ゲームの世界を舞台にした、ディズニーアニメーション映画『シュガー・ラッシュ』。ゲーム愛に溢れた映像表現の数々と感動のストーリーで、子供から大人までを魅了した本作のブルーレイ/DVDが現在発売中です。
そこで今回は、本作の主人公ラルフの日本語吹き替えを担当した、声優の山寺宏一さんにインタビューして参りました。ジーニーやスティッチを始め、数多くのディズニーキャラクターの吹き替えでおなじみの山寺さんが語る、『シュガー・ラッシュ』の魅力、そして日本語吹き替えへの想いは以下より。
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――山寺さんの演じたラルフは、本編のゲーム内では悪役であるものの、同時に本編では主人公、という少し複雑な構造のキャラクターですが、どういった点を意識して演じましたか?
山寺宏一(以下、山寺):作中のゲームで悪役なのもそうですが、見た目も大柄で悪役な雰囲気ですよね。始めは悪役な部分を出しすぎて、収録の時にディレクターから「ちょっと違う」という指摘を受けました。実際のラルフというキャラクターはもっと繊細だったり、ナイーブだったり、ちょっと間抜けだったりすると。なので、方向性を決めるまでに相当時間がかかりましたし、冒頭の一人語りの部分は何度も録り直しました。
普通の悪役はきっと悪役であることに悩みませんし、したくて悪いことをしていると思うんですよ。それに対してラルフは、自分が悪役というポジションにいることに悩んでいて、「みんなに冷たくされたくない」とさえ言ってますよね。なので、そういった想いをとらえて、「悪役」ではなく「悪役を演じている人」を演じました。
――本作は子供から大人まで、多くの人が感動できる物語ですが、山寺さんが演じていて、一番響いたシーン、台詞はどこですか?
山寺:たくさんありますけど、やっぱり『シュガー・ラッシュ』はラルフがどう変わっていくかの成長物語なので、ラルフの「オレは悪役、それでいい。だからこそ、彼女を守れるんだから」ですかね。あのシーンは大感動でした。
他にも、ディズニー作品ですから、面白い、ウィットに富んだシーンも多いので、そういった場面での台詞も好きです。特にフェリックスの台詞は印象的で、「こんなに解像度の高い女性は見たことがない」とかはすごく面白いですよね。あとは、ラルフが<ヒーローズ・デューティ>へ入り込んだ時に、自分がいたゲームとのギャップに驚くシーンも印象的に残ってます。
――ゲームファンにはたまらないシーンが数多く登場しますが、山寺さんはグッときたゲームのシーンはありましたか?
山寺:一番すごいと思ったのは、本編の舞台となるオリジナルゲーム3作品がそれぞれ個性的で、一つ一つに全然違う良さがあるところですね。
<フィックス・イット・フェリックス>では、8ビットの世界を描くのにあえて動きをカクカクさせたり、砂煙一つを四角形の集まりで描いていったりといったところに驚きました。スムーズに作るほうが昔は大変だったのに、今となってはカクカクさせるために最新の技術を使っているんですよね。
一方<ヒーローズ・デューティ>では、最新ゲームのグラフィックと同等、もしくはそれ以上のクオリティであの世界観を描いてますよね。そして、少しゲームとは離れますけど、<シュガー・ラッシュ>では「お菓子をどうおいしく見せるか?」の工夫がすごいなと思いました。
どのゲームの世界にも入ってみたくなる、というのが素敵ですよね。まあ、<ヒーローズ・デューティ>は入ってしまったら悲惨でしょうけど(笑)。でも、あそこでヒーローになってみたいとは思う。見ている人に楽しんでもらうために、とことんまでつきつめて、計算し尽くして、あそこまで作りこんでいるのは本当に素晴らしいです。
――アニメーションのキャラクターボイスと洋画の吹き替えでは演じ方に違いがあると思うのですが、本作のような海外アニメーションの吹き替えでは、さらに違いがあるのでしょうか? それぞれどういった点が演じていて楽しいですか? また、どういった点が難しいですか?
山寺:日本のアニメであれば、誰も声を入れていないものに自分がオリジナルとして声を入れるので、自由にできます。でも、手がかりは絵と台本にしかない。その上、絵ができてなかったりすることも多いんですよね。
これに対して、海外アニメの場合、製作段階で輸入されて同時進行といったケースではできてませんけど、大抵全部出来上がっていて、オリジナルの声優が演じている声も収録されているので、手がかりが多いんです。
実写の場合は、リアルな人間が演じているので、そこに同じように当てるのは不可能かもしれないという部分はあるものの、全部出来上がってますよね。このように、声を入れる前の段階で全然違うんです。
偉そうに聞こえると困るんですけど、やっぱり吹き替えはとても難しい。例えば『シュガー・ラッシュ』だと、ジョン・C・ライリーが演じた声に対して、絵の顔と表情はぴったり合ってますよね。そこに後から吹き替えを入れるというのは、本当に難しいんです。でも、日本語吹き替え版を見る人には、ジョン・C・ライリーの顔も姿も見えなければ、声も聞こえませんよね。となると、もしかしたら、元の音声の表現を超えることだって可能なんじゃないか? と思うんです。
実写の洋画の吹き替えの場合、ブラッド・ピットが実際にしゃべっている顔に、ブラッド・ピット以上に声をぴったり合わせるのはまず不可能ですし、その必要は無いだろうとも思います。昔の声優の先輩方は、つまらない海外の俳優を吹き替えで面白くしたということもあったわけですけど、僕自身はそこまでできてません。
ただ、海外アニメの場合、作品を理解し、絵をしっかり見て、演じることによって、オリジナルを超えるチャンスはあると思うんです。非常に難しいですし、僕自身できたことは一度もないかもしれませんけど、日本語吹き替え版を見た人がより楽しめるように、そのくらいの想いで演じてます。
――劇場公開やテレビ放送は現状少ないですが、吹き替え版のDVDボックスが続々と販売されたり、最近じわじわと吹き替え映画の再評価が盛り上がっているように感じます。山寺さんの思う、吹き替え版の魅力とはなんでしょうか?
山寺:字幕を読まなくても情報がすっと入ってきて画面に集中できる、ということに尽きます。それが絶対的条件です。ところが、先程も言いましたけど、吹き替えってすごく難しいんですよね。
ディズニーが総力を上げて作り上げた、クオリティの高い素晴らしい作品でも、日本語吹き替えを合ってない人が当てたら台無しになります。例え映像が良くても、吹き替えが良くなかったら、絶対にストレスが残ると思うんです。吹き替えで素晴らしい作品をキープしたり、より良くするのは難しいですけど、台無しにするのは簡単。だから、声優の資質がすごく問われると僕は思ってます。
逆に、ぴったり上手くいけば、見る人は楽にその作品を楽しめるんですよね。作品の元の言語が理解できる人は、本来の台詞を言うタイミングと同時に楽しめるわけですけど、上手にはまった吹き替えであれば、それと同じように楽しめると思います。なので、吹き替えの魅力は「読まなくていい」。ただそれだけです。
後は、良い吹き替えか悪い吹き替えかの問題。駄目な吹き替えは絶対にマイナスなので、僕も悪い吹き替えだと言われないように努力してます。かといって、全作品の全キャラクターを完璧にこなすのは難しいですけど、自分が与えられた役に関しては、違和感とストレスなく、日本語吹き替え版を楽しんでもらえるようにと、演じてます。まあ、見てる人からすると、僕が合っていなかった役もあるとは思いますけどね......(苦笑)。
吹き替えってテレビ局版と劇場版があって、DVDに完全版として2つ入るといったこともありますけど、基本的に劇場公開版に関しては一人の声優が担当するので、すごく重要ですよね。責任重大だなと思います。
――本作はラルフがさまざまな困難を乗り越え、成長し、自分の役割に気付いていく物語ですが、山寺さんはこれまでのキャリアの中で、ラルフのような「気づき」を得た瞬間、吹っ切れた瞬間というのはありましたか?
山寺:僕は未だに吹っ切れてないですね(笑)。すぐネガティブに考えてしまうので......。でも、声優の仕事を一生やっていこうというのは、デビューした頃からずっと思っているので、もしかしたら最初から吹っ切れてる部分はあるのかもしれません。声優の仕事が楽しくて仕方がなかったんですよ。小さい壁というのは毎日のようにありますけど、やめようと思ったこととか、挫折は特にありません。
なんとなく、ラッキーでここまできちゃったので、今デビューしなくて良かったなと、よく思います。先輩方はすごく優しく、おっかなかったディレクターさんは丸くなった頃っていう、絶妙なタイミングで業界に入ったんです。その頃僕は20代で、30代、40代、50代、60代、各世代の先輩たちがスタジオにいるような環境でした。殺伐としてて厳しいわけではないけど、優しすぎるわけでもない、すごく良い時期だったんです。今は声優の数が多い上に新人ばかりなので、若手だけの現場も珍しくない。彼らは世代が固まっちゃうので、先輩に教えてもらえないんですよ。
僕が入った頃は、さっき言ったような良い環境で、学ぶべきことばかりだったし、楽しくて仕方がありませんでした。そのおかげで迷うことなく、この世界にずっといる気がしますね。逆に今ネットの評判見て落ち込んだりしますけどね......。もちろん励まされる言葉もいっぱいありますよ(笑)。でも、油断したらいけないなと思ってます。
――最後に、本作の冒頭のラルフのように、自分を見出だせずに悩んでいる方々へ、山寺さんからメッセージをお願いします。
山寺:これは難しい質問だなあ(笑)。僕は人にアドバイスできるほど達観してないですけど、「誠意と真心」じゃないですかね?
僕は書道家の武田双雲さんが大好きで、彼は良い言葉をたくさん残しているんですが、その中に「真心鉄砲、数うちゃ当たる」という言葉があります。これは、「何度失敗しても真心を持って接していれば、いつかわかってもらえるはずだ」といった意味なんです。やっぱり真心なく、誠意なく何かをやったとしても、何も生まれないと思いますね。
山寺さんの吹き替えへの熱い想いを踏まえつつ、未見の方はもちろん、劇場で見た方も、もう一度『シュガー・ラッシュ』で感動してみてはいかがでしょうか。劇場ではなかなか隅々まで確認できなかったゲームネタの数々も、ブルーレイ/DVDなら一時時停止してじっくり見られますよ!(実体験)
『シュガー・ラッシュ 3Dスーパー・セット(3枚組/デジタルコピー付き)』ブルーレイ/6,090円(税込)、『シュガー・ラッシュ ブルーレイ(2枚組/デジタルコピー付き)』ブルーレイ/3,990円(税込)、『シュガー・ラッシュ DVD+ブルーレイセット』/3,990円(税込)は現在好評発売中、そして『シュガー・ラッシュ』オンデマンドも好評配信中です。『シュガー・ラッシュ』DVD/3,360円(税込)は、2013年8月21日(水)に発売です。
[『シュガー・ラッシュ』公式サイト]
[ディズニー映画/ブルーレイ&DVD]
(スタナー松井)
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