窓越しに見える海が水墨画みたいだった。空にはコンクリートのような雲が立ち込めている。海は見る者の心を映す鏡だ。窓辺に立って水平線を眺めているぼくの心も渇き切っていた。海辺で暮らしているからといって毎日が「湘南スタイル」のグラビアみたいな青天白日というわけではない。誰もいない浜辺は時に独房のように殺風景で気が紛れるものがない分、追い詰められると逃げ場がない。正確に言えばこの海辺自体が逃げ場なのでその世界が色を失ってしまうと他に行きようがない。旋回する鳶。屋根の上で獲物を狙っている烏。彼らが屍となったぼくを啄むのを待ち構えているように感じられる。