今でこそ、公開されて大ヒットして、「この映画はこういうストーリーである」と定着している名作映画も、製作初期の段階では全く違うストーリーだった...という事が往々にしてあるようです。
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完成形しか知らない私たちからしたら、ボツ案は意外で新鮮だったり、中には「むしろそっちの方が良かったんじゃないの?」なんて思ったりしてしまうものも、けっこうありそうなんですよね。
ということで、『スター・ウォーズ』や『E.T.』、『X-MEN』や『アイアンマン』など、今では誰しもが知っている傑作SF/ファンタジー映画の知られざるボツ案ストーリーを12選ご紹介します。
『スター・ウォーズ』
1973年に、ジョージ・ルーカス監督が映画雑誌のインタビューに応じた際、監督は『スター・ウォーズ』を『アラビアのロレンス』と『007』、そして『2001年宇宙の旅』を掛け合わせたようなモノだと言っていたそうです。
初期設定では、宇宙人が正義の味方で人類が悪役であり、ルークはウーキー族の長との戦いに勝利して、一族の長の息子として認められる予定だったとか。そしてベン・ケノービとハン・ソロが、帝国軍と戦うためにウーキーを鍛える...と。
ルーカス監督が『アメリカン・グラフィティ』を撮影していた頃、ウーキーは毛深いけれど背の低い設定だったそうです。そして『アメリカン・グラフィティ』に出演した俳優のチャールズ・マーティン・スミスさんとリチャード・ドレイファスさんは、監督に『スター・ウォーズ』にも出演させて欲しいと懇願しまくったのですが、突然ウーキーは今ご存知の高身長に設定変更され、ふたりは諦めざるを得なくなったとも語られています。
なので、『エピソード6/ジェダイの帰還』でイウォークたちが戦ったシーンは、おそらくウーキー族が戦う予定だった最初の設定が基になっていると言われています。
ほかにも、ルークの初めの設定は凶悪なキャラクター設定で、ハン・ソロにいたっては緑色したトカゲ型エイリアンだったと言うので、これもかなり大きな変更ですね。
トップ画像は、ダーク・ホース・コミックスの『ザ・スター・ウォーズ』から、ラルフ・マッカリーさんによるオリジナルのアートワークです。そこでは描かれているそうですが、やはり初期設定ではルークがダークサイドに堕ち、闇の皇帝になる話もあったのだとか。
さすがにハン・ソロが爬虫類っていうのはあんまり見たくありませんが、他の設定はちょっとだけ見てみたかったかなぁ? なんて思いますね。
たとえば当たり前のように、チューバッカがレイア姫と恋に落ちたり...とか?
ソース: A New Hope: The Illustrated Screenplay and The Connoisseur's Guide to the Scripts of the Star Wars Saga.
『トゥルーマン・ショー』
生まれてからずっと、全世界がテレビで観ている番組の主人公が自分だということを知らずに、リアリティー・ショーの中で生きてきたトゥルーマン・バーバンク。
『トワイライト・ゾーン』第3シーズン29話の、『スペシャル・サービス』というストーリーにインスパイアーされて書かれたこの脚本。実は最初はSFスリラー仕立てで、タイトルも『マルコム・ショー』で行こうとしていたのだそうです。
撮影も当初はブライアン・デ・パルマ監督が予定されていましたが、パラマウント映画社はピーター・ウィアー監督を起用し、コメディ版にした脚本でいくことに決定。
脚本を書いたアンドリュー・ニコル監督は、ウィアー監督が満足するまでなんと24バージョンもの草稿を執筆したのだそうですが、後にダークなイメージで書いた『トゥルーマン・ショー』のボツ案を『ガタカ』として応用したのだそうです。
...ということを念頭に『ガタカ』を観ると、違った楽しみ方ができそうですね。
『オズの魔法使い』
メトロ・ゴールドウィン・メイヤー社が制作を始めた頃、少なくとも3人のシナリオライターを雇ったのですが...各々には「アナタしか脚本家はいませんよ」というふうに他者の存在を隠して同時に進行させていたのだそうです。
そして初期の設定では、カカシは信じられないほど頭が悪いキャラで、ブリキの木こりは懲罰のために金属製のスーツを着させられた犯罪者だったのです。
『オズの魔法使い』は、19世紀末のアメリカ経済に関する比喩話的な要素が強いという話もあり、カカシが農民で木こりが工場労働者として見られる場合もあるそうな。
『ゴーストバスターズ』
ダン・エイクロイドさんの構想では、タイトルが『ゴースト・スマッシャーズ』となっており、時空や次元までをも旅するメンバーが各世界の巨大なゴーストたちを退治する、というアイディアだったのだそうです。そしてあのマシュマロマンだけが、唯一生き残るというところまで考えられていたそうな。
ですが、アイヴァン・ライトマン監督が制作に関わるとともに、経費削減の目的からシナリオの規模をグッと縮小させ、「スマッシャーズ」はもっと身近に、労働階級者たちの害虫駆除業を思わせる「バスターズ」へと変更されたのです。
画像は当時のアイディア・スケッチのようですが、全員爆弾処理班のようなヘルメットを被り、プロトンパックの代わりに魔法の杖のような武器で戦おうとする様子が描かれています。ですが中性子ビームで幽霊退治をする設定は、この頃からすでにあったみたいです。
ちなみに、黒人のウィンストン・ゼッドモア役はエディー・マーフィーさんを起用しようとしていた話も有名かと思います。彼だったらまた違った印象の映画になっていたかも...ですね。
『ジュラシック・パーク』
マイケル・クライトンさんは、執筆した小説が出るより早く映画化のシナリオも書いていたそうです。それは大学院生が研究で恐竜をよみがえらせるというストーリーでした。
スティーヴン・スピルバーグ監督は、暴力的なシーンや難しい説明などを控え目にし、登場人物のキャラクターをもっと引き出す方向に脚本を書き直させると共に、制作費が余計にかかるようなシーンも排除させていったとのことです。
とは言え差し引くばかりではなく、プロコンプソグナトゥスが子供を襲うシーンとティラノサウルスがグラント博士と子供を川まで追いかけるシーンは逆に追加されたのだとか。きっと監督的には、お金がかかっても必要なシーンだったのでしょう。
もしも大幅な書き直しがなければ、もうちょっと学術的でハデな演出で、恐竜たちがスプラッターに人間たちを食い殺したりしたのかもしれませんね。そんなホラー寄りなパニック映画だったとしたら...かなりB級臭が漂っていたかもしれません。もちろん観たいですけれども!
『未知との遭遇』
タイトルが何回も変更され、最初は『エクスペリエンセズ』、次に『ウォッチ・ザ・スカイズ』、そして『キンダム・カム』などとコロコロ変わり、しかも未確認飛行物体は、ロサンゼルスのロバートソン通り(つまりウェストL.A.エリア)に着陸する話として進められていたのだそうです。
とあるプロデューサーは、「これまで聞いた中で一番ヒドいアイディアだ」と言ったそうですが...中途半端に狭い範囲で起こるパニック映画で終わってしまいそうな感じなので、こればっかりは「確かに」と納得せざるを得ません。
そこから、45歳の元空軍将校がUFOの正体を暴く内容になったり(しかしこのキャラは後ほど本作の警察官に転用)、ジェームズ・ボンドとエイリアンみたいな内容になったりした挙句、スピルバーグ監督は友人たちからの助言で子供が誘拐される内容はどうか? と言われたのがきっかけとなり、最終形が映画となり大成功したのでした。これは変更して良かったパターンですね。
ソース:Steven Spielberg: A Biography
『E.T.』
『未知との遭遇』が完成したあと、スピルバーグ監督はSFホラー映画『ナイト・スカイズ』という作品を作ろうと考えました。それはグレムリンのような、悪い意志を持つエイリアンたちが数多く襲来し、やせ細った長い指で触るだけで、牛を死なせてしまう...というもの。ですがその内の「バディー」という名の一匹だけは人類に友好的で、仲間たちから疎外されており、地球で少年と友達になるのです。
しかし、スピルバーグ監督は悪のエイリアンたちの描写が排外的だと感じ、すべてのアイディアを捨て、人類に友好的なエイリアンの「バディー」だけが『E.T.』のアイディアとして残ったのでした。
自分流に作ることを信念として考えを改めた監督が、いろいろ削ぎ落として辿り着いたのが『E.T.』の最も核になる部分だったのですね。
『メトロポリス』
1927年に作られて以来、「SF映画の原点にして頂点」として今でも讃えられる無声SF映画の大傑作。
この名作ですら、何度か脚本の書き直しがあったと言います。小説は監督のフリッツ・ラング氏、そして急ピッチで映画化を目指すために、脚本は奥さんのテア・フォン・ハルボウさんが担当されたそうです。
科学的なテーマで一貫された『メトロポリス』ですが、最初は魔法やオカルトの要素が存在し、主人公のフレーダーは宇宙へと飛び立つというストーリーだったのだそうです。
その設定は、1928年に作られた『月世界の女』へと引き継がれたそうですが、うーん魔法とオカルトの大都会...アリですよねぇ。
『モンスターズ・インク』
slashfilm.comのインタビュー記事では、ピクサー社のピート・ドクター監督がこの映画の初期ストーリーは映像化されたものとは、相当かけ離れたものだったとおっしゃっています。
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元々は、経理職か何かに就いている自分の仕事が大嫌いな30歳の男性が主役だったんです。彼はある日、母親から自分が子供の頃に絵を描いた本を渡されるのです。
何も考えずに本棚にしまったその晩、他の誰にも視えず、彼だけに視えるモンスターたちが現れるんです。モンスターたちは会社にもデートに付いて来るんで、彼は自分のアタマがおかしくなったのだと思い込んでしまいます。
しかしこれらのモンスターたちは、彼が子供の頃に乗り越えられなかった「恐れ」だと気が付くのです。
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それにこのアイディアではサリーなんか脇役で、メインはジョージ・サンダーソン(上の画像)になる予定だったんですって。
もちろん映画化して公開されたストーリーも面白かったのは間違いないのですが、疲れたオッサンたちを元気にしそうな、元々のストーリーはかなり気になりますね。スピンオフ版として作ってみてはいかがでしょうか?
『アイアンマン』&『アベンジャーズ』
完成した映画ではショボい役柄として登場したマンダリンですが、彼こそが劇中で最凶の悪役として『アイアンマン』1作目のプロジェクト開始から10週目くらいまでは、シナリオでそう描かれていたのだそうです。
というのは、マーベル・スタジオズの製作社長であるケヴィン・フェイグさんのお話。マンダリンはトニーの仕事上のライバルでもあり、悪のトニー的な立ち位置になっていたのだそうです。
そしてオバディア・ステインは、マンダリンを手助けする程度で、そんなに注目されるに値しない設定だったのです。
で、3作目になってようやく、ベン・キングズレイさん演じるマンダリンが登場しましたが...どういう訳か、キャラとしては残念な感じに。
ついでに、『アベンジャーズ』の監督ジョス・ウィードンさんは最初、ブラック・ウィドウではなく蜂女のワスプ(本名:ジャネット・ヴァン・ダイン)をかなり頻繁に登場させる脚本を書いていたのですが、あまりにもワスプ一辺倒になってしまっために変更となったのだとか。
さらに、ロキひとりでは映画を引っ張れないと感じた監督は、2番目の悪役を登場させるアイディアも考えていたのだそうです。
まぁ結果として『アベンジャーズ』全員がメインキャラだったので、さらにキャラクターを足したら収集つかなくなってた可能性もありますよね。ロキはロキでキャラが立っているので、『マイティ・ソー』にも出てきますし、これで良かったのかなと。
『X-MEN』
1990年代、何人もの脚本家がアレコレと書いたり変えたりしてきた『X-MEN』のスクリプト。
当初はずっと、マグニートーがマンハッタンを陸の孤島にしてしまい、ミュータントたちの居住区にしようと企む内容が脚本の中枢を担っていたのだそうです。アンドリュー・ケヴィン・ウォーカーさんが1994年に書いたその脚本がネットに上がっていますので、興味のある方はどうぞ。
マンハッタン島へ続く橋は壊され、トンネルは水に沈められ...って、あれ? なーんかこれに近いことは『ダークナイト・ライジング』でベインがやってませんでしたっけ? なんていうのはさて置き。
チェルノブイリの原発事故がマグニートーの仕業だったり、ジーン・グレイはフェニックスになってからの登場だったり、マンハッタン乗っ取り作戦のアイディアもいろいろ含めて、20世紀フォックスは気に入らなかったそうです。残念でした!
『LEGO ムービー』
面白おかしく笑えるは劇場版と同じですが、こちらも初期には違うお話だったという『LEGO ムービー』。メインの有名キャラはインディー・ジョーンズ博士で、悪者ブラック・ファルコンから超兵器スパボン奪還に失敗しまくるというストーリーだったようです。
一方、実はマスター・ビルダーにして選ばれし者だというエメットは、何でも自分の思い通りにしようとする母親と廊下を隔てた部屋に住んでいる設定。
映画化されたエメットは、日頃の仕事や生活に疑問を持たない性格でしたが、元のシナリオでは自分の創造性を抑えることができないような性格で、建設現場での仕事でも指示されたこととは全く別の、愉快で意味のない物を造ってしまうようなクレイジー寄りの活動的なタイプだったのだとか。
で、エメットはその抑制できない創造性が災いして牢屋にブチ込まれてしまいますが、母親が脱獄させてしまうのです。すると母親は、ロボット・ニンジャに捕まってしまいさぁ大変。
エメットとマスター・ビルダー修行中の元カノ(通称:ジェミナイ)は次元の狭間から『ロード・オブ・ザ・リングス』のホビット庄に立ち寄り、『スター・ウォーズ』の世界でR2-D2を拾い、別次元のポップな世界に転移してインディーとハン・ソロに合流します。
ちなみにですが、おしごと社長の名前は「アイアムノットロボット」だったのだそうです。生身の人間だよってことでしょうかね(見た目、思いっきりレゴですけども)。
ということで以上。「io9」で紹介されていた、製作初期の段階では全く違うストーリーだった傑作SF/ファンタジー映画12選はいかがでしたでしょうか?
制作費の都合や監督の気分、偉い人の鶴の一声など様々な要素が絡まって劇場版は完成していますが...中には「やっぱり変更して良かったね」という感じのシナリオもあれば、「そっちも面白いのに何で変えちゃったの」って設定までありますよね。
今からでも、続編とかスピンオフ作品にしても良さそうなのもあるので、各関係者の皆さまどうでしょうか? もしくは読者の皆さんが、勝手な妄想で「あの映画はこんな設定したらどうか?」なんてご意見ありましたら、ぜひとも教えてくださいませ。
12 Beloved Movies That Were Originally About Something Very Different[io9]
(岡本玄介)
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