ラヴクラフトの影響が強いヘヴィメタル・アルバム


クトゥルフ神話などのダークでホラーなSF小説を多数創作したH・P・ラヴクラフトは、生前よりも1937年の死後に有名になり、今現在も数限りないジャンルに影響を与えています。


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当然ヘヴィメタルもその例外ではなく、代表的なところでは、メタリカのクリフ・バートンや、オジー・オズボーンらが好んで楽曲の題材にしています。

そこで今回は「Metal Injection」が選んだ、H・P・ラヴクラフトの影響が強いヘヴィメタル・アルバム8枚+αをご紹介。なお、上記2人以外からのセレクトです。


8:ヴェイダー/『ソティス』


動画で歌詞が流れるのでわかりやすいかと思いますが、「古のもの」や「クトゥルー」、「ヨグ=ソトース」といった単語が登場します。効果音付きで詞が朗読されるような雰囲気でクトゥルフ神話を歌っているようです。

ヴェイダーはポーランドのデスメタル・バンドですが、名前の由来は読んで字のごとくダース・ベイダーです。

SF映画や空想科学、ホラーが好きな辺りに親近感が持てます。

ヨグ=ソトース[Wikipedia]


7:セルティック・フロスト/『モービッド・テイルズ』


スイスのブラック・メタルバンドである彼らもまた、デビュー作全編をラヴクラフトへのリスペクトで埋め尽くしており、「ヨグ=ソトース」、そして「アザトース」などの名称が飛び出します。

さらには、1924年にハリー・フーディニのゴースト・ライターとしてラヴクラフトが書いた『ファラオとともに幽閉されて』に登場する、古代エジプト6番目の王朝のファラオ(君主)である女王ニトクリスの呪文も出てくるとあり、かなりラヴクラフト作品を研究していると思われます。

アザトース[Wikipedia]


6:マサカー/『フロム・ビヨンド』


1920年の短編小説『向こう側/彼方より』よりタイトルが付けられたアルバム。この世の向こうの世界に棲む生命体が、人間の松果体を媒介して攻撃してくる話ですが、イラストレーターのエド・レプカによるジャケットは、おそらくその辺を表現しているのかもしれません。

さらにバンドメンバーは、スチュアート・ゴードン監督が映画化した『フロム・ビヨンド』(1987年)も観ていたのではないかと推測されます。ちなみにゴードン監督は、同様にラヴクラフト作品をベースに制作した、『ZONBIO 死霊のしたたり』を製作したことでも有名です。

なお、動画の曲『シンボリック・イモータリティー』は、ブラック・サバス時代のオジーが書いた『ビハインド・ザ・ウォール・オブ・スリープ』同様に、ラヴクラフトが1919年に書いた短編『眠りの壁を越えて/眠りのとばりを超えて』をモチーフとしています。


5:モービッド・エンジェル/『カヴァナント』


ギタリストのトレイ・アザトースは、上記のアザトースから間接的に名前を付けているので、彼らのアルバムは全曲がこのリスト入れてもおかしくはないのかもしれません。

厳密には、1977年に出版された『サイモン・ネクロノミコン』という魔術書がトレイ・アザトースの由来で、この本は古代中東の神話とラヴクラフトとアレイスター・クロウリーをごった煮にして書かれたものなのだそうです。

確かに直接的でないかもしれませんが、ラヴクラフトの影響の余波がどれほど強いのかが伺い知れます。

Simon Necronomicon[Wikipedia]


4:エレクトリック・ウィザード/『カム・マイ・ファナティックス...』


上記のモービッド・エンジェルと同じく、イングランド出身のドゥーム・メタルバンドである彼らもまた、全曲がラヴクラフト色に染まっています。

1993年に結成された彼らの楽曲の興味深いところは、あたかもブラック・サバスのような70年代風の音作りでラヴクラフトを題材にしているところ。

かつての記事「【考察】なぜロック音楽は「悪魔」を題材にし、それを良しとするのか?」でも70年代風のバンドを何組かご紹介しましたが、サウンド的に目指しているところは同じなのでしょう。

アルバム『ドープスローン』と『ウィッチカルト・トゥデイ』は、1970年に映画化された『H・P・ラヴクラフトの ダンウィッチの怪』に捧げる曲作りをしており、サンプリングもしているそうです。

このアルバムは、ラヴクラフトの宇宙的恐怖からオイシイところ取りしているそうなので、好きな方は必聴です。

Electric Wizard[Wikipedia]
The Dunwich Horror (1970) Trailer[YouTube]


3. ザ・ブラック・ダリア・マーダー/『アンホロウド』


「人生に必要な全ての知識が得られるヘヴィメタルの名曲20選」にて、「恋愛」の項でも登場した彼ら。

デビューは2003年ですが、現代のアメリカン・ヘヴィメタルにもラヴクラフトを好んで題材にしている良い例です。アルバム『アンホロウド』に収録された『エルダー・ミスアンソロフィー』では、以下のような歌詞があります。

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古のものの血液が俺の血管を燃えながら流れる
人類は神の血を知ることはない
俺は死ぬことが出来ない唯一の存在
俺はいかなる時でも殺すものだ
無限に憎悪を産む種(タネ)を撒いたのだ


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別の曲『ザイ・コズミック・ホラー』は、『クトゥルフの呼び声』を意識していることがおわかりいただけるかと思います。

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巨大な神秘の力が眠りについた
おぞましい深淵の底に潜伏している
海水が染み渡った堕落、起き上がる
汚らわしい舌の名前、彼のそれが私の中で衰退する
誘惑している、もう一度なにかが起こったであろうか
お前は死の家に横たわりそれを待つ


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デスメタルな雰囲気の歌詞ではありますが、文学的な単語や言い回しはラヴクラフト作品を読んでいないと思いつかないものも多々あるのです。


2. ハイ・オン・ファイア/『ブレスド・ブラック・ウィングス』


剣と魔法と9.11エイリアン陰謀説の他にも、ラヴクラフトからも影響を受けているという、マット・パイクがフロント・マンのバンド。

2012年のアルバム『デ・ウェルミス・ミステリイス(妖蛆の秘密)』は、クトゥルフ神話作品に登場する架空の書籍であり、クトゥルフ神話の第四の魔導書でもあります。しかしながら、1542年にケルンで出版されたラテン語の魔導書として実在し、現在世界の図書館や博物館などで15冊の存在が判明しているとのことです。

このアルバムの『ザ・フェイス・オブ・オブリヴィオン』と『コメス・ダウン・ヘシアン』は、ラヴクラフトの『狂気の山脈にて』と『妖犬(または魔犬)』をネタ元にしています。

歌詞にはラヴクラフトが創り出した、マサチューセッツ州の架空都市「アーカム」や、クトゥルフが眠る海底都市「ルルイエ」「古き者ども」などが登場し、墓荒らしが古代のお守りを掘り起こしている時に、妖犬が召喚されるシーンが書かれています。

妖蛆の秘密[Wikipedia]
ルルイエ[Wikipedia]
Lyrics to Cometh Down Hessian[LyricsMania]


1:ナイル/『アマングスト・ザ・カタコムズ・オブ・ネフレン・カ 』


ナイルのフロント・マンであるカール・サンダースは、古代エジプトおよびエジプト学、その他古代中東文化に加え、ラヴクラフトからも影響を受けた、専門性の高い曲を作っています。

本作のタイトルは1921年の小説『アウトサイダー』に出て来たものを拝借し、クトゥルフ神話に登場する、かつてエジプトのファラオだったネフレン・カの名前が冠せられています。

動画の曲『ビニース・ザ・エターナル・オーシャン・オブ・サンズ』では、ラヴクラフトが好む"宇宙の中で"という出だしから始まり、女王ニトクリスについて触れられています。

サンダースがラヴクラフトを好きなだけでなく、両者ともに古代エジプトに興味があることから、テーマが合致するのでしょう。

ナイル[Wikipedia]


オマケ:ブルー・オイスター・カルト/『シークレット・トリーティーズ』


大御所バンドであるものの、ブルー・オイスター・カルトがランク外になってしまったのは、ひとえにメタルではなくクラシック・ロックだから。

しかし、多くの若いバンドに影響を与えた偉大な彼らの功績を讃えて、選外というより栄誉賞的のように捉えていただければと思います。

1974年にリリースされたアルバム『シークレット・トリーティーズ』の、1曲目に収録された『キャリアー・オブ・イーヴィル』。この楽曲の歌詞は、死体の蘇生に勤しんだ医師『死体蘇生者ハーバート・ウェスト』を想い起こさせるものです。

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金を払えば貴方の外科医になりますよ
貴方の脳味噌を取り上げましょう
貴方を捕まえて、注射を打って、雨の中跪かせたまま放置するのです
私は貴方が見せたかったものを盗むことを選びます
そしてご存知でしょうが、私は謝罪などしませんよ
貴方の財産は奪い取るためのものです
私は悪魔の経歴を積んでいるのですよ


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このアルバムには、他にも「フレイミング・テレパシー」「アストロノミー」などといった、ラヴクラフトが好んで使った単語が登場したり、あたかも『インスマウスの影』を思わせる「サブヒューマン」なる言葉なども散りばめられていたりと、相当ラヴクラフトから影響を受けたのが見て取れます。

ハーバート・ウェスト[Wikipedia]


オマケ:ルーディメンタリー・ペニ/『カコフォニー』


イギリス出身の彼らもまた、メタルではなくアナーコ(アナーキズムの) ・パンク/デス・ロックのため選外となっていますが、1988年に作られたこのアルバムは、収録された30曲すべてがラヴクラフトにまつわる歌となっています。

ラヴクラフトの命日である1937年3月15日「天地万有が終焉した日」とされており、創作物のオマージュだけでなく、作家本人ですらこのような形で表現されているこだわりようがわかります。

Rudimentary Peni[Wikipedia]




いかがでしたか?

ラヴクラフトが創ったダークでミステリアスかつ恐ろしい世界観は、同様にダークでヘヴィな世界観を歌うメタルにも多大な影響を与えています。
 
かつての記事「【考察】ファンタジーとホラーとヘヴィメタルの深く濃い関係とは?」では、オジーが『眠りの壁を越えて/眠りのとばりを超えて』をモチーフにした同名の曲『ビハインド・ザ・ウォール・オブ・スリープ』を書いたことにも触れましたし、「史上最もヘヴィ・メタル魂を感じるSFストーリー7選」では『インスマスの影』を基に『THE THING THAT SHOULD NOT BE』、そして『クトゥルフ神話』を元に『The Call of Ktulu』といったインストゥルメンタル曲を書いたこともご紹介しました。

1890年にロードアイランド州で生まれたH・P・ラヴクラフトは、現代社会を嫌い、そうしたものから距離を置いていた古物好きの変わり者でした。

彼が生んだ「古のもの」や「クトゥルフ」などは、今ではSFでもホラーでもないところへ二次創作されるなど、ジャンルの枠を飛び出しています。

もちろんヘヴィメタルの世界においても、今後まだまだラヴクラフト作品を基にした楽曲が作られることでしょう。


NILE, MORBID ANGEL & 6 Other Heavy Metal Albums Inspired by H.P. Lovecraft[Metal Injection]
トップ画像:Cthulhu and R'lyeh/BenduKiwi (CC BY 3.0)[Wikipedia]
VADER-hymn to the ancient ones!![YouTube]
Celtic Frost - Nocturnal Fear[YouTube]
Massacre- Symbolic Immortality[YouTube]
Morbid Angel Angel Of Disease Covenant version[YouTube]
Electric Wizard - Return Trip[YouTube]
The Black Dahlia Murder - Elder Misanthropy (with lyrics)[YouTube]
High on Fire - Cometh Down Hessian[YouTube]
Nile - Beneath Eternal Oceans of Sand[YouTube]
Blue Oyster Cult: Career of Evil[YouTube]
Rudimentary peni - Cacophony ( Full album )[YouTube]
ハワード・フィリップス・ラヴクラフト[Wikipedia]
ラヴクラフト作品一覧[Wikipedia]

岡本玄介

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RSS情報:http://www.kotaku.jp/2015/09/lovecraft-inspired-heavy-metal-albums.html