岩井志麻子「オンナのウラガワ ~名器大作戦~」

第199回 去年に縁があったあれこれのウラガワ(1)

2019/01/05 21:15 投稿

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オンナのウラガワ ~名器大作戦~
第199回 去年に縁があったあれこれのウラガワ(1)


◆もくじ◆

・去年に縁があったあれこれのウラガワ(1)

・最近の志麻子さん 
 1月に『シマコの週刊!?宝石 』光文社文庫より発売
 TV「有吉反省会」にヒョウ姿でひきつづき出演中
 「岩井志麻子のおんな欲」連載中
 カドカワ・ミニッツブック版「オンナのウラガワ」配信中
 MXTV「5時に夢中!」レギュラー出演中

・著者プロフィール

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謹賀新年。新たな年もどうぞよろしくお願いいたします。

故事に習うのも、よりよい未来につながる……とのことで、今月は去年のあれこれを振り返ってみます。
去年のまだ暑さが残る時期、あるイベントで主催者に「地元の友達」という男性を紹介された岩井さん。
彼には、十年以上刑務所に服役した過去があるという。罪状は、傷害致死。
刑務所内での話などをいろいろ聞いて考えたのは……。


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2017年1月「自分を重ねてしまう若者たちのウラガワ
2月「冬に聞いた奇妙な怪談のウラガワ
3月「春のさなかに聞いた怖い話のウラガワ
4月「木の芽時な人達のウラガワ
5月「五月だけどさわやかになれない人たちのウラガワ
6月「面識なしでも喜怒哀楽を喚起する人々のウラガワ
7月「ほんのり怖い人達のウラガワ
8月「真夏なのに秋の予感な有名人たちのウラガワ
9月「私が見たテレビの中の人のウラガワ
10月「大人だけど枯れるには早い人たちのウラガワ
11月「年下韓国人夫とのアジア旅のウラガワ
12月「捨ててもいいじゃないかのウラガワ
2018年1月「命や生きることについて考えたウラガワ
2月「人はなかなか変わらないのウラガワ
3月「きれいに卒業できない女たちのウラガワ
4月「新たな出会いの不気味なウラガワ
5月「良い季節でも人は病むウラガワ
6月「『有名な男の女』だった二人のウラガワ
7月「怪談の季節! ゾッとする実話なウラガワ
8月「嘘と本当のあわいの怖い話のウラガワ
9月「大人になりきれない人達のウラガワ
10月「ベトナム旅行チン道中のウラガワ
11月「しみじみしんみりな出来事のウラガワ
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2014年1月~10月 ベトナムはホーチミンでのウラガワ/ベトナムの愛人のウラガワ/永遠のつかの間のウラガワ ~韓国の夫、ベトナムの愛人~/浮気夫を追いかけて行ったソウルでのウラガワ/韓国の絶倫男とのウラガワ​/ソウルの新愛人のウラガワ​/風俗嬢の順位競争のウラガワ​/夏本番! 怪談エピソードの数々のウラガワ​/「大人の夏休みの日記」なウラガワ​/その道のプロな男たちのウラガワ​

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 謹賀新年。新たな年の幕開け。来年の事をいえば鬼が笑う、という諺がある。
 将来のことなど予測がつかないのに、あれこれいってもどうにもならない。のんきに夢みたいな未来の話などしていれば、鬼にも笑われる。といった意味合いだ。

 では、予測のつかない未来と違い、もう確定してしまった過去のことをあれこれいうのはどうか。去年のことをいえば、鬼ではない別の何者かが笑ったりするのか。
 過ぎてしまったことは仕方ない。いつまでも昔のことに囚われていては、それこそ明るい未来にまっすぐ進めない。それは、本当だ。
 とはいうものの過去を反省する、故事に習うのも、よりよい未来につながるのも確かだ。

 そんなこんなで今月は、去年のあれこれを振り返ってみる。全編に渡って登場人物はすべて仮名、背景などにも手を加えてあるのを先にお断りしておくのも、去年と同じだ。

                   ※

 あれは去年の、まだ暑さの残る時期だった。ある地方のイベントにゲストで呼ばれたとき、主催者に「地元の友達」だという同世代の男性を紹介された。
 雨崎と名乗る彼は大柄だけれど威圧感はなく、大人しい巨大な草食動物を思わせた。穏やかな物腰としゃべり方で、服装も持ち物もごく普通だった。

 しかし彼には、刑務所に十年以上も服役した過去があった。
 本人ではなく、先に主催者から聞いた。罪状は傷害致死。

「ここんとこ、重要ですよ。雨崎は殺す気はなかった。集団で敵対する不良グループと乱闘になって、気がついたら相手側が一人死んでたんです。
 雨崎はあくまでも半グレ。街の不良グループの一員で、暴力団の組員ではなかった」
 主催者はさかんに、雨崎はヤクザでも殺人者でもないと強調した。それは、事実だ。正式にナントカ組に所属したことはなく、罪状も殺人ではなく傷害致死。

 不良同士のケンカ。とはいうものの、まさに堅気の人々から見れば半グレもヤクザみたいなもんだし、相手を死なせているなら殺人と見てしまうのは仕方ない。
 私も世間からはあまり真面目な良い人とは思われてないが、それでも基本は普通のオバサン。雨崎は元ヤクザの殺人者、と私の中のデータベースにはインプットされた。

 それでもけっこう真剣に考え、迷った。ばりばりの殺意満々の殺人はおいといて、傷害致死と殺人未遂は、どっちをやった人がより恐ろしいのか。
 もし私が刑務所に入ることになったとして、同じ房にどちらが居た方が怖いか。
 前者は相手を死なせているが、殺意はなかった。後者は相手は死ななかったが、殺す気
満々だったわけだ。後者の方が怖いか、やっぱり。

 さらに想像を進めれば、私の人生にどっちがあり得るかといえば、前者だ。いくらなん
でも、どんなに憎い奴がいても、殺す、という選択肢はない。
 でも、襲われて夢中で抵抗もしくはやけくそで反撃したら、やりすぎてあっちが思いが
けず命を落としてしまったとか、それはあるかもしれない。

 ともあれ雨崎は過去については、イキッて武勇伝にするのでもなく、悪ぶって私を威嚇するのでもなく、逆に更生した良い人に見せようと御立派なことをいったり、変なサービス精神を発揮したりもしなかった。

「ぼくはヤクザじゃないけど、今もそっちの友達もいることはいるんですよ。最近の若い奴らはみんなツイッターが大好きで、ツイッターでケンカしまくってるって。あともちろん、ゲームも大好き。基本、組事務所って待機ばっかりで暇だから。
 そんなこんなで、若い奴らはリアルのケンカはしなくなってるんです」
 といった、それこそ妙にリアルな苦笑がもれるような話をぽつぽつとしてくれるだけだった。だから私も、さすがに傷害致死事件については突っ込めなかったが、刑務所ってどんな感じでしたか、とは聞けた。

「とにかく、暇なんですよ。作業もあるしいろいろ規則で縛られてるけど、何もしない時間もある。シャバにいたらいろいろと娯楽も暇つぶしもあるけど、刑務所だと同房の奴としゃべるか、あとは本読むくらい。
 だから、チン×に真珠入れしちゃう。見つかったら処罰されるけど、やる奴は後を絶たない。あれってほんと、暇だからやるんですよ」
 

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