最強のヒーロー映画『アベンジャーズ』の世界的大ヒットで、日本での知名度も上がっているアメコミ出版社「マーベル・エンターテイメント」。そのマーベル・エンターテイメントのシリーズで絵を描いている日本人女性がいることをご存知でしょうか? タケダサナさんは、『X-メン』、『ハルク』、『スパイダーマン』などで有名なマーベルの絵を数多く描き、この度リリースされたマーベル初のソーシャルゲーム『マーベル ウォー・オブ・ヒーローズ』に登場するキャラクターカードでも絵を担当している、日本在住のコミックアーティスト、イラストレーターです。 今回はそんなタケダさんに、マーベルの魅力、現場の裏側、そしてご自身のキャリアについてお話を伺いました。インタビューは以下より。
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――まず始めに、どういったきっかけでアメコミの業界に入ったんでしょうか? タケダサナ(以下:タ):昔セガにデザイナーとして在籍していて、任天堂とコラボしたソフト『F-ZERO GX』のキャラデザインを任された時に初めてアメコミを読みました。『F-ZERO』シリーズってちょっとアメコミっぽかったんですよね。今見ると全然違うんですけど(笑)。その時にすごいアメコミ好きの上司から次々と渡されて読んで、アメコミを知りました。 その後しばらくしてフリーランスになった頃、ちょうど「萌え系」が流行り始めたんですね。その時、私は居場所がないな...と思いまして(笑)。ならアメコミをやってみようと。マーベルには世界中からタレントを探す担当がいて、その方に作品を送ったら返事がきたというのが最初です。 ――萌え系とアメコミいうのは両極端という印象がありますが、今アメコミが日本でも浸透し始めているのは萌え系のカウンターという側面もあるんでしょうか? タ:だいぶ濃い目の絵が受け入れられるようになってきたなという感触はあります。 ――マーベルには日本のコンテンツに影響を受けた人が多くいるのでは? と感じているのですが、いかがですか? タ:マーベルに日本の漫画や特撮の影響を受けている人は多いですし、日本人が現場に増えてきているのもそうですが、インターネットの普及のおかげもあって、境目はどんどんなくなってきている気がします。ちょっとずつ混じったりしながらも、「日本だからこの絵柄」というのはなくなっていくのではないかと。 ――ご自身のキャリアに影響を与えた作品は何ですか?? タ:振り返ると、小学生の頃すごく好きで読んでいた『少年探偵・江戸川乱歩』シリーズ、90年代の少年ジャンプにはまず影響を受けたんじゃないかと思います。 最近ゲームは全くプレイしなくなってしまったんですが、10代の頃はカプコンさんの格闘ゲームが好きで『ストリートファイター2』などをプレイしてました。映画とかだとデヴィッド・リンチは好きなので、影響を受けたかもしれませんね。 ――失礼かもしれませんが、少年向けというか、男性が好きそうなものが多いですね。 タ:そうなっちゃいましたね。小さい頃も秘密基地とか作って遊んでたので、もしかしたら元から女の子っぽくないのかもしれません(笑)。絵に関しても、「いかつい男が描いてるのかと思った」とかよく言われます。 ――そういった絵を心がけているというわけではないんですか? タ:なるべく自分の好みは入れないようにしているんですね。どんな依頼がきても対応するにはそれが必要で、読者はどう見るかなということをまず考えて、描くようにしています。 ――アメコミは原作があって、キャラクターに50年といった伝統があるので、やはりそれを壊してはいけないという意識は強いんでしょうか? タ:変な話ですけど、いつも描きながら申し訳ないって思っているんですよね。常に「自分は壊してるかもしれない」っていう反省を持ちながら描いてます。伝統は本当に重いです...。 ――マーベルは映画を含め、人選にすごく気を使っている印象があります。今回の『マーベル ウォー・オブ・ヒーローズ』の絵柄に関しても、この絵が良いという判断でタケダさんが選ばれているのではないでしょうか? トニー・スターク役にはロバート・ダウニー・ジュニア、カードにはタケダさんと。 タ:そう言っていただけると今晩のご飯がおいしいです(笑)。 ――『マーベル ウォー・オブ・ヒーローズ』のために何枚か絵を描き下ろすにあたって、何か心がけたことはありますか? カードの絵柄なので、コミックやポスターの絵などとは感覚が違うのではないかと思ったのですが。 タ:やはり「キメ」というか、一枚でかっこいい、一枚で「ほしい」って思ってもらえるような、バシッと決まる絵を描かないといけなかったので、そこは意識しました。 正直言うと元々そういう絵を描くのは苦手だったんですけど、アメコミは話の流れの中で例えば、秘密基地に突入するシーンとか殴るシーンなどで、一枚絵で成立する「キメ」を求められることがけっこう多くて、マーベルと仕事する中で少し慣れてきたところはあります。それでもやっぱり難しかったですね。
タケダさんが描いた『マーベル ウォー・オブ・ヒーローズ』のサイロック
――『マーベル ウォー・オブ・ヒーローズ』をきっかけにマーベルの知名度が上がってほしいといった期待はありますか? 「私の絵で広まってくれたら」といった思いはありますか? タ:そんな私なんかがおこがましい...。でも私自身日本人なので、日本人が描いた絵なら日本人の方にもなじんでいただける...なじんでいただけたら嬉しいなあという思いはあります。 日本でアメコミを手に入れるのは難しくはなくなってきましたけど、アメコミの本自体が重厚で値段が高かったりして、なかなか手が出ないという人も多いと思うんですよね。それに対してこういったソーシャルゲームなら手軽に遊べるので、より多くの人に興味を持ってもらえるんじゃないかという期待はあります。 最近ようやく『アベンジャーズ』などの映画のおかげでキャラクターが知られてきたとは思うのですが、それでもアメコミそのものはあまり浸透していなくて、業界にいる身としては悲しいですよね。 ――タケダさんが個人的に好きなキャラクター、人気の出てほしいキャラクターは誰ですか? タ:好きなキャラクターと人気の出てほしいキャラクターが違うんですけど、一番好きなキャラクターはハルクです。そして人気の出てほしいキャラクター、これから浸透してほしいなと思うキャラクターはX-23(エックス・トゥウェンティスリー)です。私としては長めにたずさわったキャラクターなので思い入れがありますね。映画になったらいいなあと。 ――X-23はどういったキャラクターなんですか? タ:簡単な説明になりますが、ウルヴァリンのクローンである女の子で、手の甲から爪が出て、暴走すると殺人マシンになってしまう...というキャラクターです。この子はまだ自分自身の置きどころがわかっていないところがあって、そのために人との関わり方に悩んだりする姿が、私は素敵だなと感じています。
タケダさんが描いた『マーベル ウォー・オブ・ヒーローズ』のX-23
――X-メン自体、非常に関係性を考えさせられる作品ですが、このX-23もそういったキャラクターなのでしょうか? タ:そうですね。アメコミって一回ちょっと知ってしまうとけっこう重い話が多いですよね。見た目は派手なキャラクターが多いですが、裏にあるものが重いというか。非現実でありながら、現実の人間に密着しているような設定が面白いと思います。 ――能力自体も制御が難しかったり、不自由を強いられるものが多い印象があります。 タ:先ほどハルクが好きと言いましたが、ハルクはコミックを一本書かせていただいて、「かわいいな」と思ったのが最初に好きになったきっかけです。でも、そこからさらに好きになった理由が、今おっしゃっていた能力の制御がきいていないところなんですよね。 ハルクは本来は冷静でいたいけど、制御できずに暴走して能力が発動してしまう。でも、周りからより需要があるのは暴走している時のハルクで、そちらばかりが注目されてしまう...という人間らしさが好きです。 ――今後タケダさんは日本でアメコミを普及させるという意味でも活躍する機会が増えていくかと思うのですが、何か具体的な目標はありますか? タ:まずは「アメコミを知ってもらう」というところからですね。増えてきたとはいえ邦訳がまだまだ少ないので、何年も前から思っていることではあるんですけど、より増えていくような流れを作れたらと思います。 『アベンジャーズ』がまさにそうですけど、見せる媒体が変わっただけでこんなに伝わり方が違うんだ、ということに驚いたので、見せ方を工夫すれば広がるんじゃないかなと。 最近はパッと出てすぐに消えていってしまうエンターテインメントが多いので、それに対して浸透して残るという意味ではアメコミの40年、50年続いているというのは理想だと思うんですよね。そういった点からも、日本でもアメコミが浸透するように地味ながらも協力できたらと思います。 ――これまでにもアメコミが日本でも流行りそうで流行らない...という状況はあったと思うのですが、最近の人気の上昇を見るとようやく「伝統あるものは凄いんだぞ!」というのが伝わってきたんじゃないかなと感じますね。 タ:アメコミのいいところって、一人のキャラクターを知ると芋づる式に他のキャラクターにも興味がいくところですよね。世界観がつながっているからこその魅力というか。その楽しさがもっと伝わったらいいなと思います。 ――タケダさんの絵を見ても感じるのですが、伝統あるキャラクターがあまり古くならないのがすごいと思います。 タ:たぶん私の場合は常に時代遅れなんじゃないかと(笑)。流行っている絵とかをあまり追っていませんし。まあ追ったところで書けないんですけど...。萌え系が多い時代の中、最近になって少し濃い絵も取り入れてもらえるようになって嬉しいです。 ――濃い絵が好きなんですね? タ:描くと濃くなっちゃうんですよね(笑)。まだまだ主流は薄い絵かなあとは思う中で、濃いものを求めている人も増えていくはずだと、淡い期待は持っています。
タケダさんが描いた『マーベル ウォー・オブ・ヒーローズ』のミズ・マーベル
――今回の『マーベル ウォー・オブ・ヒーローズ』もそうですが、アメコミのコンテンツが増えていくとともに「アメコミの業界に入りたい!」というイラストレーターやアーティスト志望の方が今後増えていくと思います。そういった方々に何かアドバイスがあれば教えてください。 タ:アドバイスできる立場でもないんですが......。アメコミの現場で仕事するからといってアメコミの絵に寄せたりということは必要はないと思います。その人がしっかり考えて、良いと思ったものであれば日本でも海外でもどこでも通用するはずなので。 アメリカでやるからこうしたほうがいいというのはなくて、アメコミっぽい絵を描かなきゃということはせず、自分が良いと思ったものを頑張って書き続けることが一番いいかなとは思います。あとは続けることですね。地味ですけど(笑)。 ――アメコミの現場は細かい作業が得意な日本人向きという話も聞きますが、いかがでしょうか? タ:向いてると思います。アメコミは絵も細かいですし、文字も多いですよね。出来上がった時に文字が多くて「絵が隠れてる!」ってこともけっこうあって。出来上がってくるまでわからないんですよ、どこにどう文字が入るのかって。 ――絵の担当者が絵を描いて、その後に文字の担当者が文字を入れるんですよね? タ:基本的にすべて分業です。脚本がいて、ペンシル(鉛筆原稿を描く)がいて、インク(インク入れ)がいて、カラー(色づけ)がいて、レタラーっていう吹き出しや擬音を乗せる人がいます。 レタラーとは基本相談ができないんですよね。相談できる方もいるとは思うんですけど、私の場合は海を挟んでいるのでなかなかそういう相談もできないのが現状です。だからなんとなくここにセリフが入るんじゃないか? って予想しながら絵は描きます。 脚本は台詞つきとはいえ簡単な形で届くので、絵を書いている途中に脚本家がセリフを足したりすることもあるんですよね。実際出来上がったら当初の倍くらい台詞が入ってて、絵が隠れてるなんてこともあります。 ――読んでて「このコマ、不自然に顔が隠れてるな...」と思ったら、そういう事情があったと考えていいわけですか? タ:「コマのバランス変だなあ」とか思ったら大体そういうことです(笑)。 ――新しいアメコミの楽しみ方を知った気がします(笑)。 タ:出来上がりが予想できないというのは最初はストレスでしたね。たぶん私は絵を全部一人でやってる分マシなんですけど、ペンシルだけを担当している方は色つきの原稿がきた時に「えっこの色!?」って感じたりとか、言いたいことはたくさんあるだろうなと思います。ただ、モノの作り方としては正しいというか、映画とかと似ていて、みんなで協力して作ろうというのは良いですよね。 ――それこそが長い伝統が受け継がれている要因なのかもしれませんね。本日は貴重なお話をありがとうございました! タ:ありがとうございました。
タケダサナさんの描いたカードが見られる『マーベル ウォー・オブ・ヒーローズ』は、Mobageにてスマートフォン向けに配信中です。気になる方は、以下のギャラリーよりプレイ画面が何枚かご覧になれます。丁寧なチュートリアルがあるので、ソーシャルゲーム初心者の方でも簡単にプレイ可能です。タケダサナさんの描いたX-23を早くゲットしたいッ!
TM & (C) 2012 Marvel & Subs.
(C)DeNA Co., Ltd.
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Sana Takeda's art gallery
マーベル ウォー・オブ・ヒーローズ[ウォルト・ディズニー・ジャパン/DeNA] (スタナー松井)
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