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【インスピレーション】
ジョン・カーペンターにインスピレーションを与えたのは、彼が1974年に見た『Planet of the Damned』というSF映画でした。アンチヒーローが殺伐とした世界に送り込まれる内容に衝撃を受けたカーペンターは、アイディアを拝借し、彼が考えつく最も荒々しい場所(1970年代のニューヨーク)と、刑務所を組み合わせて80年代を代表するカルト・クラシック映画を作ったのです。
元々カーペンターは、配給会社のアコブ・エンバシーと仕事をしていましたが、その時に監督する予定だった『フィラデルフィア・エクスペリメント』の話がつぶれてしまい、その代わりとして『ニューヨーク1997』の脚本を提案したことで、暫くの間検討中とされていた作品が動き出す事になったのです。
【ロケーション】
1997年を痛烈に描いたことで有名なこの映画は、台所事情により、未来のウェストランドを舞台にしなくてはいけませんでした。1980年代初頭、ニューヨークでの撮影はとても高額だったので、未来のニューヨークを舞台にして、大規模火災が発生したセントルイスのダウンタウンで撮影することを決めたのです。撮影現場となったセントルイスは、非常に親切で最高だったとカーペンターは語っています。
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「セントルイス! 本当に素晴らしいところでした。」とジョン・カーペンター。「あそこに行った理由は、ニューヨークでは撮影出来ないシーンがあったからでした。
ニューヨークは大都会でひしめき合っているでしょう。しかし、セントルイスは1977年に発生した大火事のせいで、ダウンタウンに適度な空間があるんです。建築物も我々が望むそのものでした。街の多くが、機能していなかったり空き状態に見えたりと閑散としていました。
私たちは、この映画から新しい建物や新鮮さといった物を排除したいと考えていたので、最高のロケーションだったんですよ。市職員は、私たちに街を自由に使わせてくれました。私たちが撮影する時、10ブロックも閉鎖してくれたんです。彼らは、メジャーな映画の撮影を扱うのは15年振りだと話しましたが、実際、あそこにはフィルム委員会すら無く、観光部署しかありませんでした。勝手が分からなかった彼らは、私たちに一任してくれ、私たちが必要とすることは何でもしてくれたんです。」
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また、荒廃したニューヨークのグランド・セントラル・ステーションには捨てられた列車のレプリカも、セントルイスで見つける事が出来ました。その時の事を、カーペンターはこう話します。
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「私はあの場に足を踏み入れて、「なんてこった! 装飾する必要なんて無いじゃないか!」と叫びましたよ。
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セントルイスの他にも、ニューヨークのリバティ島で2日間にも渡る貸し切りの撮影許可を得る事もできました。1980年に行われた同じインタビューで、「市職員は、許可をくれただけでなく、とても助けてくれました。我々は、リバティー島の自由の女神で撮影した初の映画会社で、貸切にしてくれたんです。本当にラッキーとしか言いようがありません。許可を取ることは簡単ではありませんでしたがね。」と話しています。
こう読むといろいろと順調だったように感じますが、期間中、太陽を見ないようにして撮影を夜に集中させることは本当に大変だったようです。「この映画にはふたつの異なる世界が登場します。ひとつは、ハイテクでネオンに包まれている警察側の様子。アメリカ合衆国は地下のコンピューターで統治されているんです。この撮影は、封建時代のイギリスよろしく、たいまつの光をメインとするマンハッタンアイランドの監獄シーケンスと比較すると、簡単でしたよ。」
中
【キャスティング】
当初、スネーク・プリスキン役に名前があがっていたのは、チャック・ノリスとトミー・リー・ジョーンズのふたりでした。スタジオ側は、カート・ラッセルよりも知名度の高いノリスとジョーンズを気に入っていました。AMCによると、カーペンターは、チャック・ノリスでは若さが足りないという理由で却下し、他に予定も入っていなかったジョーンズが最適だろうと判断したのだそうです。
しかし、1979年のテレビ映画『ザ・シンガー』で主演のエルビス・プレスリーを演じたことをきっかけに、カーペンターと縁が出来たラッセルが、最終的にスネーク役を射止めることになったのです。
ノリスやジョーンズの他に、スネーク役として名前が挙がったのは、クリント・イーストウッドとチャールズ・ブロンソン。ラッセルは「ケープタウン・フィルムフェス」にて、このキャスティングについて以下のように語っています。
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「人生に一度だけ、本当に欲しいと思ったものを手にするチャンスがやってくるんだ。『ザ・シンガー』の時には、それを感じなかった。だけど、あれは素晴らしいチャンスで、私にはそれが出来ると分かっていたんだよ。私は、ジョン(カーペンター)が監督しだすよりも前にエルビスの役に選ばれていて、あの映画を通じて、ジョンと出会ったんだ。
そして、すぐにお互いを理解した。私はオーストラリアに行くことになっていたんだが、「戻って来たら、もう1回一緒にやろう。俺らの色が全面的に推し出た映画を作るんだ」って話し合ったよ。それで、オーストラリアから戻って来た時に、俺は言ったんだ。「君とやりたいことが見つかったよ」って。そしたら、彼が「分かった。最高だよ。少しだけ未来的な話なんだ」と言ったんだ。
俺はすぐにそれを読んでこう言った。「これこそが俺がやりたいと思っていた事だ。誰ひとりとして俺がやりこなせる想像もしないだろう...、君を除いてね、ジョン」と。スタジオ側はチャーリー・ブロンソンを抜擢しようとしていたが、ジョンは俺をプッシュするために戦ってくれたんだ。俺は人生で何度か(『トゥームストーン』のように)「これをやりたい!」と心から思える作品に出会ったよ。」
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『ニューヨーク1997』で捕われたアメリカ合衆国大統領を演じたドナルド・プレザンスも、かつてカーペンターの映画に出演したことがある俳優のひとりです。マーク・シャピロによるインタビューで、プレザンスはジョン・カーペンターのことを次のように話しています。
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「ジョン・カーペンターは、私が仕事をした中でも、最高の監督ですよ。だって、私なんかを出演させるほど勇気がある監督なんですから。私を『ニューヨーク1997』でアメリカ合衆国の大統領にして、『ハロウィン』でルーミス医師を演じさせました。典型的な狂人を演じて来た私に、彼は真っ当で良い役を演じるチャンスを与えてくれたんですよ。」
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また、プレザンスは、自身の役柄に関する裏話や、マーガレット・サッチャーが世界を牛耳っており、アメリカがイギリスの植民地になるという設定についても話しました。それらは、いずれもカーペンターが起用しなかったものです。
刑務所長のホークを演じたリー・ヴァン・クリーフは、撮影の最中、足の怪我に苦しんでいたと、カーペンターがDVD特典の中で語っています。
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「リーは『ニューヨーク1997』の撮影が始まる前に負った膝の怪我に悩まされていた。その怪我は、彼のシーンを撮影するという時になっても、完治していなかったから、彼の奥さんは撮影現場に来て、彼のシーン(特に歩きながら演技しなくてはいけないようなシーン)が滞り無く進むか確認していたよ。」
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ヴァン・クリーフは、ホークとスネーク・プリスキンがミッションについて話しながら廊下を歩くシーンが最もタフだったと、カーペンターに話したことがあるそうです。
カーペンターと馴染みの俳優に関して言えば、『ハロウィン』で主役を演じたジェイミー・リー・カーティス(ノンクレジット)は、コンピューターの音声と、ナレーターを担当しています。同じく『ハロウィン』でザ・シェイプ(マイケル・マイヤーズ)を演じたニック・キャッスルが脚本で参加しています。
【舞台裏】
この映画には、『ターミネーター』シリーズや『タイタニック』、『アバター』等で世間をあっと言わせる特殊効果を見せて来た監督のジェームズ・キャメロンも特撮担当として参加しています。若き日のキャメロンは、グライダーのシーンでCG画面を登場させようとしました。しかし、当時のCGは高額だったため、黒く塗った段ボールに蛍光塗料で線を引くというアナログ技術で再現したのです。
スネーク・プリスキンのキャラクターは、完成するまでに色々あったようです。DVD特典で、カーペンターはスネークの性格を次のように説明しています。
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「スネークは何に対しても敬意を払わない。彼のセリフから、彼は誰が大統領かも知らず、何にも理解しておらず、何処に向かっているのかも把握していないことが伺えるでしょう。彼は何も気にしていません。彼は自分の心に従うタイプの男なんです。」
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元々、スネークは同情的なキャラクターとして描かれる予定でした。彼は、自分の命を取るか、それとも友人の命を救うかの選択を迫られる設定でした。しかし、そのくだりはカットされることとなりました。その決定に、ラッセルは賛成だったようです。
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「ジョンはその部分をカットしたんだ。それは初めて...、偽り無く本当に初めて、素晴らしい決断だと思ったよ。スクリーンに男が登場し、バスから降り立つ。その男は、『此畜生、誰が何を気にするってんだ。こいつは悪い男だ。それ以上でもそれ以下でもない。』ってヤツなんだ。その方がずっと良い。」
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スネークのシンボルと言える眼帯は、ラッセルのアイディアでした。ラッセルによると、眼帯のアイディアを聞いたカーペンターは「それは素晴らしい! 『勇気ある追跡』のジョン・ウェイン以降、誰ひとりとしてやってないんじゃないか?」と言って喜んだそうです。撮影の間、ラッセルは、完全に視界を塞いでしまうタイプと、アクションシーンの撮影用にシースルータイプの2種類の眼帯を使い分けていたそうです。
黒と白のカモフラージュは、カーペンターとラッセルの思いつきでした。DVD特典によると、スネークはシベリアの戦場で活躍した元軍人という設定にしていたため、緑よりも白と黒の方が良いと判断したのだそうです。
また、スネークの恰好に関して言えば、ある雑誌が面白い記事を掲載していました。
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ある夜、俺(ラッセル)はスネークの恰好でセントルイスのダウンタウンを3ブロック程歩かなきゃいけなかった。その時、自分の他は誰もいなかったんだ。そして、角を曲がった時、俺は4人の男たちに出くわしたんだ。俺は完全に角を曲がってしまっていたから、スタッフからは姿が見えなかった。そんな状態で、俺は4人の男たちと目が合った。
彼らは、マシンガンにナイフ、それに見た事も無い怪しげな武器に身を包んだ男を目の前にして、とても微妙な表情を浮かべていた。俺は、銃を小さなライトで照らしてみたんだ。彼らは野蛮そうに見えたが、俺に向かって「お...おいおい、ちょっと落ち着けよ」と言ってかかとを返して去って言ったんだ。俺は、すぐさま皆の所に戻って、ジョンに言った。「これはイケるぞ!」ってね。
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【撮影】
元々、オープニングはスネークの銀行強盗シーンになる予定でした。しかし、試写会を終えた後、そのシーンのせいで観客が混乱していることが分かったのでカットされたのだそうです。
夜の撮影の苦労の他にも、特筆すべき問題は幾つか発生しました。ラッセル曰く、スラッグを演じた元レスラーのオックス・ベイカーは、パンチを引く方法を知らなかったらしいのです。オックスは、ラッセルのスタント・ダブルと何度か練習を重ねましたが、スタント・ダブルは酷く叩きのめされ、リハーサルの終わりにもなると顔が青黒い痣だらけになっていたのだそうです。
また、ベイカーはラッセルが釘バットを振るっていた時に、頭をめがけてゴミ箱を投げつけたこともあるのだとか。
しかし、最後に勝ったのはラッセルでした。脚本にはラッセルがスラッグの首の後ろを釘バットで殴ると書かれていました。オックスが首を守る術はパッドのみ。そこへラッセルが目印めがけてしっかりとバットを振りました。オックスは目に見えてイライラしていたそうです。その日の撮影の事を振り返って、ラッセルは「あれは、これまで経験した撮影の中でも、最悪の日だった」と話しています。
また、映画を象徴するチェイスシーンでも問題は発生しました。クルーは、ダウンタウンにほど近い69番ストリートの橋を安全に使うことが出来なかった為に、そこから20分程離れたルート66のチェーンロックスブリッジでの撮影を余儀なくされたのです。
さらに、特典映像によれば、スネークは自家発火のタバコに火をつけて吸うはずだったにも関わらず、ラッセルが手に火傷を負ったり、エフェクトが上手くいかなかったり、予算が足りなかったりなどの理由が重なり、実現することが出来なかったそうです。
他にも、スネークとバーに居た女(後のラッセルの元妻であるシーズン・ヒューブリーが演じた)とのセクシーシーンをどうするかでも頭を悩ませました。彼らは、スネークの性格を持ってして、どのように性的なやりとりに持って行けば良いのかわからなかったのです。だからといって、スネークがセックスに無関心な男という風にはしたくなかった。そこで考えたのが、最終的にギャングに女を殺させると言うものでした。.
ラッセルによると、当時のカーペンターの妻であるエイドリアン・バーボーが演じるマギーは、スネークが唯一感情を抱くキャラクターなんだそうです。そんなマギーがラストでひき殺されるシーンは、カーペンターのガレージで撮影されています。本来、彼女が死ぬシーンは見せる予定に無かったそうですが、本当に死んだのかどうかというのを観客に知ってもらいたいとカーペンターが希望したことで撮影することになったのです。
DVD特典によれば、ワールド・トレード・センターには、「レッドスキン」という名称で呼ばれるネイティブ・アメリカンのグループが住んでいるという設定になっていましたが、そのアイディアは却下されたそうです。
その他、プレザンスの演技は、彼が第二次世界大戦中に実際に囚人となった経験を元にしており、それが顕著に現れたのは、大統領がデュークを射殺したシーンなんだとか。また、デュークが大統領を辱める為に金髪のウィッグを冠らせるというアイディアも、プレザンスが提案したものだそうです。
そして、救出された大統領に向かって「あんたを助け出す為に、何人もの人間が死んだ。そのことについて、あんた、どう思ってる?」という質問を投げかけたスネークは、大統領の生返事に対してタバコを投げ捨てますが、これは、本来ならば、大統領の胸にタバコを弾く予定だったのだとか。しかし、愛国心の強いラッセルが、架空であれアメリカ合衆国の大統領の胸にタバコを弾くなんてと拒否したため、妥協案として、タバコを投げ捨てることにしたそうです。
[via io9]
(中川真知子)
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