フェイク予告編が実際に長編映画化されたことで話題となった、異色のピエロホラー『クラウン』。今回はフェイク予告編の制作者2人を監督に起用し、本作を実現させた、イーライ・ロス氏にインタビューして参りました。
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ホラーの帝王が映画『クラウン』について、ホラーについて、そしてデート術についてまで、語っています。なお、ホラードラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー』第一シーズンのネタバレが最後にありますので、ご注意ください。
――ご自身の名前がクレジットされているフェイク予告編を見て、長編化の話を持ちかけたとのことですが、フェイク予告編のどういったところに惹かれたのでしょうか?
イーライ・ロス(以下、イーライ):誰の許可もとらずに勝手にやった、ジョン・ワッツとクリス・フォードの大胆さを気に入ったんだ。
彼らのやったことは凄く面白いと思うし、自分も彼らと同じ立場だったら全く同じことをやるだろうなと思った。自分自身、ニューヨーク大学時代に作った『レザボア・ドッグス』のパロディである『レストラン・ドッグス』は、「クエンティン(・タランティーノ)に見てもらえたらいいなぁ」と思いながら作ったしね。
僕のスタイルを踏襲して予告編を作った彼らの手腕にも感服した。「俺いつこれ撮った!?」と思うくらいスマートな予告編になっていたし、パロディにされるくらい自分のスタイルは確立されているんだなぁとも感じたね。周りの友達も本当に僕が作った予告編と勘違いして、「『クラウン』って、いつ見られるの?」と聞いてきたくらいだよ。
自分でもこの作品を作りたいと思ったし、予告編だけでなく、本編も存在してほしいと思ったんだ。自分の名前の入った予告編が作られるのは名誉なことだよ。
彼らに会った時、開口一番「怒ってなくてよかった! 訴えないでください!」って言うから、僕は「ハリウッドっていう場所は製作して成功してから訴えあうものなんだ。だから、まずは映画を作って成功させてから訴えあいっこをしようじゃないか!」ってジョークで返したんだ(笑)。
ジョンは自分のサイトに低予算で作ったMVをアップしていて、それを見ても彼ならいけると感じた。自分達で何かをやるために、彼はちゃんと行動していた。だから彼らの手助けをしてあげたい、何かきっかけを与えてあげたいと思ったんだ。お互いがお互いのファンで、信頼しながら映画を作ることができて、出来上がった作品に対してとても誇らしく思っているよ。サイコーの経験だったね。
心が広いホラーの帝王
――「ピエロは北欧に伝わる悪魔がモデルとなっている」といった本作での設定は架空なのでしょうか? 架空だとすれば、何かをモデルにしているのでしょうか?
イーライ:これは架空だね。こういう質問がきたということは、それくらいリアルに作り込めたってことだろうから、僕らの勝利だ!
監督たち2人はずいぶん北欧神話を研究していたよ。実は、あの予告編の出来と「イーライ・ロスが製作に入る」ということだけで資金はすぐに集まって、いつでも撮れる体制ではあったんだけど、ピエロの神話をがっちり構築してから撮影に入りたくて、脚本作りに時間をかけたんだ。
冬の5ヶ月間、一ヶ月に一人の子供を喰らうという設定や、悪魔の「クロイン」とクラウンを結びつけられたことが、突破口になったんじゃないかな。2人とも脚本家として非常に良い仕事をしたと思う。
――一番好きなピエロ映画はなんでしょうか?
イーライ:『ポルターガイスト』だね! 怖いシーンはたくさんあるけど、ベッドの上に乗っかっているピエロが子供心に一番怖かった。
あとは『殺人ピエロ狂騒曲』。バイオレントでダーティーな恐ろしいピエロが登場するんだ。「The-CITIZEN KANE of Alcoholic Clown movies(酔っぱらいピエロ映画界の『市民ケーン』)」っていうコピーにもグッときたしね! これは支持しなきゃなって思った。
――ここ数年見たホラー映画の中で好きな作品はなんでしょうか?
イーライ:『The Babadook』(日本未公開)。オーストラリアの映画なんだけど、非常にスマートで本当によくできている。ストーリーもオリジナルだし、不気味で良いんだよ。しばらくぶりにこれはキタっ! と感じた映画だね。
あとは『It Follows』(日本未公開)。クールで新しいホラー映画だ。どちらの作品もホラーのファンだけでなく、ジャンルを超えて楽しめる映画だと思う。
――好きな日本のホラー映画はなんでしょうか?
イーライ:『ギニーピッグ』。映画としてレベルが高いというよりは、本当なのか架空なのか分からなくて考えさせられる作品だね。どうやってこんなにリアルに描けたんだ? と思わせられるところが楽しい。
あとは『リング』と『呪怨』。『呪怨』は映画版ではなくビデオ版の方だね。人生であんなに怖い体験をしたことがなかった。悪夢を見たくらいだよ。
あとは、やっぱり三池崇史監督作品。『ホステル』にすごく影響を与えた『オ―ディション』と『殺し屋1』は大好きだ。
あとは『ビジターQ』! 僕と友達になれるかのリトマス試験紙は『ビジターQ』の評価だ。『セルビアンフィルム』とか『ソドムの市』とか、みんな色々と語るけど、『ビジターQ』の話をふった時の反応で友達になれるかどうかを判断している。6日間で三池監督が撮影した映画だけど、見終えるとみんな何も言えなくなるんだよね。そのくらい素晴らしくて美しい映画だ。機能不全に陥った家族が、訪問者によって一つになる話なんだけど、とにかくサイコーだね。
あと外せないのが『バトル・ロワイアル』。この作品でモダンシネマは始まったと思っているんだ。『バトル・ロワイアル』にチーズを乗せると『ハンガー・ゲーム』になる!(笑)
――ホラーを愛し、ホラーを作ることにこだわり続けている理由はなんでしょうか?
イーライ:この色が好き、この食べ物が好きといった好みと一緒で、何か惹かれるものがあるからで説明はできない! ただ、子供の頃からとにかくホラーが大好物だった。
あと、デートでブラッド・ピットやジョージ・クルーニーのロマンティック・コメディを見ても、自分と見比べられて女の子の目は向こうにいっちゃうだろ? ホラーだったら手も握れるし、何だったらハグもできるし、自分と見比べられても相手はモンスターだから、いいこと尽くめさ!
効果的なデート術を教えてくれたホラーの帝王
――ここ数年、欧米では映画だけでなくドラマにおいても、いわゆるジャンルものの作品が多く、ホラーが流行している印象があるのですが、その要因はなんだと思いますか?
イーライ:素晴らしいことだよね! テレビの新しい黄金期がやってきている。その中で僕の『Hemlock Grove』(日本未放送)も放映できてラッキーだ。
テレビが暴力シーンを昔より許容するようになってきたし、観客もゴアに対して衝撃を受けないようになってきているのかもしれない。加えて、「怖い」という感情に多くの人が快感を覚えるようになってきているのが、ホラーが増えている理由じゃないかな。
ホラーの醍醐味の一つに、主人公が殺されてしまうかもしれない...といった感情があるけど、テレビシリーズを見るのはそのキャラクターをずっと見ていたいから、という矛盾が生じるんだよね。
そんな中、ライアン・マーフィーが『アメリカン・ホラー・ストーリー』で登場人物を全員殺して次のシーズンに突入するっていうのをやってのけた。そういった作品が支持されるのも含めて、本当にエキサイティングな時代だと思うよ。
映画『クラウン』は3月21日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開。
c2014 Vertebra Clown Film Inc.
[映画『クラウン』公式サイト/イーライ・ロスからピエロの贈り物]
ギニーピッグ[Wikipedia]
ビジターQ[Wikipedia]
This Poster For Eli Roth's New Movie Was Just Banned In Italy[CINEMA BLEND]
(スタナー松井)
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