20時~
「『沈黙』とマーティン・スコセッシの秘密(仮題)」
1/21より『沈黙 -サイレンス-』が公開されます。
本作は遠藤周作の原作を基にしつつ、これまでキリスト教をテーマの一つとして選ぶことの多かったマーティン・スコセッシ監督の20年越しの企画といわれています。
そこで、マーティン・スコセッシ監督の過去作をふりかえりつつ、映画『沈黙 -サイレンス-』について特集します。
○2月25(土) 20時~
「最近のマクガイヤー 2017年2月号」
いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
詳細未定。
お楽しみに!
番組オリジナルグッズも引き続き販売中です。
マクガイヤーチャンネル物販部 : https://clubt.jp/shop/S0000051529.html
思わずエナジードリンクが呑みたくなるヒロポンマグカップ
これからの寒い季節に着たい、乳首ポケストップトレーナー
『ローグ・ワン』公開に合わせて着たい、マクガイヤー・ウォーズ トレーナー
……等々、絶賛発売中!
さて、今回のブロマガですが、前回の放送のまとめというか、『紙の砦』と『すきっ腹のブルース』について改めて語らせて下さい。
●『紙の砦』について
1989年に手塚治虫が亡くなった時、色んな人が色んな媒体でお悔やみの言葉を書きました。
COMIC BOXの手塚追悼号にて宮崎駿がアニメ制作者としてダンピングを始めた手塚治虫を批判したことは有名な話ですが、自分の記憶に強烈に残っているのは週刊少年ジャンプの最終頁、作家投稿欄です。
「『ブラックジャック』が好きでした!」とか「『アトム』が心に残っています」とかいったコメントは少数派で、ほとんどが『紙の砦』の名前を挙げていたのです。
当時中学生だった自分は父親の影響で手塚作品の大半を読んでいて、『紙の砦』もその続編である『すきっ腹のブルース』も既に読了済みでしたが、「普通に面白い」以上の感想を持っていませんでした。何故ジャンプの錚々たる漫画家たちが『火の鳥』でも『ジャングル大帝』でもなく『紙の砦』を挙げるのか不思議でした。
しかし、その後自分もそれなりに自分の文章なり「作品」なりを作るようになってきて、ようやく意味が分かってくるようになりました。『紙の砦』は手塚にとって創作の原点を打ち明ける話だったのです。
『紙の砦』の舞台は太平洋戦争末期の大阪、主人公は中学生で、「大寒哲郎(おおさむてつろう)」という名前です。絵柄も、名前も、どこからどうみても手塚治虫本人と思ってくれて構わないという意思表示ですね。
主人公は、戦時下でもとにかく漫画を描くことばかり考えています。出版統制令下でも漫画、防空壕掘りしていても漫画、軍需工場で勤労動員されてもトイレを偽って抜け出し漫画、空襲警報が鳴って皆が防空壕に入っても「こりゃ静かでいいや」と描き続けます。
そんな哲郎は宝塚音楽学校に通うヒロイン岡本京子に出会います。見目麗しい京子ちゃんに一発で惚れてしまいます。
京子ちゃんを主役として自分の漫画に出したりするのは意味深です。
大阪大空襲で京子ちゃんは顔に大怪我を負ってしまいます。
「顔に大怪我」というのが、本当にショッキングです。
手塚治虫に限りませんが、漫画はキャラクターの感情表現の多くを顔で表現しています。顔が命といっても良いでしょう。
その顔が潰されるというのを手塚治虫は「むごたらしい犠牲」の最上級の表現として使います。
(『カノン』)
繰り返された表現にも関わらず、その度ごとにびっくりしてしまうのです。
ましてや、京子ちゃんの志望はオペラ歌手です。顔に怪我したということは、オペラ歌手の道も断たれたということを意味します。
京子ちゃんを介抱しつつ、空襲直後の死体でいっぱいな大阪の街を「地獄ってこんなもんかねェ……」と言いながら歩き回る哲郎。牛が焼け死んでいるのをみて「肉を切り取ってたべようか?」なんて冗談も京子ちゃんには通じません。
途中、墜落したアメリカ軍機のパイロットを、皆が袋叩きしているところに出くわします。「ひとりが一回ずつなぐっていいよ」という誘いに乗り、「京子ちゃんをあんな顔にしたかたきだーっ!」と近くにあった棒切れで殴りかかる哲郎。
しかし、皆に殴られてグチャグチャになっているパイロットの顔をみた瞬間、すっかり戦意を喪失してしまいます。
「だ…だれのせいだよ…こんな戦争……」と棒切れを手放し、立ち去ります。
このシーンが重要であることは誰の目からも明らかです。哲郎は、パイロットの顔に京子ちゃんをみたのです。哲郎――手塚の怒りややるせなさは、目の前の「敵」ではなく、戦争を生み出した人間や、システムそのものに向かっているわけです。
戦争は終わります。街にあかりがついていても爆撃されないことで終戦を実感する哲郎(同じような表現は『この世界の片隅に』でも使われていました)。しかし、京子ちゃんの顔は傷ついたままです。
最後のコマには、下記のようなナレーション代わりの文章が書かれています。
「岡本京子は そののち
ゆくえがわからなくなりました
そしていまだに どこで何をしているのか
わからないのであります
でも 京子のおもかげは 大寒哲郎の書く
マンガの女の子の顔にはっきり残っていて
いつまでも いつまでも 消えないでしょう」
これを読んで、本当に岡本京子が実在したと受け止める読者はいないでしょう。
しかし、手塚治虫がどのような思いでマンガを描いているかははっきりと分かります。
手塚漫画に出てくる全てのヒロインが「岡本京子」であり、全ての戦争が「大阪大空襲」のバリエーションなのでしょう。
「戦争」と「エロス」こそが手塚の創作の原点なのです。
『まんが道』とか『かくかくしかじか』とか『アオイホノオ』とか、様々な漫画家がそれぞれの創作の原点に関わる話を描いてますが、『紙の砦』はわずか39ページにも関わらずこの主の漫画として完璧に思えます。
(なんと http://tezukaosamu.net/jp/war/entry/116.html で読めます! さすがるみ子様や!)
ところが、本当に面白いのはここからで、なんと『紙の砦』には続編があるのです。
●『すきっ腹のブルース』について
手塚治虫は『紙の砦』を三部作の一作目として考えていたらしいのですが、『すきっ腹のブルース』はその二作目にあたります。三作目は描かれていません。
突然ですが、最近ネットで話題になっている漫画に『やれたかも委員会』というのがあります。
https://note.mu/yoshidatakashi3/n/n04d77812f94f
据え膳食わなかった後悔というか、女性とセックスできそうな状況にも関わらず、しなかった後悔をテーマとした連作です。
男なら誰でも一つか二つは同じような思い出があると思うのですが、『すきっ腹のブルース』は手塚版『やれたかも委員会』のような話です。
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