仏師という生き方に憧れを抱くようになったのは海辺の町で暮らし始めてからだ。欲望を掻き立てる繁華街もない。そういう俗世間の欲望と距離を置いたせいだろうか。それともただ単に年齢のせいだろうか。都会に出た頃、懐に入れていた「分不相応な金を稼ぎたい」というギラギラしたモチベーションも波が石を磨くように角を削がれすっかり丸くなった。これが足るを知る、という奴なのだろうか。育てる野菜は自分たちが食べる分だけでいい。二十代の頃のように自分を磨り減らしてまで働くこともなくなった。だったら妻や子どもとの時間を大切にしたいと思うようになった。もっともあの頃は仕事以外に夢中になれるものがなかっただけなのかもしれないけれど。
「運慶」
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