第五話 第一章 泥棒!
著:古樹佳夜
絵:花篠
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◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆
阿文 「先生、大変だ!」
阿文が血相を変えて飛んでくるものだから、
吽野は書き途中の草稿をくしゃくしゃと丸めて部屋の隅に放ってしまった。
もっとも、原稿用紙の上に、落書いていたことを悟らせないためだ。
吽野 「どうした? 3日前買い付けてきた呪いのマネキンが喋りでもした?」
阿文 「あいつ喋るのか!?」
吽野 「って噂だよ」
阿文 「昼間ぶつぶつ聞こえるのはあいつだったのか……って!そうじゃない、それよりも大変なことが起きたんだ」
吽野 「一体何が起きたの?」
阿文 「不思議堂に泥棒が入った!」
吽野 「なにぃ!」
その一言で、吽野は文机をひっくり返す勢いで立ち上がると、
青筋を立てながら廊下を抜け、店内の様子を確認しに行った。
吽野 「店中がぐちゃぐちゃじゃないか!」
阿文 「すまない……。朝来てみたらこの様子で」
吽野 「しっかり施錠はしていたのに?」
阿文 「この通り、玄関のガラス部分を割って侵入したようだ」
吽野は玄関を一瞥して、ひどい有様であるのを確認した。
吽野 「はぁ……なんてこった……」
引き出しが抜き取られたアンティークの箪笥。
荒らされて床に散乱する商品たち。
荒らされて床に散乱する商品たち。
呪いのマネキンは床に横倒しになっていて、
恨めしそうに吽野を睨んでいる。
恨めしそうに吽野を睨んでいる。
それでも、吽野はお構いなしにマネキンを跨いで、
高価な品を納めていたアンティークの
高価な品を納めていたアンティークの
ショーケースに歩み寄った。
吽野 「ああ〜〜こっちの棚に入っていた金色の茶碗が一式ないよ……!それから、啜り泣くビスクドールと、持ち主を呪う幽霊画の掛け軸も!ミイラの粉末や、悪魔の映る鏡も! あれも! これも……!」
阿文 「金目のものから気味の悪いものまで満遍なく盗んでいったんだな……」
吽野 「どうしてこんなひどいことを! ひと財産だぞ」
阿文 「夜の間に忍び込んだのだろうか……なぜ気づかなかったんだ。本当にすまない」
阿文は申し訳なさそうに頭を垂れた。
吽野 「悔しいが、君のせいじゃない……」
吽野 「そうだ……! 毛玉はどこだ?」
阿文 「毛玉って、ノワールのことか? そういえば、さっきから姿が見えないな」
吽野 「あいつ、昨晩はここで寝てたでしょ。何か見てないかな?」
阿文 「ああ、なんてことだ……!」
吽野の言葉に阿文の顔が青ざめ、
猫の名前を呼びながら店内をうろうろし始めた。
猫の名前を呼びながら店内をうろうろし始めた。
阿文 「ノワール! ノワールーー!」
吽野 「ちょ、阿文クン落ち着きなさいよ」
阿文 「落ち着いていられるか!まさか可愛いばかりに泥棒に誘拐されてしまったんじゃ!?」
悲鳴にも似た阿文の絶叫が店内にこだました時だった。
ノワール 「にゃーん」
阿文 「ノワール!?」
吽野 「あ、この甕の中でうずくまってるよ。ほら」
吽野の指さした大甕の中から、確かに猫の声が響いていた。
阿文は床に横倒しになったマネキンをジャンプして飛び越えると、
甕の中に首を突っ込んで中を覗き込んだ。
甕の中に首を突っ込んで中を覗き込んだ。
阿文 「ノワール!! 無事だったか〜〜〜ああ〜〜〜よかった〜〜〜!」
ノワール 「にゃああん」
阿文 「あああ〜ノワール! ノワール! もう二度と離さない!」
ノワール 「にゃーん」
吽野 「毛玉のこととなると本当におおげさだな」
阿文はノワールを抱えながらクルクルと回っていた。
ノワールも嬉しそうに阿文の頬に顔を擦り付けて喉を鳴らし、
甘い鳴き声を出している。
吽野 「おい、毛玉。泥棒の顔を見てないか?」
ノワール 「にゃーん」
吽野 「なんだその返事は。見てんのか、見てないのか。ニャンじゃなく、はっきり喋れ〜」
阿文 「無茶言うな」
吽野 「くそっ……役立たずめ」
ノワール 「シャー!」
吽野が近寄ろうとするとノワールは威嚇した。
吽野 「こうなったら、俺たちの手で盗まれた品々を取り返すよっ」
吽野が鼻息を荒くし、
今にも壊れた玄関から飛び出そうとするので、
今にも壊れた玄関から飛び出そうとするので、
阿文が袖をつかんで引き留めた。
阿文 「俺たちの手で……って、捕まえる気なのか?よしたほうがいい。警察に任せればいいじゃないか」
吽野は阿文の制止を振り払って、首をぶんぶん横に振る。
吽野 「そればできないっ! 盗まれたものの中にはミイラの粉とか……まあまあ誤解を呼ぶものもあるし……! 元の通り帰ってくるとはとても思えないよ」
阿文 「そういう問題のあるものを興味本位で仕入れるなと、あれほど……」
また阿文の説教が始まる気配を察知して、吽野は矢継ぎ早に捲し立てた。
吽野 「御託はいい! 取り戻すには時間が勝負だ。行こう! 阿文クン」
阿文 「行こうって……どこかあてでもあるのか?」
吽野 「こういう危なそうな骨董品は売り捌くにしても足がつきやすいんだ。だから、売るとしたら無法地帯な『あそこ』しかないんだよ」
阿文 「あそこ、とは……?」
吽野 「骨董闇市だ!」
阿文 「闇市だって!? おいおい、大丈夫なのか?」
吽野 「大丈夫。ちょっと治安悪い感じだけど、大富豪とかけっこういるし。俺も常連なんだ」
吽野の笑顔はどこか自慢げだった。
阿文 「この店の怪しげなものの数々は、そこで仕入れてきたのか……」
阿文は呆れてため息をついた。
吽野 「じゃあ、行こう。あ、毛玉も連れてってよ。犯人の気配を察知したら、にゃあ、と鳴くんだぞ!」
阿文 「犬じゃあるまいし……なあ?」
ノワール 「にゃー!」
[続]
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■本章は、2022年9月22日『不思議堂【黒い猫】』生放送の
ch会員(ミステリにゃん)限定パート内にて、
浅沼店主と土田店員が生朗読を行う予定です
ぜひ、物語と一緒にお楽しみください
(※朗読は、本章の全編ではない場合がございます)
浅沼店主と土田店員が生朗読を行う予定です
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■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について
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