格闘ゲームにおいて、ストーリーにこだわった作品というものはそれほど多くはありません。大体は「格闘大会開催するよ! 全員集合!」程度のものですし、実際、本記事で紹介する『ザ・キング・オブ・ファイターズ』シリーズの初代作品『KOF94』もそんな感じでした。
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仮に凝った設定が練られていても、多くのプレイヤーはコンボと勝率の事で頭がいっぱいです。ストーリーデモはボタン連打、エンディングは始まると同時に席を立つなんてのも日常茶飯事なジャンルとなってしまいました。
しかし、そういった考え方は改めたほうが良いのかもしれません。というのも、2010年よりアーケードで稼働を開始したSNKプレイモアの格闘ゲーム、『THE KING OF FIGHTERS XIII』(以下『KOF13』)のストーリーが、格ゲーとは思えない壮大なものとなっていたのです。
というわけで今回は、壮大で切ない『KOF13』のストーリーをご覧ください。以下の動画は、アーケード版では語られなかった部分を補完した、家庭用『KOF13』のストーリーモードのまとめとなっています。動画を見る暇がない......という方は、下で簡単にまとめていますので、そちらをご覧ください。
ああ、なんだこれは...本当に格ゲーのストーリーなのか...。切ない。切なすぎる。ラスボスの残り体力あと1ミリのところで削り殺された時よりも切ない。
せっかくですので、内容を簡単にご紹介いたしましょう。なお、私は最後に『KOF11』をちょっと触ったのがシリーズ最後のプレイですので、過去作について間違っている部分などもあるかもしれませんが、ご了承ください。
話は前々作『KOF11』から参戦した「エリザベート・ブラントルシュ」が、主人公「アッシュ・クリムゾン」への思いを語るところから始まります。2人の間には、あまりにも深い因縁が刻まれていました。
目つきが鋭すぎるエリザベート
エリザベートは、アッシュ編の敵である「遥けし彼の地より出づる者」を倒す使命を負った一族の者。アッシュも同じくその使命を負う一族の人間であり、またエリザベートの幼馴染で弟分でライバルで想い人というギャルゲーも真っ青な主人公とヒロインぶりです。
まあエリザベートの年齢だけはあんまりギャルゲーじゃ...いえ、なんでもありません。
しかし、アッシュは「KOF」2大会にわたって、奇妙な行動を繰り返していました。「神楽千鶴」と「八神庵」に宿る「三種の神器」の力を奪い取り、敵であるはずの「遥けし彼の地より出づる者」に協力するような態度をとっていたのです。
「使命なんて忘れた」。エリザベートにそう言い放ち、まるで敵対するような行動を取るアッシュ。自分に何も語ってくれず、隠し事ばかりをするアッシュ。いつからか距離をおき、ついには自分の前から姿を消してしまったアッシュ。
「アッシュのことが何もわからない」。この10年で出た、エリザベートの悲しい結論です。
もしアッシュがこのまま自分の使命を果たそうとしないのであれば、自分の手でアッシュを始末する。壮絶な覚悟を胸に、エリザベートは「KOF」に参戦するのでした。
一方、当のアッシュ。「遥けし彼の地より出づる者」のメンバーである「シュルーム」と接触し、「KOF」の招待状を受け取っていました。その最中、シュルームにちょっとした入れ知恵をします。
入れ知恵中
「アノオカタに入ることを禁じられている部屋に入ってごらん」。そう言い残し、その場を去ります。
場面は変わって、バーンシュタイン一家。今大会は、初代「KOF」の主催者である「ルガール・バーンシュタイン」の娘「ローズ・バーンシュタイン」によって開催されることとなりました。
ローズが開催のあいさつの準備をしていると、兄の「アーデルハイド」(本大会未出場)が部屋に入ってきます。大会のことを聞かされていなかったアーデルハイド(本大会未出場)は、なぜ自分に黙って開催を決定したのか問い詰めます。
DLCですら使用キャラにならなかったアーデルハイド氏
しかし、ローズはアーデルハイド(本大会未出場)が何を聞いても上の空。実は前大会の終了後から、「遥けし彼の地より出づる者」のメンバー「牡丹」によって操られているのです。
妹の変容ぶりに、うろたえるアーデルハイド(本大会未出場)。圧倒的なほどの実力を持ちながらも消極的な彼は、解決策を見いだせないまま時間だけが過ぎていくのでした。大会に出場さえしていれば...。
そして、「遥けし彼の地より出づる者」たちの思惑通り、開催されてしまった「KOF」。
あらぶる開催のローズ
その裏では、やはりアッシュが暗躍していました。思い悩むアーデルハイド(本大会未出場)に接触します。
何このポーズ?
「一人で抱えていちゃ何もわからないだろうけど」「友達にでも相談してみるんだね」。それだけ言い残し、消えてしまいました。
アッシュの言葉に意を決したアーデルハイド(本大会未出場)は、ハイデルンに連絡を取ります。...友達ってハイデルンかい! ハイデルンは父ルガールのライバルのような存在であり、年齢もそのまま親子ほど離れています。
本大会を調査しているハイデルンに、主催者の兄という立場を利用して情報を提供するアーデルハイド(本大会未出場)。会場地下に、謎の巨大装置が設置されているのを突き止めます。
その頃、「遥けし彼の地より出づる者」たち。リーダーの「サイキ」は、事態の進行の遅さに立腹していました。
THE・パワハラ上司
部下に「○ね」だの「無能」だのひどい言葉を浴びせまくります。しかし、部下のムカイは「...ゲキレイのおコトバ、アリガタく」とけなげな返答。このムカイ、「KOF2003」のラスボスなんですがね...。
そんな中、アッシュはサイキとも接触していました。「三種の神器」を集める計画の進行について聞かれると、「順調だよ。全然大丈夫。」そう言って、また去っていきます。
同時に、「遥けし彼の地より出づる者」たちの中で、ほころびが生じ始めます。アッシュの言葉に乗って禁じられていた部屋に入ったシュルームは、自分たちが捨て駒にされる予定であることを知ってしまったのです。
マッシュルームは見た!
さまざまな思惑が交錯する中、ついに「KOF」の優勝チーム(=プレイヤーの選択したキャラ、本稿ではエリザベートチームとします)が決まりました。しかし、その次の瞬間、「遥けし彼の地より出づる者」たちがついに人間たちの前に姿を表します。
ローブのセンスがネスツっぽい...
目的である「オロチ」の復活のため、エリザベートたちに襲いかかるサイキ。両者は、激しくぶつかり合いました。
しかしその時、サイキたちの後ろにあった「扉」が閉まり始めてしまいます。サイキたちは過去からやってきた存在であり、この「扉」を通じて時間を超えてきました。
「扉」が閉まり始めた原因は、そう、シュルームたちの裏切り。勝っても捨て駒にされることを知ったシュルームは、サイキを見限ったのです。
思わぬ事態に、戦闘態勢を解くサイキ。その次の瞬間...
ドゴォ
主人公、アッシュの一撃がサイキの胸を貫きました。これまで悪に徹し続けていたアッシュの、策が実った瞬間です。
崩れ落ちるサイキ。力を奪い取ったアッシュ。もはや、勝敗は決した...かに見えた、その次の瞬間。
肉体を乗っ取られるアッシュ
アッシュの肉体は、サイキの精神に乗っ取られてしまいます。この精神を乗っ取られたアッシュこそが本作のラスボス「血の螺旋に狂うアッシュ」となり、エリザベートたちとアッシュ編最後の戦いを繰り広げるのです。
なんとかサイキ(アッシュ)を退ける、エリザベートたち。しかし、サイキは今にも閉じてしまいそうな「扉」の向こうに逃げようとします。
過去に戻れば、またやり直すことができる。今回はダメでも、また時間を超えて来ればいい。サイキは、アッシュの意思に過去に戻るよう命じます。
普通に考えれば、このまま「扉」が閉じるまで過去に戻らなければアッシュの勝利です。しかし、実はサイキはアッシュの祖先。皮肉にもアッシュの一族は、退けなければならない対象の血を引いていたのです。そう、ちょうど八神家が本来封じる存在であるオロチの力に、身を染めてしまったように。
このまま過去に戻らず「扉」が閉じれば、もう過去と現代を行き来することはできません。もしそうなれば過去の世界からサイキの存在が消え、タイムパラドックスが生じ、アッシュはサイキもろとも消えてしまいます。それは「死」よりも恐ろしい...歴史そのものからの「消滅」を意味するもの。
最後の決断
しかしアッシュは、動きません。「ボクはこの世界のことが...けっこう、気に入ってるんだ」。そう語り、自らを犠牲に人類の未来を救うことを選んだのです。
そして、エリザベートからの悲痛な声「あなたを連れ戻しに来たのに!」という言葉が響く中、アッシュは...
最期
「消滅」しました。
次の瞬間、支配の糸が切れ倒れるローズ。それを受け止める、アーデルハイド。戦いの裏で苦悩していた兄妹もまた、アッシュに助けられたのです。
倒れるローズ、受け止めるアーデルハイド
しかし、ローズが倒れることを予見できた理由が...消滅したアッシュの存在が、思い出せません。何を思い出そうとしていたのかも少しずつ記憶から消えていき、アーデルハイドの記憶から、そして全人類の記憶から、アッシュの存在が消えてしまったのです。
こうして、「KOF」は、そして「アッシュ編」は、幕を閉じました。
神、そらに知ろしめす。
一人の男の、消滅をもって。
なべて世は事も無し。
一人の女の、深い悲しみを残して。
エリザベートが戻りたいと語った、「あの頃」
ああ、演出と音楽も相まって、目頭が...これ『KOF』ですよ。格ゲーですよ。アーケード版でプレイしたら、スティック握ったまま泣いてまうやん...。
また、その直後の様子は、「エリザベートチーム」の個別エンディングによって語られます。以下の動画の3分35秒からご覧ください。
「何か」を思い出せずに待ち続ける、元チームメイトの二人。そして、消滅しているはずのアッシュのヘッドバンドを手に、涙を流すエリザベート。
高貴な女性の涙
エリザベートの記憶の中にだけは残っているのか、悲しみの理由も思い出せず苦しんでいるのか。それは、誰にも分かりません。
こちらもまた、心が痛いほどに切ない...。エリザベートのプライドの高さと涙のギャップが、心を打ちます。これ格ゲーですよね...?
『KOF』らしからぬダークヒーローだったアッシュが、ライバルの高飛車姉さんだったエリザベートが、こんな結末を迎えていたとは。動画を見て、正直かなりの衝撃を受けました。
特にエリザベートは『KOF11』の時に「なんか乳のでけえタカビーな姉ちゃんが出てきた」ぐらいにしか思っていなかったのですが(本当にすみません...)、動画を見て私の中で株がストップ高です。なんて良いキャラだ。
格ゲーにおいて、ここまで練られたストーリーがしっかりと完結したというのはすごいですね。SNKプレイモアの、本気を見ました。
ところで、ストーリーモードの動画の最後に、続編を匂わすようなカットがスタッフロールの後に入っていますね。もう5年も新作が出てないし、打ち切りかな...と思いきや、SNKプレイモアの公式ページにはKOF開発スタッフ募集の文字が!
もしかすると、近いうちに『KOF14』が発表されるかもしれませんね。私も久々に、格ゲーに復帰しちゃうかもしれません。楽しみです。そのときは、エリザベート使うぞー!
最後に、『KOF13』があまりにも悲しい終わり方で、なんだか切なくなってしまったというあなた。ちょっと元気を出したいのであれば、先ほどのエンディング動画を7分32秒まで進めて極限流チームのエンディングを見てみよう! 絶対笑えるぞ!
絵面があまりにも卑怯
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(コンタケ)
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