春眠暁を覚えず、とまでは言わないものの、とにかく良く、そして快く眠っている。早いときで午後10時には毛布をかぶっていることも少なくない。毎日日の出とともに起きているせいもあると思うけれど、とにかく日が暮れる頃になると毛布と湯たんぽの温もりが恋しくなり始めるのだ。 

 生活環境のせいも多分にあるだろう。主だった産業と言えば農業と漁業しかないこの海辺の集落では日が暮れると誰もが家に帰る。切れかけた街灯と繰り返す灯台の明滅だけで、町全体が闇に包まれる。窓を少し開けると闇の中に家々から鰹出汁などの夕餉の匂いや風呂を沸かす薪火の香りが漂って来る。月明かりの下、波の音が静かに聞こえる。そんな中で夕餉を済ませ、湯船に浸かり、蝋燭の灯りの下でコルトレーンでも聴いていると、自然と心地良い眠気に包まれ始める。

 東京で生活していた20代の頃には考えられなかったことだ。