第四話 第四章 依代
著:古樹佳夜
絵:花篠
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■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について
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◆◆◆◆◆神社◆◆◆◆◆
夕刻、廻り髪結の仕事が終わってから、
阿文は主人の待つ神社へと向かった。
長屋生活で集めた怪異にまつわる情報を報告するためだ。
吽野とは暮れ六に境内の前で待ち合わせている。
阿文 「少し早く着き過ぎたか」
今日は大店の娘たちに話しかけられることもなく、
仕事は早々に終わった。だから、まだ時刻は七つ頃で、
西の空に日が傾き始めたくらいだった。
阿文「吽行が来るまで、社の周りを綺麗に掃除しておくか」
髪結道具を片手に、阿文は境内へ続く石階段を上がっていく。
黒猫 「にゃあん」
ふと、小さな鳴き声に呼び止められた。
阿文 「ああ、なんだ。黒いのか」
阿文は微笑み、身を屈めると、黒猫の頭を撫でる。
黒猫は気持ちよさそうに、ゴロゴロと喉を鳴らした。
阿文 「ふふ。長屋から追いかけてきたのか? 残念ながら、今日は餌は持ってないぞ」
黒猫 「にゃーん」
黒猫は小さく鳴き声をあげると、阿文の少し前を歩き始めた。
阿文 「一緒に主人様のところに行くか?」
黒猫 「にゃあ」
黒猫は振り返って、目を細めて返事をした。
阿文 「さて、箒はどこに置いたかな」
石段を登りきった阿文は、早速自分たちの主人の待つ社に向かった。
ところが、社には奇妙な先客がいた。
何が妙かと言えば、相撲取りのような大きな体に、
大きさの合わない服を着ている。
それが、ひどくうす汚れた風体で、
ぼんやりとした表情で、お参りをするでもなく、
一人で立っている。
その大男は、じっと社を眺めていた。
阿文 (……この異様な気……! まさか)
阿文の横で、黒猫も毛を逆立てた。
けれど大男は、威嚇する猫の声に一瞥もしなかった。
阿文 「もし?」
阿文は声をかけた。しかし、
男 「……」
男が阿文の言葉に反応を示すことはなかった。
その場でゆらゆらと揺れながら、口をだらんと開けたままだ。
日の落ち始めた神社に、男と阿文は二人きりだった。
大男の影が長く伸びてくる。その様子は一層不気味だ。
しばらくして、男は社殿をぐるぐると回り始めた。
何が目的なのか、検討もつかない。
いよいよ阿文は警戒の色を強め、大声で呼びかけた。
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