「ヘルシンキコミックフェスティバル」の記事でもチラリとご紹介したコミックアーティスト、そしてゲーム業界で20年以上の経験を持つ、ベテランゲームクリエイターでもあるミハ・リンネさん。
今回は、同フェスティバルで、クラウドファンディングを利用し出版した、ゲーム業界の悲喜こもごもを描いた新作コミック『Matkailua Pelialalla』(マトカイルア・ペリアラッラ)に関する講演と販売をされていたリンネさんにインタビューをさせていただきました。
リンネさんは、元々コミックアーティストに成ることが夢だったそうです。以前は子供向けのコミックなども発表していたリンネさんですが、今回の『Matkailua Pelialalla』を描くに至った理由には、遊べば楽しいゲームではあれど、その制作の舞台裏、ゲーム業界の難しさを理解する人の少なさにフラストレーションがたまっていたこともあるのだとか。
『Matkailua Pelialalla』では、1994年から2009年までのコミック業界の内情や悲惨さ、クレイジーさを面白おかしく描いています。自らがゲーム業界で見聞きしてきたことをインスピレーション元として、それらの経験を脚色、フィクション化した、「あくまでもフィクション」のコミックとのことです。
中には誰もが知る有名ゲームクリエイター、宮本茂さんやピーター・モリニューさんをどことなく彷彿とさせるキャラクターたちなども登場し、どこかで見聞きしたことのある業界のウラ話が展開します。
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『Matkailua Pelialalla』の中で、リンネさんの一番お気に入りのエピソードは、ゲーム会社のドアの上にある物置の中で日中睡眠をとり、夜になると人知れずねぐらから出て働き出す変人ながらも、欧州で最高のコーダーである「グールー ネウトロン」の話だそう。
ある日清掃職員がその物置の扉を開けると、裸のネウトロンが覆いかぶさるように落ちてきて...というこの話は、フィンランドのとあるゲーム会社で実際に起きた話を大げさにしたもので、実際に会社の物置に寝ていたゲームクリエイターが居たんだとか。
清掃職員が扉の上の物置を開けると、手がブラリと垂れ出てきた様に驚き、それ以来その清掃職員は仕事に来なくなったそうです。ゲーム業界の壮絶な仕事環境が描かれたこの作品ですが、実際のところフィンランドのゲーム業界はそこまで過酷なんでしょうか?
リンネさん:90年代はみんなホビーとしてゲームを作り始めたから、実際酷かったですよ。でもそれ以降、ゲーム制作にかかる予算も増えてきて、「ホビー」ではなく「仕事」になったんです。
ホビーなら愛があれば作れるかもしれませんが、仕事ならば法律に即してやらなければなりません。徐々に状況は改善されていって、今ではちゃんとヨーロッパの労働基準に即しています。
昔と比べ改善されているゲーム業界の労働環境ですが、もちろんゲーム制作は生易しいものではありません。
リンネさん:『アングリーバード』(フィンランドのRovioで作られた作品)が大ヒットしたこともあって、高校生なんかが「ゲームを作るのはクールだ、ボクにもいいアイデアがあるからゲーム作りたいな」なんて軽い気持ちの人にはゲーム業界を勧めはできません。
ゲーム業界は難しく、スキルがあるからといって、業界で生き延びることができるわけじゃないんです。どれだけこの業界の厳しさに耐える力があるか? の方が重要でしょう。多くの人が3~5年で辞めていきます。まあ、それでもいい経験にはなりますけどね。愛が無ければできない仕事です。
今回の『Matkailua Pelialalla』は、フィンランドのクラウドファンディングサイトを利用して出版した作品ですが、クラウドファンディングについてはどう考えているのでしょうか?
リンネさん:クラウドファンディングは「僕みたいな人にとってはとても重要なツール。でもクラウドファンディングは遊び半分でやるものではないです。みんなのお金を貰ってやるものだから、責任感を持たないといけません。
話は変わって、無人島にもしゲームとコミック、映画を1作品づつ持っていけるとしたら、何を持っていくか? という質問には、
リンネさん:ゲームは『バブルボブル』。あの作品はオールタイム・ベスト・ゲームです。好きなコミックは今決めないといけないなら、最近全巻手に入れた『ナウシカ』。映画は今決めないといけないなら、『七人の侍』ですかね。史上最高のコンソールはPCエンジン!
日本のゲーム開発者で会ってみたい人はいないのでしょうか?
リンネさん:宮本茂さんや山岡晃さん、そしてゲーム会社ケイブやトレジャーの人たちに会ってみたいです!
最後に、Kotaku JAPAN読者の方に向けたコメント。
リンネさん:Kotaku JAPANにインタビューしてもらえて光栄です。日本文化にはとても興味があり、黒澤明や三池崇史、宮本茂の作品が大好きです。今のところ機会がありませんが、日本もぜひ訪れたいと思っています。作品もできれば日本で出版したいですね。
一時ゲーム業界を辞め、コミックだけで食べていた時期があったものの、またゲーム業界へと戻ってきたリンネさん(その時の経験も『Matkailua Pelialalla』の中に記されてあります)ですが、将来はコミックオンリーで食べていきたいとのこと。
彼の次回作は、ヘルシンキを舞台に宇宙人が侵略してきて、人類がほとんど滅亡してしまう世紀末的コミック『D'Moleyk』。フルタイムでゲーム会社に勤務しているため、毎週日曜日に8時間かけて1ページ、というスピードでゆっくりと着実に作り上げているそうです。Facebookページでも公開されているので、気になった方はご覧ください。セリフは一切無く、だれでも楽しめるので、完成したら日本でも読めるようになるかもしれませんね。
さらに、こちらのブログでは、『Matkailua Pelialalla』の一部が英語のテキスト付きで読めます。リンネさんにコンタクトを取ってみたい方は、(at)部分をアットマークに置き換えて、kysymykset(at)lopunpera.fiまでメールをお送りください。
(abcxyz)
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