1966年、日本では『宇宙大作戦』というタイトルで放映がスタートした『スタートレック・ザ・オリジナル・シリーズ(TOS)』。中でもUSSエンタープライズ号の黒人通信士官だった「ウフーラ」の存在が、たくさんの黒人の人たちに勇気と希望を与えたことを知っていますか?
今回はゴールデンウイークのコラムとして、キング牧師が「ウフーラは黒人の子供たちにとって目標である」と讃えた、ニシェル・ニコルズさんの演じたウフーラの素晴らしさについて語ってみます。
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人種差別なんてありえない、でも存在する。いつか差別がなくなる未来を信じて....そんなSFの夢の一つを、具現化して見せてくれた作品が『スタートレック』というSFテレビシリーズでした。
時は23世紀。超光速航行技術を開発した23世紀の地球人は、ミスター・スポックたちバルカン人を始め、幾つかの種族と惑星連邦を結成していたというのが、『スタートレック』の描いた世界観。だからこそ、ジョージ・タケイさんの演じたヒカル・スールー(カトー)を始め、登場人物にも多様な民族が登場します。ちなみに、ウフーラは当時の吹き替え版では「ウラ」という名前で呼ばれていましたっけ。
すでに地球には貧困もなく、戦争もなく.......『TOS』の描く地球の姿は、一種の「理想世界」でした。すでに地球外知的生命体との連邦体制まで構築している大宇宙時代に、地球人同士のちっぽけな人種差別なんて、バカバカしいことに過ぎません。
だけど放映された時代は、60年代の現実のアメリカ。ブラウン管の中の宇宙時代とは違って、実際のアメリカ社会には、根強い偏見が息づいていたのです。
そんな時代に、USSエンタープライズ号の黒人通信士官として、颯爽と活躍したウフーラ。なんと、アフリカ系アメリカ人がテレビドラマの主要人物としてレギュラー入りしたことさえ、ニシェル・ニコルズさんが初めてのことだったのです。
そんなウフーラの存在によって、当時のマイノリティがどれだけ勇気を与えられたかを語るには、枚挙にいとまがありません。
たとえば、アフリカ系アメリカ人による公民権運動の指導者であり、1964年のノーベル平和賞受賞者でもあるマーティン・ルーサー・キング牧師は、自身も「TOS」のファンであったと同時に、「ウフーラは黒人の子供たちにとって目標である」と語っています。また、黒人女性として初めてスペースシャトルに搭乗し、宇宙へ旅立ったメイ・ジャミソン宇宙飛行士も、ウフーラの活躍をテレビで観て宇宙を志した人の一人です。
ちなみにジャミソンさんは、テレビシリーズ第2作『新スタートレック(TNG)』シーズン6の第24話、『もう一人のウィリアム・ライカー』というエピソードに、パルマー少尉役で出演まで果たしています。
その他にも、テレビシリーズ第2作『新スタートレック』で、エル・オーリアン星系種族の女性バーテンダー「ガイナン」として出演していたウーピー・ゴールドバーグさんも、ウフーラをテレビで見て女優を志しています。
英語版のウィキペディアでは、ゴールドバーグさんの逸話にちょっとだけ触れています。
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ウーピー・ゴールドバーグは、後に『スタートレック・ニュージェネレーション(新スタートレック)』で、ガイナン役を演じている。彼女は、ウフーラを人生の目標だと語った。
「そう、私はテレビで、一人の黒人女性に出逢ったの。驚いたわ、だって彼女はメイドじゃなかったのよ!」
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ちなみに2009年版の映画『スタートレック』では、ゾーイ・サルダナさんがウフーラを演じていましたね。8月に公開予定の『スター・トレック イントゥ・ダークネス』でも、サルダナさん演じるウフーラのかっこいい姿が見られるはず。楽しみです!
■テレビドラマ史上初めての「異人種間のキス」
さて、ここで本題といきますか。キスですよ、キス!
テレビシリーズとして初の黒人レギュラー、偉大なるウフーラを登場させた『TOS』は、さらにテレビドラマとしては初の「異人種間のキスシーン」まで実現しています。それが『TOS』シーズン3、第65話に当たる『キロナイドの魔力』というエピソード。1968年11月22日の出来事でした。
恒星日誌、宇宙暦0405.3066....救難信号によってエンタープライズ号が到着した惑星プラトニウスには、貴重な鉱石キロナイドの存在が認められました。しかし、その惑星はテレキネシスを操る不老長寿の民族プラトニアンが支配する惑星だったのです。
しかもプラトニアンは、紀元前400年に地球に移民したジャンドラ星系の難民の末裔であり、彼らはギリシャ哲学者プラトンに、かつて従っていた異星人だったのです!
テレキネシスを実現し、プラトニウスに自らの文明を興したプラトニアンは、独裁者ペルモン王とその側近によって「精神操作」されていました。カーク船長やスポックらも、ペルモン王の精神支配を受けてしまい、まるで座興劇のように操られます.......。
そういうストーリーの流れの中で、白人であるカーク船長と黒人であるウフーラがキスを交わすというのが、まさに歴史的といえる「テレビドラマ史上初」の異人種間キスシーン。異人種どころか異星人種の交流と対立を描き続けてきたスタートレックにおいても、まさに「歴史的」といえる、人種の壁を越えた瞬間だったのです。
■テレビで初めての異人種間のキスは「音楽番組」
さらに話はさかのぼって....ドラマではなく、テレビで初めて異人種間のキスシーンを放映したのは、フランク・シナトラの娘、ナンシー・シナトラの看板番組としてNBCで製作された、1967年12月11日放映の『ムーヴィン・ウィズ・ナンシー』という音楽番組。
そこでナンシーは、サミー・デイヴィスJr.と、ほんのちょっと交わす程度の軽いキスをしてみせました。これが、史上初めての異人種間のキスとして放送された、テレビ史に記録される映像だったりします。
動画の最後にちょっとだけ出てくる、ナンシーとサミーのキスは、挨拶程度の軽いキス。いやらしい印象なんてまったく感じない、二人の仲のよさを感じさせるものです。でもこれだけのことが、当時の人たちにとっては衝撃的な出来事だったんです。音楽もSFも、やっぱり国境や人種を越えるんですね。
こういうエピソードを通しても、サイエンス・フィクションが現実世界に影響する、一端を見る気がする。それは想像力の肯定に他ならないと思います。
かのキング牧師も、「I Have a Dream!(私には夢がある)」という言葉を用い、夢を実現させるために命をかけて行動していました。また、「人が想像できることは、必ず人が実現できる」と述べたのは、SFの父であるジュール・ヴェルヌでした。
そう、夢は実現させるためにあるんですね。
[via TV's First Interracial Kiss | Neatorama]
(キネコ)
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