CGの技術が進化したおかげで、ロボットが高速で変形したり、恐竜が人間と同じ時代に現れたり、世にも美しい異世界へ旅立だったりといった映像が見られるようになりました。しかし、そういったCGが映画をダメにしている、もしくは観客の楽しみを奪っていると感じたことはないでしょうか?
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現在「VFXが今の映画をダメにしており、それは脳の認識の影響」という主張をしたYoutube動画が物議を醸しています。
そこで今回は、Sploidが紹介したStoryBrainの動画と、その動画を巡るYoutubeユーザーや評論家の意見をご紹介します。
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コンピューターグラフィックが登場したばかりの頃は、 1シーンにひとつのオブジェクトをCGで再現するのが限界でした。つまり、通常撮影されたシーンにCGで作られた何かを合成するしかなかったのです。しかし、技術は進歩し、2004年頃からソフトウェアは背景を含む全てを違和感なくCGで再現できるようになりました。
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StoryBrainは、「2005年に公開されたピーター・ジャクソン監督率いるWETAデジタルのリメイク版『キング・コング』が、初のシームレスな背景が実現したCG映画だと個人的に考えている」と言っています。
そして、これよりも凄いCG映画が公開されても観客の作品への評価は上がることがなく平坦の一途。「映画のピーク」は過ぎたと主張。これはなぜなのでしょうか? 彼は次のように考えています。
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私たちの脳は作られた画像を処理する上で勘違いを起こします。映画は私たちの感情を刺激するものです。これは、私たちが見ている映像を「信じられる」と判断した場合にのみ発揮されます。
しかし、「嘘っぽい」と感じると、途端に全てが鈍り始めるのです。私たちは「これは凄いものを見せられているのだ」という理解はできますが、映画が持つ魔法の力は発揮されず、リアクションも悪くなります。
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CG技術の発展で、製作側はコンピューターを使い、CGと実写の境界線をできる限り埋めて、よりリアルに見せることが可能になりました。しかし一方で、その技術を使いすぎ、今やシーンの全てが極限までギラギラと磨かれすぎているとも言っています。さらには「今のCGIはより美しく、より印象的で、より嘘っぽい」とも。
ここで、2003年の『ハルク』と2008年の『インクレディブル・ハルク』の映像が例として登場します。そしてどちらの映像が好ましいか、という話題に。StoryBrainは「見た人全員が、CGがはるかに雑にも関わらず2003年版のハルクと答えるであろう」と断言。この理由を下のように説明しています。
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2003年当時、コンピューターが再現できたのはハルクのみ。つまり、このシーンはCGのハルクが普通の背景の中に挿入されている状態です。一方の2008年版は、CGのハルクが炎や煙といったエフェクトの中、時にはギラギラしたCGで再現された背景の中にいます。
私は日中の街中を歩くことは多々ありますが、暗くて煙の立つ荒れ果てた街中を歩いた経験はありません。つまり、2003年版の方は自分の経験と照らし合わせて脳が「信じられる」と判断し、自分が求める「街中で暴れるハルク」という「見たいもの」として解釈するのです。しかし、2008年版ではそういった「親近感補正」なるものが働きません。
つまり、「WETAエフェクト」(美しすぎるCGを生み出すWETA Digitalから命名)は、私たちの脳に「リアルな映像」ではなく「コンピューターで作った美しいイラスト」と認識させてしまうのです。
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StoryBrainは、これは「信用や信頼できる性質」がより重要にも関わらず、映像の「美しさ」や「印象深さ」が「信用」を凌駕してしまっている時に起こる問題だと考えています。
そして、アメコミアーティストのアレックス・ロスの作品を例に出して「彼のアートは決して物理的に素晴らしいわけではありませんが、よりリアルな人間っぽく描かれているから効果的だ」と説明。最後には、CGは日常をリアルに再現するような、バランスを持った使い方が良いとまとめています。
この動画はアップロードから数日で視聴数80万を超えました。「脳が拒否するからCGだらけの映画が面白くない」説は一見すると納得するパワーを持っていますが(データの比較なんかがあると、特にそれっぽく思えます)、これに反対意見を述べる人たちが続々と登場。そんな中、Cartoon Brewが動画に対して冷静にツッコミを入れつつ、著名人のコメントを取り上げています。
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「凄いCG映画が公開されても観客が与える作品への評価は平坦の一途」とコメントして、IMDBのスコアを並べ、鬼の首を取ったかのように「評価が上がっていない!」と主張していますが、これだけで「映画のピークが終わった」とは言い切れません。
まず、「映画のピーク」というのが曖昧な表現です。また、2つの『ハルク』のシーンを比較して「脳の認識」云々を主張しているが、ナンセンスではないでしょうか?
「Every Frame A Painting」動画シリーズで知られるトニー・ゾウ氏は、この動画に対して「純粋に馬鹿げている、恐らく彼は近年のブロックバスター映画は酷いと思っているタイプの人間で、映画をよく理解せずにVFXもしくはCGIをターゲットにしている」とツイッターでコメントしています。
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ILMのコンポジット・スーパーバイザーのトッド・ヴァジリ氏は、より冷笑的なツイートをしています。
The VFX industry should commission Clickhole to make a "9 Ways Modern Costumes Are Ruining Movies!" video essay.
— Todd Vaziri (@tvaziri) 2015, 7月 3
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「VFX業界は『近年の衣装が映画をダメにする9つの方法』というビデオエッセーをClickholeに拡散してもらうべきですね」
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最後に、Cartoon Brewのアミッド・アミディ記者は、非常にユニークな例えを使って記事をまとめています。
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多くの映画マニアが、ハリウッドの懲りすぎで魂が抜けたような壮観に飽き飽きしているのは確かでしょう。そういった人たちが、責任の所在を探すのも理解できます。しかし、映画が人の心を動かさなくなったというのをVFXアーティストの責任にするのは、ファストフードのハンバーガーの責任が牛にあると言っているのと同じくらい乱暴ではないでしょうか?
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この動画が的を射た意見なのかどうなのかは分かりませんが、CGだらけのハリウッド映画に辟易している人にとっては、納得な点もあったのではないでしょうか? そして、多くの業界人や映画ファンが話題にするほどの影響力を持つ考えではあったようです。
皆さんはどう感じましたか?
[via Sploid]
This "WETA Effect" Video Is The Dumbest Thing You'll See All Week[Cartoon Brew]
Every Frame a Painting[YouTube]
Todd Vaziri(@tvaziri)[Twitter]
(中川真知子)
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