VRであなたも事件の現場にいた傍観者に。
メキシコからの移民、アナスタシオ・ヘルナンデス・ロハスさんが、アメリカの国境警備隊にテザー銃で撃たれ、死ぬまで殴られたのは2010年。その様子は現場にいた人たちによって携帯電話で録画されていました。その様子を元に、自らもその現場にいたかのような体験をさせるVRプロジェクト、『Use of Force』が登場しました。
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制作しているのはジャーナリストのノニー・デ・ラ・ペーニャさん。自らが現場にいて、そこで事件が進行中であるにも関わらず、何もその状況を変えることができないという、非常に辛い作品ですが、ペーニャさんの制作の意図は、テレビや新聞でしか見ないこのような事件を実際に経験させることにあります。
動画はMotherboardのクリストファー・マルモさんによる『Use of Force』内の録画ですが、音声は実際に事件の録画動画からとられています。ショッキングな事件の再現ですので閲覧にはご注意を。
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この没頭的なドキュメンタリーの計画は、ゲームと仮想現実の技術を用いて、革新的で没入感のある実話を自ら体験させる事により、移民に対して起こっている人間性抹殺に気づかせることです。『Use of Force Protocol』は、ヘルナンデス・ロハスさんが死んだ悲惨な夜の現場に観客を配すことで、国境で起きていることへより深い理解を提供します。
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『Use of Force』ではVRヘッドセットなどを使い、ロハスさんが殺された現場に立ち、歩きまわったり見回したりする事ができるのですが、行われている暴力行為を止めることはできません。
虐殺が行われているところに、ある程度のインタラクティブ性を持って自らも存在する『モダンウォーフェア2』の1シーン、「No Russian」を思い起こしもします。
実際にこれを体験したMotherboardのクリストファー・マルモさんは「心が動かされる作品。シミュレーションと理解していても、うつ伏せになり手錠をはめられた男が国境警備隊員に残酷に殴られ続けるところを、自分は何もできずに見るしか無い状況で、不安がどんどん高まっていった」と書かれています。
SFでは「タイムマシンで過去の大惨事の現場に行って、安全な場所から野次馬として見物する観光ツアー」が描かれていたりもします(例えばC・L・ムーアの『ヴィンテージ・シーズン』や映画『タイム・シーカー / タイムクラッシュ・超時空カタストロフ』とか)。
どこかそれにも似た、しかしその場にいながらも何もできない悪夢的な状況を追体験するという事。これはある意味、ニュースで他人ごとのように報道され、その現実性の薄らいだ残酷な事件を、その衝撃性をなるべく薄めること無く伝えることのできる新たなジャーナリズムの形かもしれません。
Virtual Reality Turns a Horrific Taser Death Into Immersive Journalism [Motherboard via Kotaku]
(abcxyz)
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