しかし東西が睨みをきかしていた一触即発の時代にあって、そのすべてが大らかなスペース・フロンティアを描いていたわけではありません。エイリアンの襲来や世界の終末など、数多く製作された作品の裏側には、社会の変動に対する恐怖や不安を見て取ることもできます。
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今や昔のレトロ・フューチャーですが、現在の目で見れば、その作品の多くは信じがたいくらいのファンタスティックな魅力にあふれています。
今回は、数多い50年代のSF映画の中から、厳選した10作品をご紹介します。
1.『火星探検』
1950年製作の『火星探検(原題:RocketshipX-M)』は、第二次世界大戦の終了後に初めて公開された宇宙冒険物語として記録される映画です。
故障したエンジンを修理したら思いのほか加速してしまい、月面探査のつもりが気付けば火星に到着していたという大変アバウトなストーリー。しかも火星には文明を失い、石器時代に逆戻りした原始人がいて、岩を投げつけられて攻撃されるなど、乗組員たちは大変な災難に。
ジョージ・パル製作による『月世界征服』に対抗して、9万4000ドルの低予算と、18日という短期間で撮影された『火星探検』。その甲斐あって『月世界制服』に1ヶ月ほど先んじて公開することに成功しましたが、内容的には大きく水をあけられる結果となりました。
2.『地球最後の日』
ジョージ・パル製作による『地球最後の日(原題:When Worlds Collide)』は、1951年公開。惑星衝突による終末作品としては、もっとも初期に製作された映画の1つです。
フィリップ・ワイリーとエドウィン・バーマーによる同名小説を原作としており、地球に接近する巨大な2つの放浪惑星が観測されたことにより、限られた人類による地球脱出計画が進められるという、SF版ノアの方舟を思わせるストーリー。
山の斜面を利用して射出される脱出ロケットの描写も魅力的ですが、大洪水や火山の噴火など次々と巻き起こる天変地異、パニックに駆られ暴徒と化す人々など、ディザスター映画の元祖的な作品ともいえそうです。後の『ディープ・インパクト』や『アルマゲドン』、『妖星ゴラス』などにも影響を与えていそうですね。
3.『火星超特急』
1951年製作の『火星超特急(原題:Flight to Mars)』は、前述の『火星探検』と同じく、火星を舞台にした冒険SFといった内容の作品。
火星の原始人に岩を投げられる『火星探検』とは異なり、地下世界で進んだ近代文明を営んでいた火星人は、解剖学的にも地球人と同じという設定になっています。しかし火星人がひそかに地球制服を企てていたことから、宇宙船のクルーは命からがら火星を脱出。その中にはクルーの1人と心を通わせてしまった火星人美女も含まれているという、なんだか微妙なラブストーリーも描かれます。
火星人のカラフルな宇宙服など、ビビッドな色遣いが印象的ですが、この作品はなんと5日間で撮影されたそうです。
4.『惑星Xから来た男』
謎の惑星の接近により、スコットランドのとある島に現れた宇宙人と島民との交流を描いた、一風変わった作品が1951年公開の『惑星Xから来た男(原題:The Man from Planet X)』。
なんとも憎めない風貌で人間に近づこうとする宇宙人のキャラクターが印象的ですが、こっそり人間を洗脳したりするものだから、宇宙人はやっぱり撃退されてしまいます。
ちなみに、この時代のB級作品にしばしば見られるように、6日間という非常な短期間で撮影を終えており、製作費の節約のために、島のセットは1948年にイングリッド・バーグマン主演で公開された『ジャンヌ・ダーク』のセットを流用して撮影されました。
5.『プロジェクト・ムーンベース』
自由主義社会の軍事的優位性がゆるぎないものとなった1970年を舞台に、合衆国政府の宇宙開発計画を阻もうと企てるテロリストの陰謀と戦うという作品が、『Project Moonbase』。1953年公開のこの映画では、なんとロバート・A・ハインラインが脚本を執筆しています。
テロリストの存在が社会主義陣営を意識したものであることは容易に想像がつきますが、当時としてはきわめてリアルなSF描写が行われており、女性が指揮官というウーマン・リブを先取りした設定も先進的です。なお、スクリプトでは大統領も女性という設定であったとか。
6. 『原子人間』
ハマー・フィルム・プロダクション製作、1955年公開のSFホラー作品が『原子人間(原題:The Quatermass Xperiment あるいは The Creeping Unknown)』です。
3人の宇宙飛行士を乗せた宇宙船が、不時着という形で地球に帰還。1人生き残ったクルーは謎の細菌に感染しており、やがて植物や動物を吸収しながら変異を繰り返していくというストーリー。
この映画の成功に気を良くしたハマー・フィルムは、作品に登場するクォーターマス博士を登場させた関連作『宇宙からの侵略生物』と『火星人地球大襲撃』を製作。この三部作は「クォーターマス・シリーズ」と呼ばれました。
その後もハマー・フィルムはホラー映画を量産することとなり、結果としてこの作品が、ホラーメーカーとしてのハマー・フィルムの名前を決定的なものとする布石となりました。
7.『クロノス』
ゴジラにインスパイアされたムービー・モンスターでもご紹介した1957年の映画『クロノス』は、立方体を重ねただけというダダイスティックなロボットが、使徒よろしく破壊の限りを尽くします。
ロボットのデザインも斬新なら、エネルギー回収のためのアキュムレータの役割を果たすという設定も斬新です。なお、クロノスの設定は、1967年放映の『宇宙大作戦』第35話、「宇宙の巨大怪獣(原題:The Doomsday Machine)」にも影響を残しています。
8.『ウォー・オブ・ザ・サテライツ』
旧ソ連によるスプートニク計画は、アメリカ国民にスプートニク・ショックと呼ばれる大きな衝撃を与えました。しかしそんな折、ソ連の快挙にインスピレーションを受けて、思いついたアイデアをいち早く映画にしようと立ち上がったのが、B級映画の帝王ロジャー・コーマン先生でした。
1958年に公開された映画『War of the Satellites』は、宇宙開発計画シグマ・プロジェクトの着手に警告を受けた国連が、その警告を無視して人工衛星を打ち上げたことにより、宇宙人との衝突を招くという物語です。
転んでも1セントも損しないコーマン先生は、アメリカが出し抜かれた人工衛星計画まで貪欲にアイデアの種にしていたんですね。
9.『4Dマン 怪奇! 壁ぬけ男』
厳格な放射能研究者の兄が、ブリリアントで無責任な弟の研究を横取りし、恐怖の壁抜け男「4Dマン」になってしまうという作品が、1959年公開の『4D Man』です。
兄が弟の研究を横取りした理由が「弟に恋人を寝取られたから」というあたりが妙に生々しいのですが、壁を通り抜けるたびに4次元世界の力(つまり「時間」だそうです)を消費するため、博士はすごい勢いで年老いていくわけです。そこで博士は、他人の時間を吸収して若さを保とうとするわけですが、もちろん時間を吸収された人は急激に老衰して死んでしまいます。
その特殊な能力を称して「SF吸血鬼」という評価もあるようで、日本でテレビ放映された時のタイトルは『SF 4次元のドラキュラ』というなかなか洒落たものになっていました。
※予告編はドイツ語バージョンとなってます。
10.『SF地球全滅』
1959年公開の『SF地球全滅(原題:The World, The Flesh and The Devil)』は、近年のポスト黙示録的な作品を先取りしたかのような終末映画です。
数日間というもの鉱山に閉じ込められたラルフ・バートンという人物が、いざ地上に出てみると、すべての人間は死に絶えていました。世界の終りから取り残された彼は、単身向かったニューヨークで、1人の女性と出会います。やがてもう1人の人物、ベンソンと出会いますが、時に反目しつつも、3人は新しい世界で生き残っていかなければならないことを悟ります。
THE ENDではなく「THE BEGINNING(始まり)」というクロージングが印象的な作品です。
いかがだったでしょうか。
SF映画が一気に市民権を得ることとなる50年代には、『宇宙戦争』や『遊星よりの物体X』、『地球の静止する日』など、後世にまで語り継がれる名作がいくつも製作されています。それらの偉大なイマジネーションは時代を越えて、観る者に刺激を与え続けてくれますよね。
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(キネコ)
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