●ナマ怪談の巻
[三角地帯の秘密]
話していいのかどうかわからないが、とりあえず10年以上経っているし、町並みもずいぶん変わったのでお話しすると、その当時、よくレンタルビデオを借りていた電気屋があった。もともとは純正の電気屋で、片手間でレンタルビデオを置きはじめ、しだいにそれが主体になったような店だった。
ある日、いつものようにビデオを選んでレジに持っていくと、店の主人が「こういうのは見ませんか?」と話しかけてきた。タイトルは忘れたが、あまり好みではない新作の洋画だった。せっかくなので借りてみたが、その日の主人はなぜかニコニコしていて機嫌がよかった。
主人と話したのはそれが初めてだった。よくいるまじめな電気屋の風情で、見た目は頑固親父だが、話すと愛想がいい。「また新作が入ったら確保しておきますよ」と言うのだが、あまり干渉してもらいたくもないので、「いやお気遣いなく」みたいなことを言って店を出た。
1週間後、借りたビデオを返しに行くと、店のシャッターが閉まっていた。年中無休のはずなので不審に思ったが、小さな張り紙に事情が書いてあった。主人が亡くなったので閉店します、という。実際にはもう少し詳しく書いてあったが、脳梗塞で倒れて急死したという。数日前に通りかかったときは店は開いていたので、本当に急だったのである。ビデオは返さなくていいということだった。
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