朗読短編『呪いのゲーム』
著:古樹佳夜
絵:花篠
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吽野:浅沼晋太郎
阿文:土田玲央
チャーリー:浦和希
御宅:梅田修一朗
◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆
阿文 「ただいま〜」
吽野 「おおお〜〜! ちゃんと映ってんじゃん!」
阿文が買い物から帰ってくると、居間から吽野の声がした。
阿文 「どうした。何を騒いでいるんだ」
吽野 「じゃーん! 見てよ、これ!」
阿文 「これはまた……ずいぶん懐かしい。レトロなブラウン管テレビだな」
吽野 「ついに! 不思議堂にもテレビを導入してみたんだ」
吽野はテレビのリモコンを連打し、次々チャンネルを変えている。
特に番組には興味がないようで、
物珍しくて興奮しているだけのようだ。。
阿文 「『機械の類は苦手だー』とか言って、嫌っていただろう」
吽野 「ちっちっち……俺たちもアップデートしていかないとね。この情報社会に取り残されないためにさ」
阿文 「昭和のブラウン管テレビで?」
鼻で笑われて、吽野は少しムキになる。
吽野 「文句言わないで。電気屋のおっちゃんがタダでくれたんだから」
阿文 「ああ、商店街の松井電気か」
吽野 「そう。在庫整理してたからねー」
松井電気とは、不思議堂が軒を連ねる商店街で、
古くから営業している個人経営の電気屋だ。
年季の入ったテレビや家電が所狭しと並んでいる――のはいいが
売れ行きはさほどよくないらしい。
ほとんどが型落ちして、埃をかぶっている光景を
阿文は思い出していた。
吽野 「よし、準備も整ったところで、試しにこれで遊んでみますか」
吽野が懐から取り出したものを、阿文は訝しげに見つめている。
阿文 「なんだそれは?」
吽野 「ゲームソフトだね」
二人にとってはテレビ以上に縁遠い代物だ。
時代は移りかわり、30〜40年ほど前から、
街中で子供が持っているのを見掛けることはあったが、実際触ったことはない。
阿文 「『うつろ』……聞いたこともないな」
カセットの表面に印字されている
おどろおどろしい文字に、阿文は眉をひそめる。
カセットを受け取りながら、
「似合わないものを持っているな」と、呟いた。
吽野 「実はね、これもタダでもらったんだ」
阿文 「松井電気から?」
吽野 「いや。これは知り合いのコレクターから」
阿文 「先生は知り合いが多いなぁ」
「まあね」と吽野は得意顔だ。
吽野 「とんでもない収集家だよ。家中におもちゃとか、模型とか、所狭しさ。中でもすごかったのは、レトロゲーム! 壁一面に置いてあった」
阿文 「ホビーマニアってやつか」
吽野 「そう。俺には骨董以外の価値はよくわかんないけどね。その人が今度入院するらしくて、生前整理で家に呼ばれてさ」
阿文 「なるほど。それでゲームソフトをもらったわけだな」
吽野 「そういうこと。不思議堂じゃ、ゲームは扱ってないから、断ったんだけどね。『買い取らなくていいから持って行ってくれ』って押し付けられたんだ。もう自分で遊んじゃおうかなって」
嬉しそうに一通り話し終えた吽野に、
阿文はなぜか呆れ顔だ。
阿文 「お楽しみのところ水をさすようだが、ビデオゲームというのは、ゲーム機本体がないと、遊べないんじゃないのか?」
吽野 「えっ、そうなの?」
遊び方を吽野はよくわかっていない様子だ。
「詰めが甘いな」と、阿文は吹き出す。
その時、店の入り口で人の声がした。
チャーリー「おお〜〜! ここが不思議堂かっ! 看板、いい味出てるねぇ」
御宅 「ぬほほ! なんとも、アンダーグラウンドな佇まいですなぁ!!」
チャーリー「高まってきたねぇ、御宅(みたけ)氏ぃ!」
店外から聞こえてくる声は男だ。
あまりの大声に、店内からでも会話内容が手に取るようにわかる。
吽野 「誰か来たみたいだよ」
阿文 「そのようだ」
二人が居間から顔を出し、
不思議堂の店内を覗き込んだところで、
ちょうど玄関の戸を開ける音がした。
阿文は急いで廊下に出る。
阿文 「……いらっしゃいませ。店内で気になったものがあったら、気軽にお声がけください」
いつものように、客に声をかけた。
入ってきたのは二人。
一人は頭を金色に染め、派手なアロハシャツを着た、中肉中背の男。
もう一人はひどく痩せて、メガネをかけた猫背の男だ。
チェック柄のよれたシャツを身に纏い、大きな黒いリュックを背負っている。
彼らは阿文をひと目見るなり、声を高くして騒ぎ始めた。
チャーリー「で、でた〜〜〜! 店員のお兄さんの服、めっちゃ派手〜〜〜! でも似合ってる〜」
御宅 「ただしイケメンに限る」
チャーリー「お兄さん、もしかして芸能活動されてます?」
興奮気味に、金髪の男は手に持ったスマホを阿文に向ける。
阿文 「は? あの……店内の撮影はご遠慮ください」
チャーリー「え、ダメなんですか? 僕、動画配信してて、取材したいんですけど〜」
すると、阿文の背後から吽野も顔を出した。
吽野 「おいおいおい。そこ、店員に絡むな。冷やかしなら帰って……」
チャーリー「店主っぽい人も出てきたー! 目が死んでる〜〜! 雰囲気ばっちり〜」
御宅 「ただしイケメンに限る」
吽野 「うっせぇぞお前ら! 帰れっ」
吽野はわざと大きな声で威嚇した。すごい剣幕だ。
ところが、男たちは少し後ずさっただけで、怯まなかった。
いや、痩せた男は少し喜んですらいる。
御宅 「フォカヌポウwww そんな殺生なぁ!ほら、五十六(いそろく)氏ぃ! スマホ下ろして、とりあえず頭下げないとっ!」
チャーリー「すんまっせ〜ん」
金髪の男は、少しの間だけスマホを下ろしたかと思うと、
首を素早く縦に振った。吽野にはそれが、ただ頷いたように見えた。
(これは頭を下げているのか……?)
阿文はその無礼さに眉をひそめる。そんなことお構いなしで、
金髪の男はすぐにスマホを構え直した。阿文を映すのに必死だ。
チャーリー「あ、自己紹介してませんでしたねっ!僕、チャーリー五十六って言います。こう見えて、霊感体質で、憑かれやすいっていうか、その特技を活かして、オカルト動画配信してまっす!」
御宅 「拙者は御宅圭吾(みたけけいご)と申しますー。ウェブ上の、レトロゲームサークルのオフ会で、五十六氏と意気投合した、いわゆるマブダチってやつですかね、ふひひ」
これには吽野と阿文の表情も引き攣ってしまう。
吽野 「……で? どうして不思議堂に迷い込んできたんだここはただの骨董屋だぞ」
吽野は怪訝な様子だ。
「さっさと出ていってくれないかな」、と
今にも口をついて出てしまいそうだった。
チャーリー「あ、そうそう!それな!本題ここから〜〜! はい、編集点!」
御宅 「あいっ」
一瞬沈黙がおとずれた。すかさず、
御宅は両手でカチンコを鳴らすような仕草をとる。
チャーリー「――……聞きましたよ、あの有名コレクターが、例の『特級呪物』を手放したとかっ」
吽野 「特級……なんだって?」
吽野も阿文も首を傾げる。
チャーリー「呪いのゲームソフトですよ! 『うつろ』ってタイトルの!」
吽野 「あー……これのことか?」
御宅 「そ、それー! ふぅ……」
途端に、御宅は興奮で気を失い、その場に倒れ込んだ。
チャーリー 「御宅氏ぃ〜!」
慌てて、阿文が駆け寄る。
床に後頭部をしこたま打ったのではないだろうか。
阿文 「だ、大丈夫ですか? お怪我は……」
御宅 「あ、失敬。拙者興奮のあまり気を失いかけました」
阿文 「は、はあ……?」
明らかに様子がおかしい。阿文はついていけなかった。
それは隣にいる吽野も同じようだった。
吽野 「ちょっとなんのことか、話が読めないんだが……」
慌てて、チャーリーと名乗った男が向きを変え、
まるで芝居のごとく、勢い込んで話始める。
チャーリー「今日ここにお邪魔したのはですね、真偽を確かめたかったからです!店主さんがその幻のソフトを譲り受けたと聞きつけたんでね」
御宅 「そそそそ、そのゲームソフト、僕にプレイさせてください! うひひ!」
言われた吽野は、手元のカセットをまじまじと見つけた。
吽野 「幻って……そんなに貴重なの、これ?」
チャーリー「時価100マンは下らないっす」
吽野 「100万!?」
阿文 「すごい……どうしてこんなものが?」
チャーリー「それね!」
チャーリーは人差し指を勢いよく阿文に向けた。
そして、待ってましたとばかりに意気揚々と話し始めた。
チャーリー「作品内容に問題ありまくりで、早々に生産中止したんで流通が少ないから、かーなりプレミアがついてます。オークションだったら200マンいっちゃうかも。まさに、幻のアドベンチャーゲームっすよ!」
それを聞いた吽野は目を見張って飛び上がった。
吽野 「今すぐ売ってこなくちゃ……」
カセットを懐にしまい、吽野は玄関に向かって歩き出す。
その様子に御宅とチャーリーは慌てふためき、吽野の着物を引っ張る。
チャーリー「ちょちょちょちょ! ちょっとまって!」
御宅 「貴様ぁ! それ本気で言ってるのかぁ!」
吽野 「自分のもんをどうしようが、こっちの勝手だろ!」
吽野は必死だった。手の中に200万相当のお宝があるのだ。
誰にも渡したくはなかった。
チャーリー「売る!? そりゃテロ行為っすよ!」
吽野 「はぁ!?」
阿文 「いったい、どういうことですか……?」
チャーリーはスマホを構えたまま、
大仰に「おほん」、と咳をしてから
身振り手振りを交えながら、また芝居がかって話出した。
チャーリー「『うつろ』……そのソフトは、現在もカルト的人気を誇る、ホラーアドベンチャー。一人称視点でフィールドを探索し、謎を解いていくアクションRPG。その希少性は極めて高く、現在は中古品をオークションで手に入れる他ない。出品される時は高値で取引されることが多い。マニアの間では垂涎の一品。ただし、このソフトには、ある曰くが……」
御宅 「『死霊に取り憑かれ、プレイヤーは必ず死ぬ』」
チャーリー「手にするだけでもかーなりやばい代物っすよ」
御宅 「本来は市場に出回るのも危険です……ふひひ」
吽野は一笑に付す。
吽野 「馬鹿らしい。死霊ってなんだよ」
御宅 「ゲームの中に潜んでいるんです。ソフトを所持したり、ゲームをプレイした瞬間から呪われます」
それを聞いた阿文は、改めて吽野を振り返る。
阿文 「……ということは、先生は」
チャーリー「譲り受けたんですよね? 手遅れです、多分」
吽野 「はぁ!?」
御宅 「憑いちゃった★憑いちゃった★」
吽野 「ちょっと待ってよ。どういうこと? 俺、呪われてんの!?
御宅 「いえーす! オフコース! 多分このままだと、お主は、死あるのみ!」
吽野 「ふざけんなよ、あの野郎!」
チャーリー「コレクターの方も呪われ、死を覚悟したんでしょうね……。だから店主さんに押しつけたんですよ。流通させると厄介なソフトをね」
吽野は震え上がり、ゲームソフトをチャーリーに押し付けた。
吽野 「どうにかなんないの?」
御宅 「一つだけ方法があります!」
阿文 「どうすればいい!?」
御宅 「全★クリ★」
吽野 「は? わかるように話してくれ!」
御宅 「ふほほ!呪いを解くためには、全ステージをクリアするしかございません!とはいえ、アクションが激ムズな上に、開発段階でデバッカーをちゃんと雇ったのか、疑いたくなるほど進行不能バグが何個もあるので、全クリできる人は稀ですけど! ぐふふ!」
それを聞き、業を煮やした吽野は叫んだ。
吽野 「そんな……全部クリアなんて、無理に決まってんじゃん、俺はゲーム素人なんだぞ!」
阿文 「絶望的じゃないか。どうするんだ先生」
御宅 「拙者に任せろっ! すちゃっ」
御宅は背負っていた大きなリュックの中から、ゲーム機本体を取り出した。
吽野 「おおっ!?」
阿文 「それって、ゲーム機本体ですか?」
御宅 「さよう!」
ついでにと、御宅は小さなカセットのようなものも取り出した。
吽野 「なにそれ」
吽野や阿文には、それがどんな意味を持つのか、さっぱりわからない。
ただ、チャーリーだけがやたらと喜んでいる。
チャーリー「おお〜!」
御宅 「全クリ目前でセーブしてるメモリーカードも持参済みですぞ! キリッ」
チャーリー「御宅氏かっこいい!」
御宅 「ぬほほ! 最終戦まで進めてありますぞっ」
吽野は、勝手に盛り上がっている御宅とチャーリーにうんざりしていた。
さっきから見ているやりとりはとんだ茶番だ。
けれど、背に腹は変えられない。
今はこの様子のおかしい男たちに頭を下げるしかないのだ。
吽野 「なんだかよくわからないが、早くゲームをクリアしてくれ!」
御宅 「おっと! 協力プレイ必須ですぞ! なにせ、呪われているのはお主……」
吽野 「わかったわかった! 早く!」
阿文 「ゲーム機をテレビに接続して……と」
もめている傍らで、阿文はブラウン管テレビの前に正座して、
黙々とゲーム機の配線を整えていた。
チャーリーもいつの間にか二人の居住区に上がり込み、
茶の間で接続の手伝いをしている。
御宅 「メモリーカード、OK」
チャーリー「動画撮影準備、OK!」
二人はわざとらしく指差し確認を行う。
阿文 「よし、準備はできたぞ、先生」
吽野 「よっしゃあ! いくぞっ」
吽野はゲームを起動した。
たのしげな電子音が不思議堂の茶の間に鳴り響く。
初めて体験するゲームに、阿文は身を乗り出す。
吽野は楽しむどころではなく、
目を血眼にしていた。
吽野はゲーム機のコントローラーを恐々と操っている。
画面には、棍棒を持った少年の後ろ姿が映っていた。
辺りは暗く、前方から青白い足だけのモンスターが何十体も現れて、
襲いかかってくる。
吽野 「ええええ! ちょ、どうすれば、ぎゃ!」
どうしていいのかわからず、吽野はぎゃあぎゃあと喚いた。
御宅 「店主殿! B! Bボタンですぞ!」
吽野 「Bってこれ!?」
御宅に言われた通りに、吽野はボタンを押していった。
すると、チャーリーはまたスマホを構えて動画を撮り始めた。
チャーリー「はい、と言うわけで、始まりました~チャーリー五十六の、『異界へGOGO!』今日は呪いのゲームソフト、『うつろ』をやっていくわけですけども〜……あ、もちろん僕はノータッチです! だって呪われたくないでしょ?てなわけで、今日のプレイヤーはすでに呪われちゃってる、『不思議堂の店主・吽野さん』なわけですが〜……あーーーっと! ライフが残り1です! 店主さんゲームめっちゃ下手くそですね〜……」
吽野 「るせーーー! ちょっと黙ってて!」
不慣れなゲームに吽野は苛立ちを隠せない。
阿文 「先生、また敵が来た。死ぬぞ」
隣に座る阿文が叫んだ。
吽野 「わかってる! わかってるけど! ぎゃっ」
激しい斬撃の音が響き、画面は赤一色になった。
あっさりとゲームオーバーだ。最初のスタート地点に戻される。
吽野 「また最初からかよ……」
御宅 「これは最終ステージですからなぁ!1ステージ目よりも難易度はゲロ高ですぞ」
阿文 「頑張れ、先生」
吽野 「めんっどくせ〜」
御宅 「あ、そこ、進行不能バグあります。パンピーはそこで詰みます〜」
吽野 「はあ? ちょ、何、どうすればいいの」
御宅 「コマンド:ABBAAB右右左。すると壁が透明になるんで、すかさずしゃがんだ状態で横ジャンプ!」
吽野 「難しい! まじで無理!」
阿文 「先生! 貸してくれ」
阿文が吽野からコントローラーを奪い取る。
華麗なボタン捌きだ。
チャーリー「おお〜〜! 店員さんの方が上手いっすね!」
阿文 「それほどでも」
吽野 「すご……もしかして阿文クンやったことあるの?」
阿文 「見よう見まねだ」
突然、チャーリーが悲鳴を上げた。
チャーリー「ついにボスがくる!」
吽野 「ひぃっ」
吽野と阿文は、小さく悲鳴を上げた。
見ると、目の前に大きな扉が現れ、
内側から無数の腕が飛び出してきた。
ニュルニュルと現れたそれらは血で濡れ、
プレーヤーに容赦無く襲いかかってくる。
阿文 「これは……!難しいぞ」
阿文ですら苦戦する始末だ。見かねた御宅が叫んだ。
御宅 「貸してください! ここは拙者が!!」
御宅は阿文からコントローラーを受け取ると、
勢いよくBボタンを連打をした。
激しく上下する親指は、蜂の羽が羽ばたくが如く凄まじい音を上げ、
動きを目で捉えることは困難だ。
御宅 「あたたたたたたた、ほわちゃ!」
吽野 「ちょ、指どうなってんの、すご」
そうして、10分以上が過ぎただろうか。
床には切り落とした無数の腕が散らばっていた。
敵キャラクターは禍々しい赤いオーラに包まれている。
御宅 「いっけええええ!」
最後の一撃が、女の頭に振り下ろされた。
ズーンと低い音があがり、
女は画面の中で息絶え、地に伏し、動かなくなった。
画面は暗くなり、おどろおどろしい音楽が流れ始める。
チャーリー「クリアした……!」
吽野 「やった! やったーー!」
チャーリーと吽野は手を取り合って喜んでいる。
興奮した阿文も放心状態の御宅の肩を揺さぶる。
阿文 「御宅さん、ありがとうございます、おかげで、うちの吽野の命が助かりました!」
御宅 「……うっ」
阿文 「御宅さん? 泣いてらっしゃるんですか?」
御宅 「やっと、やっとだ……!」
吽野 「ん? 体が透けてないか、こいつ」
吽野が言う通り、御宅の体は透けていった。
阿文 「あれ、御宅さん? 体が光っている……?」
チャーリー「御宅氏ぃ!?」
今度は、小さな光の粒が御宅の周りに集まって、
身体全体を包み込んでゆく。
御宅 「これで、心置きなく成仏できる……」
阿文 「成仏? どういうことですか」
御宅 「実は……拙者……数年前にこのゲームをクリアできず……死んでいたのでござる……」
吽野 「お前も!?」
御宅 「呪いのせいで成仏できず、生者のふりをして現世を彷徨うしかなかった……うっ……ようやく転生できそうですぞ~」
チャーリー「そんな、御宅氏! 行かないでよ! 僕をボッチにしないで!」
御宅 「五十六氏……また、来世でも一緒にオタ活しようね……」
チャーリー「御宅氏ぃ!」
御宅 「それではみなさん、さよ〜なら〜」
御宅は光に包まれ、そのまま消えてしまった。
チャーリー「うう……ぐす……御宅氏……南無」
チャーリーは顔中を涙でぐしゃぐしゃにしながら、
御宅が昇天する様をスマホで撮り続けていた。
チャーリー「まさか、御宅氏が幽霊だったとは思わなかったっす……!」
吽野 「君、本当に憑かれてたんだね……」
阿文は残されたゲーム機とカセットを眺めて言った。
阿文 「ところで先生、このゲームソフトはどうしようか」
吽野 「売っぱらう……と言いたいけど、それはヤバいんでしょ?」
チャーリー「まじ、やばいっす! これがまた流通したら、ひと騒動っすよ!」
吽野 「よし、俺がこの後ゴミに捨てておくから、任せとけ」
笑顔の吽野はもっともらしいことを言って、懐にゲームカセットをしまった。
阿文 「先生」
吽野 「ん? なに?」
阿文 「何故、懐に大事そうにしまうんだ。ゴミに出すんだろ、ゴミに!」
阿文は吽野からカセットをひったくった。
吽野 「ああ! 俺の200マン〜!」
阿文 「もう、油断も隙もない! これは僕が処分する」
吽野 「えーん! 鬼! 悪魔〜!」
吽野の叫びは、虚しく不思議堂店内にこだましたのだった。
[了]
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■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について
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