先月の24日に開催された第85回アカデミー賞授賞式で、映画『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』が視覚効果賞を始めとする4冠に輝きました。受賞に大きく貢献したのは、本物と見紛うクオリティのトラでしょう。そのCGを担ったのは、大手VFXスタジオのリズム&ヒューズ。栄えある賞を受賞したスタジオですが、先月13日にチャプター11(連邦倒産法第11章)を裁判所に提出。つまり、倒産したのです。
アカデミー賞を受賞するほどの技術を持った大手スタジオの倒産は、ハリウッドに激震と大きな不安を与えました。そこで今回は、相次ぐVFX会社の倒産やアーティスト達の運動について触れてみたいと思います。
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ここ数年、世界各地でVFX会社が危機的状況に陥っていますが、中でも、カリフォルニアのVFX会社の状況は他国と比較しても悲惨です。去年9月に起こった大手デジタルドメインの倒産も記憶に新しいところですが、その他にも『ファイナルデスティネーション』や『シャッターアイランド』等のVFXを担当したCafe FX、『レッドクリフ』や『アイアンマン2』等のVFXを担当したOrphanage、『ベンジャミン・バトン』や『ターミネーター サルベージョン』等ののVFXを担当したAsylum Visual Effectsといったカリフォルニアに拠点を置く中規模のスタジオが閉鎖しています。
これら原因のひとつと言われているのが、カナダのバンクーバーやイギリスのロンドンで行われている税控除や、シンガポールや中国、インドといった安い労働力を確保出来る国へのプロジェクトの流出です。VFX会社への税控除とは、その国で発生する仕事の15~50パーセントを政府が補償するというもの。なので、この税控除を目的にカリフォルニアに本社を置く大手VFXスタジオが、バンクーバー等の対象国に支店を置きました。
しかし、中小規模のスタジオには海外に支店を作るような資金はありません。結果、カリフォルニアの中小規模のスタジオは、税控除ありきの安い価格で高いクオリティを提供してくる大手スタジオに入札で勝てなくなってしまいます。万が一、入札出来たとしても、それは次のプロジェクトで支払われる金をあてにした自転車操業状態でのこと。その為、スケジュールの遅れや、次のプロジェクトが開始されなかった場合等、少しのズレでスタジオが閉鎖に追い込まれる事になってしまうのです。リズム&ヒューズは大手ではありますが、助成金制度や世界的なVFXの価格の下落が原因で倒産に追い込まれたのだと考えられます。
そんな窮地に追い込まれているカリフォルニアのVFX業界の現状を多くの人に知ってもらおうと、アカデミー賞授賞式当日、会場であるコダックシアターから数ブロック離れた場所では、500人近いVFXアーティスト達が「I want a piece of the Pi too.(分け前をよこせ)」や「助成金制度を中止しろ」というスローガンを掲げてデモ行進を行いました。また、彼らの主張はネット上やデモだけに留まらず、オバマ大統領に「アメリカのVFXの仕事を助成金制度を行う他国に流出させないように」と署名運動にまで発展しています。
ホワイトハウス宛の署名は3月29日までに10万人分が必要で、現在、4000人余りが署名しています。必要人数が集まってホワイトハウスが動き出したとしても、仕事の流出や低価格競争に歯止めがかかるのはまだ先のことになるでしょう。
アーティスト達の叫びがこの業界の現状をかえる1歩となるのか、今後の動きが注目されます。
VES Calls for California to Expand Incentives via Variety
Visual Effects Artists Protest Near Oscars via Variety
Life of Pi special effects Oscar win bittersweet for Ottawa animator via Ottawa
UPDATE: VFX Oscar Protesters Grow To 400 As Pros Plead Their Case via Deadline Hollywood
(中川真知子)
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