オンナのウラガワ ~名器大作戦~
第293回 夏といえばの怖い話・奇妙な話のウラガワ(2)
◆もくじ◆
・夏といえばの怖い話・奇妙な話のウラガワ(2)
・最近の志麻子さん
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・著者プロフィール
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夏といえば怪談。怖いのになぜかときめく怖い話。
前回にひきつづき、ハナから聞いた「ケンジ」の物語。
昭和末期生まれのハナは、子供のころ実家にケンジという奇妙な男が住み着いていた。
いつの間にかケンジはいなくなったのだが、
ハナが大人になり出会った男は、そっくりで名前も同じで……。
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2014年11月~19年12月のバックナンバーは、「月別アーカイブ」の欄からご覧ください。
2020年1月「愛しい南国の怖い話のウラガワ」
2月「ひきつづき東南アジアの怖い話のウラガワ」
3月「どこか心残りの別れのウラガワ」
4月「未経験な世の中のあれこれのウラガワ」
5月「「あの人実は」「あの人やっぱり」のウラガワ」
6月「アマビエ的なものや人のウラガワ」
7月「怖い話をエンタメとして楽しみたいウラガワ」
8月「どこか楽しめる怖い話のウラガワ」
9月「エンタメとして味わいたい人の怖さのウラガワ」
10月「いい大人なのに未経験のウラガワ」
11月「まだ猶予があるのかもという気分のウラガワ」
12月「私なりに引っかかる物事のウラガワ」
2021年1月「ゆるく共存していくことを考えさせられるウラガワ」
2月「いつの間にか入り込む怖いもののウラガワ」
3月「もはや共存するしかないあれこれのウラガワ」
4月「変わらぬもの、変わりゆくもののウラガワ」
5月「子どもっぽい大人、大人になっても子どもな人のウラガワ」
6月「ドライになり切れないウェットな物事のウラガワ」
7月「ホラーの夏なので怖い怪談実話なウラガワ」
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2013年7月~12月 名器手術のウラガワ/エロ界の“あきらめの悪さ”のウラガワ/エロとホラーと風俗嬢のウラガワ/風俗店のパーティーで聞いたウラガワ/エロ話のつもりが怖い話なウラガワ/風俗店の決起集会のウラガワ
2014年1月~10月 ベトナムはホーチミンでのウラガワ/ベトナムの愛人のウラガワ/永遠のつかの間のウラガワ ~韓国の夫、ベトナムの愛人~/浮気夫を追いかけて行ったソウルでのウラガワ/韓国の絶倫男とのウラガワ/ソウルの新愛人のウラガワ/風俗嬢の順位競争のウラガワ/夏本番! 怪談エピソードの数々のウラガワ/「大人の夏休みの日記」なウラガワ/その道のプロな男たちのウラガワ
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八月といえば真夏。夏といえば怪談。新型肺炎は怖いものではあるが、ときめきや情緒がない。無闇に怖がるだけでなく、戦って共存もしていかなきゃならんのだが。「本来の怖い話」も楽しみたい。というのが今月のテーマで、今回は前回の続きだ。
昭和末期生まれのハナは、幼い頃と十年くらい昔に、奇妙な男との思い出がある。
子どもの頃、実家に家族ではないケンジという奇妙な男が住み着いていた。ただ、納戸の中にいるだけの存在で、兄や姉も覚えているが、それはハナの記憶にある彼とは別人だ。
いつの間にかケンジはいなくなり、親はケンジなど最初からいなかったことにしている。
成長し、大学を出て人生に迷走していたハナは、ダイビングのインストラクターとして南国に渡る決意をする。その船の中で、バックパッカーの青年と出会う。彼は思い出の中のケンジそっくりで、名前もケンジだった。
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ハナも思い切ったことはしたものの、元は田舎の保守的な家のお嬢さんだ。
「やっぱり実家に戻って地元で就職して結婚という、親も安心の堅実な生き方をするべきかと葛藤、迷いはありました。
そこに現れたケンジは、共感しあえるものがありました。高学歴で地位もある親兄弟に劣等感もあって、私はそれはなかったから、彼の方がさらに生きるのがきつかったかな」
ハナは先に、南国では本島と呼ばれる最大の街に降り立った。ケンジは最西端の離島を経由して台湾に渡り、さらに大陸を目指すといった。その先はヨーロッパだとも。
「宿舎も居心地よくて、仕事は滑り出し好調でした。最初の一週間くらいは新生活に無我夢中で、ケンジとメールのやり取りもしましたが、そこまで密にはならなかった。納戸にいたケンジも、船の中で会ったケンジも、同じくらい遠ざかってました」
ケンジも、旅費を使い果たして現地で日雇いバイトをしてるとか、浜辺でテントを張ったとか、悲壮にでもふざけてでもなく、淡々としたメールを送ってくるだけだった。
そして初めて二日の休日をもらえることになったとき、なんとなく互いに会おうよとなった。ハナが空港から一時間半かけ、ケンジのいる最西端の島に飛んだ。
「ケンジの顔を見た瞬間、心底からなつかしくて。でもそれは、やっぱりうちに昔いたケンジとは違う、新しい今のケンジに対するなつかしさだったんです」
その夜、安い民宿の同じ部屋に泊まり、ゆるゆるとした優しい流れで恋人同士になった。それからハナは、休みごとにケンジのいる最西端の島に行くようになった。
ケンジは世界一周を早々に断念し、こちらに定住していずれ何か商売をやりたい、みたいなことをいいだした。日雇いのバイトから、何か月かの契約で民宿の手伝いや酒屋の配送をするようになり、いつの間にか空き家を格安で買い取っていた。
ほぼ廃墟だった掘っ立て小屋を、ケンジなりに修繕し改装し、質素だけれど居心地のいい住処にしていた。ケンジは気難しいところもあったが、ハナには優しかった。
それでも、家にいたケンジの話はしなかった。もしかしたらあれは記憶の混濁や改竄といったもので、このケンジと出会った瞬間に脳味噌がバグを起こしたのではないか。
過去にもケンジと会っていた、昔うちにケンジがいた、みたいな偽の記憶が作られてしまったんじゃないか。そんな気がしてきていたのだ。そもそも同一人物とするなら、ケンジはまったく歳を取ってないことになる。
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