ダニエル・ラドクリフ主演の復讐ダーク・ファンタジー映画『ホーンズ 容疑者と告白の角』。
今回は本作を手がけ、『ヒルズ・ハブ・アイズ』、『ハイテンション』、『ピラニア3D』などでも知られるフランスのホラー王、アレクサンドル・アジャ監督にインタビューして参りました。
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これまでにも何度かホラー映画の監督を取材してきましたが、彼らのほとんどが影響を受けた作品として名前を挙げたのが、アジャ監督の『ハイテンション』。
そんな絶大な支持を得るアジャ監督に、これまでの作品に比べるとエモーショナルな要素もある『ホーンズ 容疑者と告白の角』のお話と併せて、ホラー観についても話を聞きました。
アジャ監督のホラーのルールとは?
――原作にもそのテイストはありますが、本作はヒーロー誕生譚のようにも感じられました。製作の際、「ヒーローもの」というのは意識したのでしょうか?
アレクサンドル・アジャ(以下、アジャ):原作でも、非常につまらない、何も起きないイブの楽園からアダムとイブを救ったのは悪魔であり、スーパーヒーローであるといった書かれ方をしているから、そういった要素はあるとは思う。
でも、自分がこの物語に惹かれてやろうとしたことは、キリスト教の神話のシンボリズムをとって、それを何か寓話という形で、例えば初恋や裏切り、復讐といったものを描くことなんだ。哲学的な寓話みたいなものにしたかったんだよね。
その中で、主人公が堕天使のような存在であり、始めは愛に満ち溢れていて、段々と悪魔になっていくキャラクターであるところは確かに悪魔、あるいは堕天使という「ヒーローのオリジンもの」と言えるかもしれない。
――監督の好きなスーパーヒーロー作品は何でしょうか?
アジャ:好きな作品はたくさんあるから選ぶのは難しいけど、最近で言えばクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』シリーズ。特に「シュールさ」と「ダークさ」を持ち合わせている『バットマン ビギンズ』は素晴らしいヒーローのオリジンものだと思う。
でも他にもっとクラシックな、例えば最近は『ベン・ハー』の事をちょっと考えたりするね。あれもヒーローが生まれ、そして倒れ、そして、また再生するという物語で、非常に好きな作品なんだ。
――本作での残酷描写や悪魔の姿、蛇はCGを使わずに撮影している部分も多いと思うのですが、監督がCGと特殊効果を混ぜることにこだわる理由はなんでしょうか? また、そういった点で監督が影響を受けた作品があれば教えてください。
アジャ:僕自身、テクニックはミックスすることが一番いいと思っている。VFXとCGだけ、あるいは全部実際にやって撮影すると、どちらにしても観客は何か作り物のように感じてしまって、せっかく(作品へ)入りこんでいたのが、スポイルされてしまう事があると思うんだ。
どんな映画に対しても、観客は強く、中へ入っていけるような、究極の映像体験というのを求めていると思うから、それを作るためには両方をミックスする方法しかないと自分は信じている。「ここが嘘っぽい」、「ここが作り物っぽい」、「ここがリアルだね」といったバランスも綺麗にとれると思うしね。
特に、そういったタイプの作品のバランスで影響を受けた作品はないけれど、例えば『ジュラシック・パーク』も1本目はもちろん革新的だったけど、2本目でさらに良くなったと思うんだ。それはやっぱりリアルなものと作り物をミックスして見せているから。別に自分の作り方に対してインパクトがあったわけではないけれど、例えばで1本挙げておきます。
ヒロインのメリン演じるジュノー・テンプルと大量の蛇(本物)
――少年時代のシーンでPixiesの『Where Is My Mind』が流れますが、あれは映画『ファイト・クラブ』へのオマージュなのでしょうか?
アジャ:答えとしては『ファイト・クラブ』へのオマージュです。
元々ジョー・ヒルの小説に惚れ込んでいて、カルトとして愛されている作品であるんだけれども、映画にするときのスタイルを人に説明するのがとても難しかったんだ。最初はハイパーリアルな写真家のグレゴリーグレッツエンと19世紀のフランス人イラストレーターのクサフトレみたいな映画と言っていたんだけど、誰もわかってくれなくて、ハリウッドでよくやる映画の掛け合わせで説明するようになったんだよね。
それが『ブラック・スワン』×『ファイト・クラブ』だったと(笑)。内容的にはどちらにもリンクしていないんだけど、何か同じムードみたいなもの、あるいは、脈々と流れている、何かかぶっているところがあるから、そう説明していたんだ。
若い時代のフラッシュバックに音楽を被せる時にどうしようと思ったときに、10代の頃に彼らが聴いていた音楽はなんだろう? と考えて、この作品自体がグランジの世界観、90代初期のアメリカに根ざした作品だから、当然僕も聴いていたPixiesなどが自然だった。
そして、Pixiesといえば『Where is my mind』が『ファイト・クラブ』のメインテーマのように使われていたから、わりと自然な流れで決めたね。
――監督は一貫してホラー、またはホラー要素のある映画製作にこだわっていますが、その理由、意図はなんでしょうか?
アジャ:元々自分も観客として、多くのファンと同じように、どんな映画の中でも一番強いリアクションを引き起こされるジャンルがホラーだったんだ。そして、きちんと作られている作品というのは、観客がしっかり没入して、主人公と同じ体験ができる映画だと思っている。
僕は最初から被害者・加害者が出てくる作品の場合、常に「殺すこと」や「悪いこと」をするのを喜んでいる加害者ではなく、被害者の目線で描き続ける事を何かルールのように敷いているんだ。これは自分にとってハッキリとした超えてはいけない線なんだよね。
ホラーのジャンルではいわゆるトーチャーポルノ系(拷問系)の作品もあるけど、自分はそれを超えてはいけない線だという風に一映画の作り手としては思っている。だから、『ヒルズ・ハブ・アイズ』も『ハイテンション』も他の作品も、そういう心構えで残酷なシーンを撮っているよ。
ただ『ホーンズ 容疑者と告白の角』については、ホラーというジャンルとはちょっと違う要素もあり、ダークでユーモアもあって、エモーショナルな部分もある作品だと思う。
通常のホラー映画だと、復讐のところで「爽快!」ってなるんだけれど、本作はそうではない。観客は特に彼が復讐を果たすことを楽しむのではなく、むしろエモーショナルになるような描き方をしているよ。
――監督ご自身が最も影響を受けた、好きなホラー映画はなんでしょうか?
アジャ:こういったタイプの作品が好きなのは、キャラクターを極端な状況においてどういったリアクションをとるのかを追うのが好きだから。
ヒーローやキャラクターたちがその状況下でどうするのか? 逃げるのか、戦うのか、どんなリアクションをするのか、映画の登場人物達の立場に置かれたら時にどうするのかを観客も考えさせられるような、まるで自分がその映画を生きているような、そういう映画が好きなんだよね。
特に、我々は実生活で幸いにも経験しなくてもいいような事を映画の中だからこそ経験出来る、そういうストーリーテリングが一番好きだから、こういったタイプの映画を作っているんだと思う。
一番影響があったというより、最初の出会いは『シャイニング』だね。6~7歳くらいの時に違う作品と間違えて、VHSを借りてしまって、再生して「あれっ、違うな」と思ったんだけど、止めることができずに全部観てしまったんだ。まるで催眠にかかったかのようで、その催眠が今も続いているんだよね。その時の体験がなければ、こういったタイプの映画を作る事はなかったかもしれない。
『ホーンズ 容疑者と告白の角』は、5月9日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷他全国公開!
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(スタナー松井)
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