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正直、「全米大ヒット」や「満員御礼感謝」なんて言葉は全く当てにならないケースが多々あります。
反対に、これはヒットしないだろうな、と思ってもビックリするほど評価が高いなんてことも良くある話です。実のところ、何がヒットするかは、映画のプロでも分からないようなのです。だから、良作にも関わらず、スタジオが宣伝に力を入れない、宣伝費をケチる、上映数を最小限にするなんてことが起こってしまうのです。
今日は、io9が選んだ「あまり宣伝されなかったために埋もれてしまった良作映画8選」を紹介したいと思います。
■『アイアン・ジャイアント』
英語圏で最も知られる映画レビューサイトRotten Tometoesで、97%という高い評価を得ている『アイアン・ジャイアント』。にも関わらず、この映画は大きく宣伝されたワケでもなく、誰もが知る超有名作というワケでもありません。
それは一体何故でしょうか? WebCiteによるとスタジオがアニメーションに対して引き気味だったからだそうです。
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(1998年公開のアーサー王伝説を題材としたアニメーションの)『キャメロット』は興行成績的にも大失敗でした。そこで、アニメーションはちょっと...という雰囲気になり、スタッフもクビになったのです。加えて『アイアン・ジャイアント』の重役が突然いなくなりました。
『アイアン・ジャイアント』の仕上がりは、それは素晴らしいものでした。監視役がいなくなった為、ブラッド・バードが自由に作れるようになり結果的には良かったんですが...。しかし、重役たちはそれを理解できなかったのです。彼らが映画を見た感想は「あぁ、良いんじゃない?」でしたよ。私は、ワーナーがあの作品の公開の仕方を知っていてくれれば...と今でも思いますよ。
玩具や他のグッズの準備も整っていたにも関わらず、それから1年もかかったのです。バーガーキングや類似ショップも参加したいと言っていましたね。準備万端だった4月に重役に映画を見せたのですが、彼らは「これでは全然ダメだ」と言ったのです。冗談じゃない、準備はしっかりと出来ていたのです。
しかし、4月の時点で「あと数ヶ月待ってみましょうか」と言ったのです。大手スタジオは、年間30本の映画を公開します。映画をドックに放って、泳ぐか溺れるかを高みの見物してるんです。ダメでも、すぐ次に控えている映画がありますからね。
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■『サンシャイン 2057』
輝きが衰え始めた太陽を再活性化させようと奮闘する宇宙船乗組員達の姿を描いたダニー・ボイル監督のホラー・サスペンス映画『サンシャイン 2057』。本作のアメリカ公開は、本国イギリスの3ヶ月後という遅いローンチとなりました。これは、海外での数字が中々伸びなかったことに恐れをなしたアメリカのスタジオが、公開に弱気になっていたからです。
結局、10館のみでの上映となりました。しかし、次の週には492館に拡大され、数ヶ月に渡り上映され続けるほどの人気となったのです。また、Rotten Tomatoesでも75%という高い評価を得ています。
■『26世紀青年』
アメリカのポップカルチャーを風刺したマイク・ジャッジ監督の『26世紀青年』が、あまり宣伝されなかったのは想像ができるでしょう。本作は、アメリカ陸軍によって冬眠実験された男女が500年後の未来で目覚めるも、その未来は知能の低い人間が幅を利かせる世界というストーリーです。
ジャッジ監督は、この映画の良さをあまり理解しなかったスタジオの重役と、長期に渡って争うことになったとEsquireのインタビューが伝えています。
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『26世紀青年』はもっと違う結果になるはずでした。彼(ジャッジ)は2年も前に撮影を終えていたのですが、本当の問題はそこから始まりました。某重役がこの作品を見るチャンスが無かったため、保留になってしまったのです。そこで、フォックスは幾つかのスペシャルエフェクトの予算を細かくケチり出しました。
そして、映画を完全に作り終わった頃には、ジャッジと重役がマーケティング、特にトレーラーについて揉めていたのです。「毎度のことだけど、彼らは考え過ぎなんだ。」とジャッジ監督は話していました。「平凡なアホが未来をおちょくる話でしかありません。別に、『もし、あなたが時間旅行できたらどうしますか?』といった話ではないんですよ...。」
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■『バロン』
『未来世紀ブラジル』の撮影中、スタジオ側と揉めたストレスで1週間に渡って踵が完全に麻痺してしまったというテリー・ギリアム監督ですが、3部作目の『バロン』でも、問題に直面することになりました。2000年に行われたIGNのインタビューにはこう書かれています。
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「本当に納得がいきませんでした。さまざまな理由で喧嘩をふっかけられたのですから。究極は、映画が最終的に公開された時、アメリカ国内用に117本しか刷ってもらえなかったことでしょう。117本ですよ、そんなの公開していないのも同然です。アートフィルムでさえ400本なのに。私たちは、(ソニー・ピクチャーズ・エンタテイメントの一部となった)コロンビア・トライスターの被害者ですよ。
当時、彼らは最大限、記録を奇麗に見せる事に全力を注いでいましたからね。苦しめられたのはこの映画だけではありません。ただ、1番目立ったのがこの映画というだけです。
何が起こったのかと言うと...、ストーリーを小さく上品に仕上げる為に宣伝費を削って、(クビになった製作総指揮の)デヴィッド・パットナム時代の体制だった映画のプロモーションをしなかったのです。彼らは、予算を出さずに左右真っ正面から映画を埋めようとしました。最終的には奇麗な記録になりましたよ。
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しかし、かなりの限定公開にも関わらず本作の評判は上々でした。
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冗談みたいですが、振り返ってみれば、私たちは最高の評価を貰いましたし、『ラスト・エンペラー』以来初めて、公開1週目で良い数字を出した作品なんですよ。実際、大都市での公開は本当に上手く行きました。
ビデオの権利を買った友人が言っていたいましたね、「こんなにヘンテコな映画を見たのは生まれて初めてだ。コロンビア映画は、出口調査をして、映画はきっと成功しないだろうから、それ以上刷る必要なんてないということを必死に証明しようと時間を費やしていただけ」だってね。彼は「こんなの初めて見たよ」と言っていたけど、まさにその通り。これは伝説のひとつになりました。勿論、それに値するだけのものはありますよ。例えそれが、間違った方向の伝説だとしてもね...。
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■『アタック・ザ・ブロック』
『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『スコット・ピルグリム vs 邪悪な元カレ軍団』の監督で知られるエドガー・ライトが製作総指揮として名前を連ねるイギリス映画の『アタック・ザ・ブロック』は、アメリカ公開時に残念な扱いを受けてしまいました。
「ストリートギャング vs エイリアン」というB級臭しか漂わない本作に何があったのでしょうか? 実は、スタジオの重役が、本作の登場人物が使っている訛りの強いイギリススラングを、アメリカの観客には理解出来ないだろうと考えたのです。なんと、彼らは、それが英語であるにも関わらず、字幕をつけた方が良いとまで提案したのだそうです。
監督のジョー・コーニッシュはSXSWで行われたQ&Aで、アメリカの観客に向かって訛りに問題があったかどうか問いかけました。
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「質問しても良いでしょうか? アメリカのディストリビュータは言語、スラングにナーバスになっている。」
観客は即座に、言語は全く問題がないと答えました。
「私が思うに、ディストリビュータは観客を見くびっている。20年間のヒップホップ文化があるのに、こんなスラングが難しいとでも? 冗談じゃない。ローカルのディストリビュータに言って下さいよ、言葉なんか問題じゃないって。」
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アメリカの観客が確実に理解出来るにも関わらず、非常に残念なことに『アタック・ザ・ブロック』は8館のみの上映で、満員御礼とはいきませんでした。
■『ミッドナイト・ミート・トレイン』
クライブ・バーカーのホラー短編小説を原作とし、北村龍平が監督したホラー映画『ミッドナイト・ミート・トレイン』。ニューヨークの地下鉄を舞台に夜な夜な繰り広げられる猟奇的な連続殺人。偶然、その犯人である大柄の男「キラー・ブッチャー」の正体を知ってしまった写真家は、その秘密を探ろうとするが、深みにはまりすぎてしまいます。
クライブ・バーカー原作と言えば、それなりに宣伝されそうなものですが何があったのでしょうか? クライブ・バーカーのインタビューを掲載したMTV Movie Blogによると、次のような問題があったようです。
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『ミッドナイト・ミート・トレイン』の公開は、元々、5月16日を予定されていましたが、8月1日に延期され、102館のディスカウント映画館や1ドル映画館でのみ上映されました。結果、多くの上映でチケットは完売状態でしたが、興行成績的には8万3361ドルしか得られませんでした。ファンの中には、企業の政治がらみでこんなことになっているのかと疑問を抱いた人もたようです。そして、バーカーもそのように感じたひとりでした。
あるフィルムメーカーは、ライオンズゲートの社長であるジョー・ドレイクは、彼の名前がプロデューサーとしてクレジットされている『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』のような映画により専念する為に、他の人の作品を不当に扱っていると感じているとも話していました。
クライブ・バーカーは、監督を務めた北村龍平のことを「本当に素晴らしい映画を作ってくれました。政治がらみのことは、映画には全く関係ないことなのです。これはエゴでしかなく、『ミッドナイト・ミート・トレイン』が劇場で上映するチャンスに恵まれなかった事は残念でしかない」と話しました。
「美しく、スタイリッシュな恐怖映画です。視聴者は、口コミや深夜放送、DVDなんかでこの映画を目にすることになると思います。そして、きっとジョー・ドレイクの世界は終わったなと感じるのでしょう。」
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現在、『ミッドナイト・ミート・トレイン』は Rotten Tomatoes では71%の評価を得ています。
■『MST3K: The Movie』
本作は古き良き映画を見ながら3人のキャラクターがチャチャを入れるだけという風変わりな作品ですが、根強いファンを得ています。非常に特殊な作品故に、スタジオ側はどうやって宣伝すれば良いのか分かりませんでした。
なので、宣伝しなかったのです。その代わり、パメラ・アンダーソン主演の『バーブ・ワイヤー ブロンド美女戦記』を支援したのでした。
■『スリザー』
小さな街に現れたナメクジ型エイリアンが、寄生した人間を次々とゾンビ化するB級ホラームービー。公開した時はヒットに恵まれませんでしたが、ジェームズ・ガン監督曰く、それには次の理由があったようです。
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『スリザー』がボックスオフィス的に振るわなかったのは分かりましたが、DVDではどうだったのでしょうか?
ガン:「DVDの販売の方が断然良かったね。」
私が知っている『スリザー』を見た人は全員が全員作品に惚れ込んでいましたが、映画館に脚を運んだ人は少なかったようです。これには、マーケティングに問題があったのでしょうか?
ガン:「かもしれない。しかし、この映画は宣伝し難い作品なんだよ。ほら、ジャンルが色々あるだろう。ホラーにインディペンデント・ブラックコメディ、そして(観客にショックを与える論争の的になるような描写を入れる)グロスアウト...。2分間のトレーラーで観客に内容を理解してもらうのも難しいよ。全編を見ても尚理解出来ない人だって居たくらいなんだから!」
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Totally Brilliant Movies That The Studio Tried To Bury[via io9]
(中川真知子)
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