当時4歳だったジョンさん(仮名)は、日中はお母さんが仕事でいなかったため、いつも近所に預けられていました。これくらいであればよくあるシチュエーションなのですが......。
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当時を振り返ってみると、彼はそこで性的な虐待を受けていたのです。しかも何年にも渡って。そして、その心の傷を癒してくれたのが「テレビゲーム」だった、というのが今回のお話です。
なお、以下には一部『ファイナルファンタジーVII』、『サイレントヒル2』、『メタルギア ソリッド V グラウンド・ゼロズ』のネタバレがありますので、ご注意下さい。
ジョンさんのご近所さんは普通の家庭で人の良さそうな方で、4歳の彼には色々とされてきたことが性的虐待だったとは、当時はわからなかったとのこと。
現在23歳のジョンさんは、この出来事をあまり人に話したことがありません。しかし、彼は今回の体験談が、もしかすると知らない誰かを救う手助けになるかもしれない、という思いから米Kotakuに連絡を入れたそうです。
さすがに4歳の時の記憶を思い出すのは難しいことですし、やはりジョンさんもぼんやりとしか覚えていないそうですが、当時を振り返り、こうおっしゃいます。
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当時の自分は幼すぎて、何が起こっているのかよく理解していませんでした。でも、かなり過酷で本当にシッチャカメッチャカだったと思います。
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ジョンさんはあまり積極的に加害者のことを思い出そうとはしませんでしたが、10代になった時に「自分は自殺することができる」ことを学び、実行を考えたこともあったそうです。しかし、そこで思い直します。
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ヤツが生きている間に、このことを誰かに話さないといけない。そうでなければ、私が持っている罪の意識を拭い去ることができないだろうと思いました。
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性的虐待は4~5年ほど続いた後、加害者一家は他所へ引っ越していきました。ジョンさんはその時にも、まだ何が起こっていたのかをよくわかっていませんでしたし、誰にも打ち明けられずに時が過ぎていったそうです。しかし彼の体験は、性的虐待だったと別の事柄によって判然としました。
若い時は「この件」について、あたかも無かった事のように振る舞い、目を背けて生ぬるいお湯に浸かっていることが幸せで楽チンだと思い、そうしてきたというジョンさん。
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深刻な鬱症状、そして怒りとパニックの発作で悩むようになってきたんです。
7~8歳の頃には、ありえないほど怒りっぽくなり、私が通っていた低所得層が暮らす地域の学校では、そういう子供達のための基金もありませんでした。子供の頃はとにかくたくさんケンカをしましたし、教師ともよく言い争いをしたりと、そんなことばかり。
その全ては、4歳の頃の体験に強く結び付いていたんです。その前まではおとなしい子供だったんですけどね。たぶん「この件」が、人々が言う「この世界はクソだ」と感じる事柄がこの世の中にはあることを学んだ、原体験の1つだったんだろうと思います。
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そして思春期に入ると、ホルモンの影響が絡んできます。そこでジョンさんが学んだのが、セックスについてで、その時だけは自身の中の(怒りの)スイッチがオフになったそうです。若い時を振り返ると、当時はより新鮮で暗黒面の強い状況下に身を置いていたことを思い出すとのこと。
性的虐待について思い出すのは、抵抗する力を奪われ、時間の経過とともに積もる深い恨みと憤り。しかし、そんな彼にテレビゲームが状況を好転させる力を与えてくれます。もちろんモニターの中の仮想空間での話ではありますが、それでも彼はパワフルになったと思えたのです。
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自分が操るキャラクターが何かしらその世界へ直接の影響を与えられるという点が、強くゲームに惹かれる理由でした。
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ジョンさんは7歳で『ファイナルファンタジーVII』と出会い、その世界観に引き込まれるようになります。どこに行くにもソフトをカバンに入れていたのだそうです。
ヒーローたちに感情移入できた作品だった
『FF VII』を通じて、キャラクターたちも心に深い闇を抱えつつ、人生を送っているということに気が付いたジョンさん。例え過去のトラウマを完全に克服しなくても、ちゃんと生きていけるんだと考え始めるようになったそうです。
ゲームの中で、クラウドの記憶は偽りのものでしたし、ヴィンセントはとある事件がきっかけで罪の意識を背負い続けている上に、人体実験で老化しない身体になっています。バレットは彼の愛した人たちを失ってしまい、世界を憎しみの目で見ていました。
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キャラクターたちは世界を救うために活動しているというのに、みんな何か辛いものを抱えていますよね。ゲームは色んな意味でバカバカしいのかもしませんが、私がプレイしていた時の年齢の子供たちにとって、そこには暗くて複雑な物語が流れていたんです。
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2011年の統計によれば、アイルランドの人口の84.2%がローマ・カトリック教徒で熱心に教会に通っており、人々の間でもセックスが議題になることはほとんどない、という文化的背景があります。
ジョンさんが親にも「この件」について話せなかったのは、こういった文化も少なからず影響しているのです。しかしジョンさん曰く、若い世代を中心にこうした性質は変化しつつあるとのこと。
すべてのゲーム体験が明るく前向きとは限りません。ちょっとした会話の言い回しや音、感触などなど......予期せぬことがきっかけとなり、過去の悪い記憶を呼び起こしてしまう可能性は、いついかなる時にも潜んでいます。
なので、ジョンさんもオンラインゲームを遊んでいる時は、とても気をつけながらプレイしているとおっしゃいます。たとえば、AというプレイヤーがBというプレイヤーを倒すために「レイプ」という単語を使って罵倒するといったことが、容易に起こり得るからです。
違う例として、『P.T.』というホラーゲームのデモ版は、ビックリ系の恐怖を与えてくれますが、それは不安感を刺激することにつながる可能性があるため、ジョンさんはこうしたストレスも抱えていたとおっしゃいます。
最近彼がプレイした『サイレントヒル2』では性的な暴力が含まれていましたし、『メタルギア ソリッド V グラウンド・ゼロズ』でも、パスの身に何が起こったのかが予見できたとのこと。カセットテープの記録を聞くと、パスが拷問され、強姦されていることは想像に難くありません。
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私は強姦や性的虐待の被害者のことをおもんばかって代わりに語るようなことはしません。話をするのは私のことだけです。しかし、ありのままだと重い話なので、間違いなく残酷な描写は避けられません。
実際に話をすると、不愉快なシーンが異常に長いのですが、もしあなたの身に起こって、その話をすることになったら、きっと同じでしょう。虐待行為は終わるまでの待つ時間が長いからです。
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暗闇に希望も見えない世界
ジョンさんにとって、テレビゲームの中は複雑にもつれた感情が起こす反応を整理する場所でした。
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あまり安全ではない状況や、突然の心配性が顔を覗かせる状況でのストレスに対して、筋肉が覚えている記憶がどう振る舞うのか? を与えてくれるのがゲームでした。
そういった現象はたまに起こるんです。心のバランスを取ろうとしていて、自分がすべてをコントロール出来るゲームの中で、体験を振り返るなど、とても容易に出来るようになりました。理解していただくのは難しいかもしれませんけどね。
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数カ月前に叔父さんを亡くしたジョンさんは、気持ちを生理するべくSteamのゲーム『ザ・バインディング・オブ・アイザック』を始めました。
本作の終わることの無さそうな地下ダンジョンで、彼は100時間を費やしたとのこと。その間、彼はゲームのメカニズムをコピーしていたそうです。
ジョンさんが心の安らぎを見出すのは、もちろんテレビゲームだけではありません。人に話すことで重荷は軽くなりますし、精神科医やカウンセラーに話すことも助けになります(医者はゲームの話は理解しませんが)。そして、この記事を書いたクリペック記者と直接話す機会も、近いうちに巡ってくるでしょう。
ジョンさんは、似たような境遇にいて、人に話すのが怖いと思っている人たちに手を差し伸べたいと最初の連絡で書いてきたそうです。彼も最初は話すことに恐怖していました。しかし今は、話した相手はきっとあなたの事を助けてくれるでしょうし、そこまで孤独にならなくても良いと考えているそうです。
心理学的な治療方法は色々あるかと思いますが、やはり子供の手が届きやすいテレビゲームに、たまたま共感しやすいヒーローたちがいたことが救いだったのでしょう。
全ての性暴力被害者にテレビゲームが効果的なわけではないと思いますが、テレビゲームにはこういう側面もありますよ、というお話でした。
画像:ジム・クック
Sex Abuse Survivor Finds Comfort In Video Games[Kotaku]
(岡本玄介)
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