私は殺してない。
『サイレントヒル シャッタードメモリーズ』のゲームデザインと脚本を担当したサム・バーロウさんによる最新作『Her Story』。
夫が行方不明となり、警察に呼ばれた妻が事情聴取を受ける様子を収めた動画を見ながら進めていく、1994年が舞台の犯罪捜査ゲームです。
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実写の動画がメインとなっており、ある意味90年代のFMVアドベンチャーゲームのよう。そんな『Her Story』を英Kotakuのジュリアン・ベンソンさんがレビューしているので、読んでみましょう。
私が事件を解決したのは午前2時。暗い部屋に座って、「ローマ」、「エリックって誰?」、「ザ・ロック」などと殴り書きされた紙に囲まれていました。
エンドロールを見終わっても、頭の中はまだ殺人事件の事を考えていました。そして、これまでに『Her Story』に少しでも似たゲームをプレイしたことがないことに気づいたのです。本作での体験は、他のどのゲームとも違うものでした。
時をさかのぼること1994年6月、ハンナ・スミスという女性が、夫のサイモンが行方不明なったと通報。そこから1か月、ハンナは7度に渡って警察に呼び出されます。プレイヤーの役割は、警察による彼女への事情聴取の様子を調べ、殺人事件を解決する調査員です。
それぞれの事情聴取の様子は細切れにされ、関連づけられ、文字起こしされ、検索できるようになっており、それらを調べていく中で、何がなぜ起きたのか? が明らかになっていきます。
『Her Story』を始めると、古いファミコンっぽいコンピューターターミナルが起動されます。データベースプログラムがすでに表示されており、検索ワードは「MURDER」(殺人)と記入されている状態です。検索ボタンを押すと、4つの事情聴取動画が表示されます。ここからどうするかはプレイヤー次第です。
レトロな画面で捜査を進める
ハンナの話から、場所、名前、物事などなど、検索キーワードとなりそうな単語を集めます。全ての動画は文字起こしされており、トランスクリプトが存在するため、「the」とかいった平凡な単語やフレーズをそのまま検索できます。例えば「murder weapon」(殺人の凶器)などでもOKです。
なお、このレビュー中にどんなキーワードを書くかにはとても気を使っています。このゲームの楽しさは糸口を自分で見つけることにあるのです。
こうしてプレイヤーは捜査を進めていきます。数本の動画を見ると、検索したい単語の山ができたので、検索する度にその単語を消していきました。そして、それぞれの動画には新たな尋問内容が。
気がつけば私は何が起きていたかではなく、なぜ起きたのか? を探し求めるようになっていました。いったいハンナとサイモンの過去に何があったのかが問題になっていったのです。
果たしてハンナは殺っていないのか?
最も印象的だったのは、この作品がノンリニア(※一直線ではない)なゲームであるにも関わらず、そのストーリーがまるでそうなるべく書かれたかのように感じられたこと。
つまり、自分で選んだ順番にストーリーが紐解かれていくのに、まるで自分で選択する術のない探偵ドラマのストーリーのような予期せぬ展開に驚いたのです。
他のルートでストーリーを進めていったプレイヤーたちとも話をしましたが、彼らは違うタイミングで作中の物事を見つけていったにも関わらず、それでも自分のために作られたストーリーに感じられたと言っていました。
これは本作のクリエイターで脚本家のサム・バーロウさん、ハンナ役のヴィヴァ・サイフェルトさん、この2人によるところが大きいでしょう。それは、何が起きたのかがわかっていくにつれて、すでに見た動画に新たな側面が生まれていくからです。
気遣いに聞こえていたのが計算高く、冷淡に聞こえていたのが愛情深く、といったようにハンナの言葉一つ一つが別の意味を持ち始めるのです。バーロウさんの生んだ言葉は様々に読み取れ、サイフェルトさんの演技は見るものに深読みさせる、この2つの相性がなんとも素晴らしいです。
ゲーム中のデスクトップの中にあるプログラムの一つは、データベーストラッカーとなっており、どの程度の動画が未見で、それが時系列のどの位置にあたるのかがわかるようになっています。動画は200以上あり、すべてを見つけられるとストーリーの全貌がわかるのだと思いますが、それも馬鹿げた考えかもしれません。
とはいえ、不完全なストーリーだといっているわけではなく、必要なものは全てそこにあります。しかし、これは誰かの日記を読めばその人を完全に理解できると信じるようなものです。自分の中に彼らのイメージを構成できるだけのパズルのピースがあったとしても、その全貌を理解することはできないのです。
本作でしか味わえない感覚がある
複雑な現実を、あらすじのあるストーリーに変えたいという人間の欲求。その根本的な欲望に応えるのが『Her Story』です。
人生は後ろを振り返り理解されるものです。私たちは常に断片を組み立てて「出来事」を作り上げ、それに意味を当てはめます。本作は、その人間の性質が活用されるよう仕向け、それをうまく利用した作品、心奪われる作品です。
『Her Story』が与えてくれるもう一つの感覚は「覗き」です。動画の撮影方法、検索して好きなものから見られる、ハンナにはこちらが見ていることがわからないという感覚。これがまた、プレイヤーをゲームへのめり込ませます。恐らく、バーロウさんもその力を知って、このシステムにしたのでしょう。
稀にですが、ゲームの世界の明るい光がゲーム内コンピューターのスクリーンを照らし、反射の中にゲーム内の自分自身の姿が垣間見えます。この繊細なギミックが瞬時に生み出すのは、自分自身が「他人の人生を覗き見る者」であるという感覚です。
『Her Story』はとても知的なゲームで、まだ書きたいことは山ほどありますが、そうすればネタバレになってしまいます。そのかわり、もしあなたが探偵ドラマやアドベンチャーゲーム、他人の日記を読むのが好きであれば、是非プレイしてください。そして紹介してください。
『Her Story』は唯一無二の作品です。
かなり熱のこもったレビューでしたね。『Her Story』は英語のゲームではありますが、動画内のシーンには英語の字幕が表示されるので、聞き取りが苦手だという人でも楽しめるはず。
PC、Mac、iPad、iPhone向けに販売中で、Steamでは通常価格598円となっています。
[via Kotaku]
(abcxyz)
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