先日、長編映画第1作目の『第9地区』で脚光を浴びたニール・ブロムカンプ監督の新作『エリジウム』のトレーラーを紹介しました。政治、格好良いメカ、そして空に漂うオブジェクトの数々...。ブロムカンプ監督の描くディストピアにワクワクした人も多いのではないでしょうか?
そんなブロムカンプ監督に「io9」がインタビューを行ったようです。彼が得意とするディズトピアに関して理解を深めることも出来る内容となっています。なお、このインタビューはトレイラーがリリースされる前に行われたものだそうです。
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ーー既に公開されている『エリジウム』のイメージの中に、小さな子供が空に浮かんでいるトーラスを見上げているものがありましたが、私には『第9地区』に登場した宇宙船を思い起こさせました。あの宇宙船はエイリアンのゲットーの象徴でしたが、『エリジウム』ではその反対を表現しようとしたのでしょうか?
面白い見方だね。でも、確かにそうだ。あれは極貧で流行病が蔓延している地球を捨てた、億万長者だけが住む宇宙ステーションなんだ。だから、言われてみれば(『第9地区』とは)逆の設定かもしれない。
ーー『エリジウム』では、裕福な人達が高度なバイオテクノロジーにアクセス出来るようですが、彼らはポストヒューマンなんでしょうか? 彼らはDNAを改造しているらしいと耳にしたのですが。
あぁ、(一部は)そうだね。なんて言うか、トランスヒューマニストとサイエンスフィクションと、まったくの思いつき程度のフィクションのアイディア、それら全てが僕にとって非常に興味深いんだ。沢山のアイディアがあって、それらを1つの映画の中にどれくらい詰め込むかが問題になってくるんだ。
例えばだけど、ストーリーとプロットがあって、もし観客をスクリーンに釘付けにする何かが無かったとしたら、困るよね? 釘付けにする何かっていうのが最重要で、あとは物事を重ねて行くだけ。トランスヒューマニストのことを考えるのは本当に楽しかったよ。
問題は、観客をストーリーに没頭させる為にどれくらいの時間を映画に費やすことが出来るか。僕は、人が考えている以上に、その時間を費したいと思っている。ドキュメンタリーでも、その他のジャンルでも良い、違う種類の映画でより多くのアイディアを表現出来るかもしれない。でも低い予算だと観客はクールなものは見られない。いや、本来なら見せることの出来る表現の幅が狭まるということなんだけど......。だから、僕は『エリジウム』にありったけのアイディアを詰め込んだんだ。バランスを取っているから映画を踏みにじるような形にはなってないと思うよ。
ーー話題は変わりますが、監督の作品の中には組織問題とボディーホラー(人間の体が破壊されたりする様を克明に描写すること)のコネクションが多数出て来ますね>。
ボディーホラーね。
ーーええ、そのコネクションが何なのかと思いまして。
この映画にボディーホラーは出て来ないよ。『エリジウム』には全くボディーホラーは出て来ない。
ーーしかし、見たところグレイエリアの組織と、人々が自分の体を改造することを強調する描写はありますよね。
ああ、でも思っているほどは出て来ない。バイラルマーケティングの影響でボディーホラーが多いと感じたんだろうね。でも、想像した以上のDNAの変更云々は、この映画には出て来ない。確かに僕はボディーホラーが大好きだけどね。
ーーマット・デイモンがパワースーツっぽいものを着ている映像がありました。『第9地区』にも人体とデバイス、テクノロジー、武器をマージさせたものが登場しましたが、監督は何故そういうものに惹かれるのでしょうか?
何でだろうね。物心ついた時から、そういうものに魅了されていたんだ。理由なんて無い。多分、人間の体と心と意識が存在する場所のメカニクスと、それらふたつをそのまま維持した体のメカニクスが何を出来るのか、そして、それらがクロスオーバーする所にどうしようも無く強く惹かれるんだと思う。
人間の心を馬に入れることが出来る? そうすると、どんな結果が出る? 人間の心はコンピューターのシミュレーションで動作する? その結果は? そういう、技術的特異点みたいなのに興味があるんだ(意訳)。ただ単に興味がある、理由なんて無い。
でも、私は映画の中でそういうものを見たいんだ。僕にはその手のアイディアが沢山あるしね。ただ、それが問題なんだ。アイディアが100万個あったとしても、1本の映画で使えるのはその内の4つ程度。だから、これからも沢山映画を作らなきゃいけない。アイディアを出し切るまで何本もね。
そうそう、ボディーホラーに関してだけど、僕にとってオーガニックじゃないといけないものなんだ。もし、それがオーガニックとオーガニックを混ぜているものだとしたら、それは僕にとってボディーホラーなんだよ。粘着物のようで、鱗のようで、心理のようである必要があるんだ。『エリジウム』に出て来るマットのスーツは、病気の彼の身体的能力を増幅させるもの。患者を歩かせるようにしたりするような、ね。映画に出て来るのはそういう類いだよ。
ーー基本的に外骨格のようなものですか。
そうだね。強さだ。それでもコンセプトは面白いよね。あの場合にテクノロジーを使うことは、単純により俊敏にしたりすることなんだ。
ーー裕福層が住むトーラスと地球の絵的な差別化はどうやって計っていますか?
エリジウムは「宇宙のベルエアー(ビバリーヒルズの西にある高級住宅地)」をイメージしたんだ。宇宙のビバリーヒルズ。この映画は、『第9地区』ほど風刺的な作品じゃない。だけど、皮肉や嫌味っぽい描写は沢山入れてあるんだ。宇宙の高級住宅なんてダークな皮肉は最高じゃない? だって、どう見ても科学的に妥当ではない。でも、だからこそ面白い。
裕福層は地球から富と資源をかっさらい、宇宙にベルエアー地区を再現する。残された地球は正反対の荒れた地になってしまう。僕はふたつとも同じように面白いと思うんだ。でも、個人的には、(宇宙のベルエアーよりも)地球の方が面白いと思ってる。だって、僕が描いた地球の未来は、多くの人が反対意見を唱えるかもしれないけど興味深いだろ? みんなが思い描いているこれからの地球像とは、全く正反対の道を進んでいるんだから。
ーーもう少し詳しく話してもらえますか?
病んでいるんだよ。テクノロジーが完全に失われてしまっている第三世界なんだ。それが未来の設定だとしたら、嫌だよね。僕もちょっと嫌だと思う。でも、僕らが向っているのはそういう所なんだ。
ーー監督の言うローテクとは、何か問題を起こしたもののことですか? それとも単に徐々に衰えて行ったもののことでしょうか?
単に徐々に衰えたもののことだね。なんていうか、南スーダンがこんな状況になったってことを、どうやって説明する? つまりはそういうこと。富を引き出したら、何かする為の資源が得られなくなった。だから地球にある全ての資源を奪った。そういった、ある種のマルサス主義みたいなのは急速に広がるんだ。そういうイメージってのは面白いよね。宇宙ステーションは、僕が小さい頃にみたサイエンスフィクションのイメージだよ。
ーー地球には面白い物やテクノロジーがありますか? 闇市みたいな怪しいものを売っているとか?
あぁ、あるね。外身はセレブっぽいのに中身はとんでもない三流品を売るブラックマーケットみたい所が出て来るよ。
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ニール・ブロンカンプ監督、期待の新作『エリジウム』は2013年9月20日公開予定です。
[via io9]
(中川真知子)
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