ティム・バーナーズ=リーが世界初のWorld Wide Webサイトを開発した一九九一(平成三)年の夏休み、私は昨年同様、学研の大学受験指導センターの夏期講習を受けることになっていた。

今回は、札幌で世界史の講義を受けてから、帯広に十日間滞在する日程だった。

 ホテルは、父が予約した。一泊二万円程度のシングルルームだった。父はいつも予約時に加湿器と空気清浄機と電気スタンドの貸出しを頼んでくれていた。

夏期講習が行われる帯広と札幌の指導センターが入っているビルは、どちらも駅から近く、傍にはビジネスホテルがいくつもあった。しかし、父が選んでくれたのはシティホテルだった。ビジネスホテルは、高校生の娘を一週間以上宿泊させる宿として適さないと判断した理由を、父は縷々と説明した。

「一泊数千円の安いビジネスホテルに泊まる勤め人は、金券ショップで一円でも安く新幹線や飛行機のチケットを買って、チェーン店の定食を食べて、コンビニで酒とつまみを見繕って、ホテルの狭い部屋の小さなベッドの上で、テレビを見ながら飲み食いして寝てしまう。そういう男がうようよいる場所に、高校生の娘を一人で泊まらせるわけにはいかない」というのが父の意見だった。

私は一泊二万円のホテルに泊まることを疑問に思うことなく利用してきた。一年で延べ一カ月間泊まるホテルで、シティホテルのサービスを体感し、いかに快適に滞在できるか実践を重ねてきた。

ホテルでは常に一人だったから、誰に気兼ねすることなく自分が居心地好く過ごせるように工夫した。ハーブティーや紅茶のティーバッグを持参し、金時生姜の粉と祖母のお手製にんにく卵黄も忘れなかった。

顔用のクリニークと体用のクラランス、髪用には資生堂のばら園製品をスーツケースに詰めた。歯科医院で買った極細毛の歯ブラシとデンタルペースト、歯間ブラシとデンタルフロスとミントフレーバーのうがい薬をファスナー付きのビニールポーチに入れていた。

祖母が縫ってくれた巾着袋には、生理用ショーツとナプキン、清浄綿とプチシャワー・セペが入っている。

私はお手洗いで用を足した後に必ず、清浄綿で陰部を拭くのが習慣だった。初潮がきて陰部に毛が生えてきたのを見た祖母が、拭き方を教えてくれた。生理がくる前は一筋の線でしかなかった股間の割れ目が、大陰唇やら小陰唇が発達して花びらのように複雑な形になっていくのを、私は鏡を使ってよく観察していた。