無限に広がる3Dプリンターの可能性。
生後6週間のカイバ・ギノンフリード君はある日、両親と訪れたレストランで、急に顔色が真っ青になり、呼吸停止状態になりました。驚いたカイバ君の父親は必死に胸部をマッサージし、呼吸回復に努めました。
それからカイバ君はすぐさま病院に担ぎ込まれ、最悪の事態は回避。医者は「食べ物か飲み物が肺に入ったのではないか」と診断し、カイバ君の両親は胸を撫で下ろしました。しかし、ほっとしたのも束の間。その2日後にも再び同じことが起こったのです。
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カイバ君を苦しめていたのは、肺に入った食べ物でも飲み物でもありませんでした。幼いカイバ君は、息を吐いた時に気管や気管支の断面が扁平になる気管・気管支軟化症という病気を患っていたのです。そして、その病気をミシガン大学の医者達は、3Dプリンターを使って治療しました。
日本小児外科学会の説明によると、気管・気管支軟化症の多くは内科的な治療で症状が軽くなるそうですが、手術が必要なほど深刻な場合、通常扁平化して狭くなっている気管支の一部を切り取って気管とつなぎ合わせる方法や、気管支の外側をステントという強度のある円筒で支える外ステント術、あるいは内視鏡を使って気管内にステントを挿入する方法(気管・気管支軟化症の項目より一部抜粋)が取られるそうです。
しかし、「io9」によると、ミシガン大学の医用生体工学及び機械工学調査研究員のスコット・ホリスター氏と小児耳鼻咽喉科のグレン・グリーン氏は、この幼い命を救う為に3Dプリンターを使うことに決めたのだそうです。しかし、この技術は未だかつて人間に使われたことはなかったため、治療を始める前に、アメリカ食品医薬品局に利用許可を得なければならなかったとのこと。
人類初となる3Dプリンター使用の手術に対し、母親であるエイプリルさんは以下のように語ったとCNNが伝えています。
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カイバの治療の為にこのようなプリンターが使われるのは素晴らしいと思いました。その事については、ほとんど心配していなかったです。それよりも私たちは、息子がどうなってしまうのかということを心配していました。
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カイバ君用のスプリントを造形するにあたり、グリーン氏とホリスター氏は、CTスキャンでカイバ君の気管と気管支の正確なイメージを作る必要がありました。それから、コンピューターでモデリングし、3Dプリンターでカイバ君の気道の周りに完璧にフィットするスプリントを作ったのです。
このスプリントは、ポリカプロラクトンと呼ばれる材料で出来ており、約3年で分解します。その時には、カイバ君の気管は成長し、臓器への圧力は減少するのでスプリントの必要性はなくなると考えられています。小児耳鼻咽喉科のグレン・グリーン医師によると、「カイバ君に使用したスプリントなら、約24時間で形になり、手彫りの物の3分の1の価格で作れる」とのことです。
カイバ君の母親であるエイプリル・ギオンフリードさんは、カイバ君が何度も呼吸停止になっていた当時のことを思い返して、「ドクター達はカイバに心肺蘇生法を毎日施さなくてはいけませんでした。私はカイバが病院から生きて出られるとは思っていなかったのです」と語っています。しかし、3Dプリンターの技術を使った手術から15ヶ月が経過した今、現在18ヶ月になったカイバ君は、自分で呼吸することができ、とても元気に暮らしているそうです。
画像:New England Journal of Medicineより
(中川真知子)
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