先日は、翻訳版アナログゲームができるまでのお話をご紹介しましたが、今度はオリジナルのアナログゲームができるまでのお話を、実際にボードゲームを制作している「タンサンファブリーク」の皆さんにインタビュー形式で伺いました。
「タンサンファブリーク」(会社名はタンサンアンドカンパニー)はボードゲームのゲームデザインだけでなく、翻訳版ボードゲームのアートワーク、Tシャツ、ステッカーの制作も行うマルチなチーム(企業)。先日、浅草で開催された『ゲームマーケット2012秋』にも出展されていました。
今回はそんな「タンサンファブリーク」の朝戸一聖さん(ディレクター)、よしだまさのりさん(デザイナー。ゲームとグラフィック両方のデザインを担当)、U#さん(イラストレーター)のお三方に、制作のプロセスやアナログゲームの世界へ入っていったきっかけ等いろいろお話を伺いました。インタビュー以下より。
――ゲームマーケット出展お疲れ様でした。今回参加してみて何か感じたことはありますか?
朝戸一聖:(以下:朝戸):以前に比べて出品者が凄い増えたのと、個人出展もクオリティが高いところが多くなったなーと思いました。来場者は増えているみたいですが、前回も多かったのでそれほど感じませんでした。
――確かに来場者は増えていますね(公式発表では前回比500人増の計4200人でした)。
朝戸:あとは強いて言うなら、厚着の人が増えたなという印象ですね。
――寒くなりましたからね(笑)。今はボードゲームの制作をされていますが、皆さんがボードゲームに触れるきっかけとはどんなものだったのでしょう?
よしだまさのり(以下:よしだ):僕は『スコットランドヤード』(編集注:ロンドンを舞台に怪盗と刑事が追跡劇を繰り広げるドイツ産のクラシックな戦略ボードゲーム)です。大学の先輩が持っていて合宿の夜にやりました。最初に買ったのはなんだったかなぁ...『ごきぶりポーカー』を買いましたね。
U#:僕も『スコットランドヤード』です。あさとがある日、ボードゲームしようぜと言い出して、持ってきたのが『スコットランドヤード』でした。最初に買ったのは・・・遊んで面白かった『ニムト』ですね。
朝戸:僕は昔からボードゲームが好きで、ピープルの『けいどろ』や『カンケリ』とかを小さい時からやってたのですが、本格的にやりだしたのは『スコットランドヤード』からですね。
――みなさんきっかけは『スコットランド・ヤード』なのですね。
朝戸:なかなかボードゲームやりたいとは言い出せなかったのですが、よしだが『スコットランドヤード』知ってると言っていたので、これはチャンスとばかりに大学に持ってみんなで遊んだのが始まりですね。それまでは、ボードゲームは少し恥ずかしいものみたいな認識が僕の中にはありました。
――恥ずかしいというのはなぜ?
朝戸:テレビゲーム全盛だったからでしょうか? 小中高とテレビゲームのほうがメインカルチャーっぽくて、スゴロクみたいなゲームはどっちかというと子供がするものみたいな印象がありました。『チケット・トゥ・ライド』とかも持っていたのですが、それまではほとんどやったことが無かったですね。
――なるほど。それでも、皆さんで『スコットランド・ヤード』をやってその気持ちも消えていったと。こうして皆さんが本格的にボードゲームに触れて、それから自分達で作ってみようと思ったきっかけはなんでしょう?
朝戸:ボードゲームでよく遊ぶような仲になって、大学卒業後はなにか一緒にものづくりがやりたいという話をしていたのです。それで、いろいろ考えた結果、ずっと遊んでたボードゲームはまだまだ未開拓な部分が多いと思ったので、そこに挑戦したいというのがありましたね。
――未開拓な部分とはどんなところでしょうか?
朝戸:僕が強く思っていたのはボードゲームからの派生文化が少ないということですね。ボードゲームで完結してるところがあると思ったんです。
例えば映画やアニメだったら、その派生としてグッズが結構あったりするじゃないですか。スターウォーズを見ていなくてもダースベイダーは知ってるみたいな事を、ボードゲームでもやりたいなと思いまして。
――熱いアイデア! そういう形でボードゲームが知られていくのも面白いですね。こうして始められたボードゲーム制作ですが、今はどのようなプロセスで行われているのですか?
朝戸:まだ確立できていないので、ふわっとしてるのですが...例えば粘土をこねていて、ある瞬間の形が、たとえばツボに見えたとします。ツボっていいよね、っていう話をして、それで盛り上げれば、そのままツボにするために形を整えていくところから始まる感じでしょうか。
でも、そこで、あまりにもツボとして作りすぎてしまって、「あ、コレは壷だね。」となってしまうのは避けたいなと思っていたりします。僕らがいいと思ったのはツボみたいだった時の粘土であって、壷が好きというわけではないというのを意識して考えています。
例えば僕らの作った『ヒットマンガ』(吹き出しが空欄の漫画の1コマが描かれたカードを使い、親がセリフを作って読み上げ、他のプレイヤーはそのカードを予想早取りするカルタのようなゲーム)の時は、雲の形を何かに見立てる遊びからきています。
そこで、そのまま雲の形を見立てる遊びとして作りこんでしまうのではなく「この面白いところってこういうことだよね」という感じでヒットマンガになりました。
――あえて固まったアイデアではない状態から始めて、そこからゲームデザインへと移るわけですね。
朝戸:そういうアイデアを形に起こすのが、よしだといったところでしょうか。彼は整理がとてもうまいので。
――よしださんがゲームデザインをしていき、次のステップでコンポーネントとかパッケージのビジュアル制作をしていくのですか?
朝戸:ビジュアルに合わせるためのゲームデザインをしたりするので、ビジュアルとゲームデザインは平行して進めています。例えば、先ほどの『ヒットマンガ』では、打ち切りカードが3枚でるとゲーム終了なのですが、漫画家が3回打ち切りなったら作家生命が終わるみたいなお話を反映しています。
また、『Ranka』というゲームは、囲碁を現代風にアレンジしたゲームなので、自ずとルールが決まりました。僕らの中にルールとビジュアルは表裏一体であるという意識があるかもしれないですね。
――それからテストプレイなどを経て、実際の生産に向かうのだと思うのですが、製造コストとか売り上げに関する目標などはどのあたりで決められるのでしょう?
朝戸:もちろん会社としてやっておりますので、最初からコストを意識していますが、そこだけに縛られすぎないよう気をつけています。安く作るというよりかは、ゲームに対するコストパフォーマンスを大切にしたいと思っています。
――ゲームに対するコストパフォーマンスとは?
朝戸:製造コストが高くなってしまうとしても、効果的な仕様であれば、それを採用するというようなことでしょうか。例えば『ヒットマンガ』はの箱はいわゆるキャラメル箱でして、蓋身式の箱(本体にフタをかぶせて使う形式の箱。ボードゲームでは一般的)より価格を抑えることができます。
蓋身式の箱にして価格を上げることが効果的なのかと考えた時に、『ヒットマンガ』に対しては、効果的ではないのではないかと判断して、キャラメル箱で製造することにしました。
――なるほど。そういった計算がなされるのですね。そういった部分はゲームに対するコダワリとの兼ね合いにもなってくるかと思うのですが、皆さんはどのようなコダワリをゲームに対してお持ちですか?
よしだ:いい場を作れるゲームが良いゲームだと思っているので、そこを意識しています。こうすればプレイヤーはドキドキするんじゃないかとか、笑いが起こるんじゃないかとか、そういう「場作り」、「気持ち作り」がしたいと思っています。
それは、グラフィックデザインも同じで、単に綺麗とか、オシャレだとかではなくて、ワクワクさせられるようなものが作れたらいいなと思っています。
U#:ゲームにもよりますが、やはり、子供から大人まで楽しめるような、ワクワクできるイラストを心がけて描くようにしております。
――遊ぶ方のドキドキ・ワクワク感を重視されているということですね。
朝戸:ゲームの全体方針としては、隙間や緩みなどの意味での遊びがあるようにしたいと思っています。ダルマの目のように、買った人が最後の仕上げをするというような。
――確かに『ヒットマンガ』でもシステムというよりはプレイヤー主体でゲーム進んでいる感じがしますね。
朝戸:誰と遊ぶかみたいなものを大切にしたいと思っているので、龍の目の仕上げは買った方にお願いしています。
――プレイヤーの存在が重要で、プレイヤー自身ゲームを完成させるわけですね。
朝戸:そうですね、そのほうが僕らが目付けするよりも、もしかすると勢い良く龍が飛び出すかもしれないですからね。
例えば、『ヒットマンガSF』はSF映画とかB級映画とか好きな方にはぜひ遊んでもらいたいです。濃密な文脈を駆使して遊べるはずなので!
―― いいですね。私もそういうの大好きですし。Kotakuの読者の皆様向けな気がしないでもないですね(笑)。
朝戸:ヒットマンガSFはどっちかというと、このゲームを肴にSF談義で盛り上がるようなゲームでして。僕なんかはゲームの本分は雑談にあると思ったりするので、むしろ自分の為につくったような感じになっています。
――ゲーム中の雑談は楽しいですよね。
朝戸:楽しいですね。歴史系のゲームでしたら、その歴史に関して知ってることを話しするようなのが楽しいんですよね。
ゲームでの無駄な文章はフレーバーテキストって言うんですけど、僕らがタンサンと名乗っているのも、ゲームにおけるフレーバーを大切にしたいという思いもあるからなんです。フレーバートークみたいなのができるようなゲームを作っていけたらと思っています。
――会話に花が咲くようなゲームってわけですね。
朝戸:そうですね、あくまでゲームが主役であるからこそ盛り上がる会話といいますか。僕なんかは結局、飲み会とか、そういうのが終わったあと、さよならする間際の会話が一番おもしろいと感じるのです。それはやっぱり、会話が主役ではなくて、帰るという行為が主役であるからこそ、その制限で盛り上がるんだと思うのです。そういうのが出来たらいいなと毎回思ってますね。
――制限。ゲームでいうところのシステムやルールって所ですかね。
朝戸:雑談してたら「ほらお前の手番だぞ」という感じで話が終わっちゃったりするじゃないですか。そういうルール外ルールみたいなものを作るゲームをこれから作っていきたいですね。
そういう意味で、『忍者問答』という前回の『ゲームマーケット』に体験版を出したゲームがあるんですが、これもそういうことが出来るように、時間の余白をたのしめるような忍者暇伝というまったくゲームには関係ない、忍者の豆知識みたいなものをつけたりもしています(笑)
――忍者問答はそういったタンサンさんのフレーバートークに対する思いがつまった作品ということですね。
朝戸:そうですね、フレーバーと余白の塊というと言い過ぎかもしれませんが、ぜひ親しい仲間内で遊んで欲しいゲームになっております。来年の上半期には発売予定です。
――完成が楽しみです。Kotaku読者の皆さんはきっとまだ ボードゲームをまだ遊んだことない方が多いと思うんですが、そんな方に対するメッセージをいただけますか?
朝戸:「Kotakuを読んでるみんな!御託はいいからお宅のコタツで卓を囲んで、遊ぼう!」っていうのを考えたのですが、これは滑りそうなので「人生にボードゲームが無くても1ミリも困りませんが、それって、僕にとってはコーラのない人生に近いです」ですね! タンサンなので。
U#:ボードゲームは最高のコミュニケーションツールです。みんなで楽しく遊びましょう!
よしだ:もしボードゲーム買ってみようかなって思ったら、ぜひヒットマンガSFを買ってください。(笑)
――本日は貴重なお話をありがとうございました!
朝戸、U#、よしだ:ありがとうございました。
今回お話をしていただいた、「タンサンファブリーク」の皆さんのゲームは、全国のボードゲーム取扱店で販売中(詳しくはこちらの公式サイトから)。そして新作の『忍者問答』は来年上半期に発売予定。また、「タンサンアンドカンパニー」名義でアートワークを担当された「フォルム・ロマヌム」はニューゲームズオーダーから来年1月発売予定。どちらのゲームも発売が楽しみ。早く遊んでみたいですね!
(傭兵ペンギン)
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