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木野龍逸の「ニッポン・リークス」
                   2016/8/12(No.044)
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[目次]
1.東電福島第一原発事故トピック
【No.44】石棺騒動記──問題の先送りと責任回避の連鎖
2.メルマガ後記
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1.福島第一原発事故トピック
石棺騒動記──問題の先送りと責任回避の連鎖

<発端〜違和感>
 まるで「石棺狂走曲」のような騒ぎだった。

 原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)が7月13日に、中長期ロードマップを技術的に検証した「福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2016」(以下、戦略プラン2016)」を発表すると、200ページの報告書に1か所だけ出てくる「石棺」という文字がクローズアップされ、福島県知事、避難指示の出ている自治体の首長らから反発する発言が相次いだ。その反発に抗しきれずというか、所管官庁である経産省副大臣の発言もあって、NDFは20日に文言を修正。「石棺」の2文字は消えた。

 けれども、後述するように修正前後の文章を読み比べると、主旨が大きく変わっているわけではないことが読み取れる。つまり「石棺」という言葉の削除は、単なる言葉遊びに過ぎないのではないかと思うのである。だとしたら文字通り、首長や知事による削除要請や地元紙の取り上げ方は、「石棺」を巡る“から騒ぎ”だったことになる。なぜこのようなことになったのだろうか。

 考えられることのひとつは、問題を先送りすることによる責任回避だろう。思えば原子力行政はそのスタートから、廃棄物問題を先送りすることで成り立ってきた。

 では福島第一原発ではなんの問題があるのか。もちろん、原子力行政の最大のネックである、核廃棄物の最終処分場だ。取り出した燃料デブリをどこに持っていくのか、それ以外にも大量に発生する放射性廃棄物をどこに最終処分するのか。この課題の議論をしないまま、石棺とか廃炉などの最終的な姿が見えるわけもない。本質をはずしているのでは、やはりから騒ぎではないかと思ってしまう。

 ただ問題なのは、原発事故の場合は放射能汚染という明確な被害があり、それによる被害者がいることだ。問題を先送りして見せかけの解決を演出することで、ワリを食うのは被害者である住民だ。ただでさえ大きな負担を、後になって増大させることになりかねない。

 それだけではない。今回の騒動が今後の方針の決定時期や議論に影響を与える懸念が出てきてしまったように感じるのだ。いろいろな意味で、石棺騒動はマイナスの影響を残したといえそうなのである。

 石棺騒動の経緯を詳述してみたい。