一方で、新たなテクノロジーを活用したビジネスの出現により、Netflixがビデオレンタル業界を、Uberがタクシー業界を侵略した様に、既存のプロダクトやサービスが短時間で消滅する可能性も少なくは無い。2015年は下記のトレンドに見られるような、新たなテクノロジーを活用した産業の出現と、既存サービスへの影響、そして消費者への新たな価値提供が注目される。
1. 自撮りツールが進化
スマホの普及により、自分で自分(たち)の写真を撮る”自撮り”がアメリカでも大人気である。英語ではSelfie (セルフィー)という呼ばれ方をされ、Oxford辞典にも正式に登録された。一方で、人間の腕の長さだけではアングルや構図が限定されるため、専用の棒やリモートスイッチ等の専用アイテムが人気を集めている。最近では空飛ぶGoProとも呼ばれるNixxieが発表したでバイルを利用すれば、自分の姿を飛行カメラで撮る事が可能になり、この領域は今年も新たなビジネスチャンスが潜んでいると思われる。
2. ソーシャルメディアの変革
「アメリカの10代に流行るアプリとは? ヒットするサービスは常に若者ユーザーから」でも紹介した通り、最近は若者を中心にFacebookやTwitterなどの既存のプレイヤーから、SnapChatやWhatsappなどのパーソナルメッセージングサービスの人気が拡大している。これは、プライバシーに関する考慮から、より限られた特定の人達だけに一時的なメッセージングを行う需要が高まっている思われる。また、日本国内でLINEが急成長を遂げた様に、世界レベルでもソーシャルメディアにおけるモバイル中心の利用シーンがより高まると考えられている。
3. コネクテットプラットフォームの市場拡大
モノのインターネットと呼ばれるIoT関連のサービスを中心に、より多くのデバイスがインターネットに接続する。ウェアラブルデバイスや、コネクテッドカー、スマートホーム等、日常生活のあらゆる側面での普及が進むだろう。2015年の末までには、世界中で50億個のIoTデバイスが普及する見込みで、去年と比べると30%の上昇。ユーザーからの注目レベルも急激に上がっており、Googleから発表されたデータによると、2013年の12月から比べるとこの一年でIoT関連の検索数が2.5倍、ウェアラブルに関する検索が3倍にアップした。
それにより、これまでには考えられなかったタイプのサービスが提供され、ユーザーの生活に大きな価値を提供し始めている。世界に先駆けてアメリカ西海岸では、地元のスタートアップが中心となって、コネクテット・デバイス関連の製品が多く発表され、それに伴いプラットフォームの充実の重要性が叫ばれている。実際、2014年一年間だけでも、合計で160万時間分のコネクテッドカープラットフォームに関する動画がYouTubeにて視聴されている。
4. スマホのコントロールデバイス化
IoTを中心とした新たなデバイスの出現により、スマホでコントロール可能な範囲が格段に広がる。今まではメールやアプリ、SNS等の利用が主であったスマホも、これからは家やオフィス、車等の身の回りのデバイスをBluetoothやクラウドを経由して自由自在にコントロールする為のリモコン的な利用方法が進む。
5. 長持ちバッテリーと非接触充電
日常生活の様々な側面においてスマホの重要性が高まるにつれて、バッテリーの減りの早さに悩んでるユーザーも少なくは無い。対して製造メーカーはより長持ちするバッテリーと、気軽に充電出来る非接触型充電デバイスの開発を急ピッチで進めている。米国Applied Materisls社はより長持ちし、製造コストの低いバッテリーの開発を進めているとされ、2015年中には発表される可能性が高まっている。一方で、非接触型充電機器の普及を進んでおり、今後はより多くのデバイスが、ケーブルを繋がなくても充電が可能になる。
6. ハードウェアにおける中国の重要性
Fitbitやnestなど、アメリカ西海岸を中心としたハードウェア系スタートアップの多くは企画、デザイン、プロトタイピングまでを地元で行い、製造部分を中国の工場に発注する、いわゆるDesigned in California, Made in Chinaのしくみとっている。これは以前よりApple社も行っていた方法で、最新のテクノロジーと、市場の需要にマッチしたアイディア、卓説したデザインをコストを抑えた方法で大量生産する為に最適なしくみである。一方で、中国国内でも、深セン市を中心として商業デザイナーやデザイン会社が増えており、今後中国国内だけでも世界に普及するプロダクトの製造が可能になるかもしれない。
7. それぞれのユーザーに合わせたパーソナルサービスの拡大
アメリカ国内の平均的なユーザーはテレビやパソコンよりもスマホを操作している時間の方が多く、合計で平均一日151分の時間をスマホ操作に費やしている。また、Google検索の5分の1がロケーションに関する内容で、2011年と比べてみても5倍の数のユーザーが自分自身の周りの情報を探している。加えて去年だけでもパーソナルヘルス関連のアプリに関する検索数が12倍にアップした。ビジネス的に考えても、ユーザー個人に関連するデータを活用する事により、企業は消費者に対してよりパーソナルなサービスの提供が可能になってくる。同時にIoT関連の製品を利用が進めば、より一層それぞれのユーザー毎に最適なコンテンツやサービスが届けられる様になるだろう。
8. 全てがオンデマンドの方向性に
AirbnbやUberなどのシェアリングエコノミーサービスを中心に、多くのサービスが利用者に対して、「必要なときに必要な分だけ」いわゆるオンデマンド型サービス提供に人気が集まっている。この傾向は2015年もより一層加速すると予想され、フード系やお手伝い系、そしてカスタマーサポートに至るまで、個人・法人に関わらず、所有せずに必要な時にだけ「借りる」タイプのサービスモデルが今後主流になっていくだろう。
9. オンライン動画の多様化
YouTubeに加え、VineやInstagream Videoなどのマイクロ動画サービス等、オンライン動画サービスがブランドのマーケティングチャンネルとしてのポジションを確立し始めている。実にネットユーザーの78%が週に1回以上オンライン動画を視聴し、ユーザー全体での1ヶ月の合計視聴回数は実に132億回、85%の視聴者が動画を見た後の方が商品の購入に積極的だというデータも出ている。また、動画を掲載したサイトはそうでないものよりも53倍も検索結果に表示されやすい。 アメリカの若者ユーザーに多くが、映画やテレビに出演している有名人よりも、オンライン動画で人気がある人々の影響力が大きいと感じており、Online Celebritiesと呼ばれる人達の企業のプロモーション向け動画への出演依頼も増えている。
10. 空飛ぶDroneの普及拡大
無人飛行機「ドローン」関連のサービスが登場し、モノや情報は陸から空へと移り始めるであろう。アマゾンが昨年末、「Amazon Prime Air」という商業用小型無人飛行機による宅配サービスを2015年から始めると発表したのは記憶に新しい。ドローンのメリットとしては、今までコスト、または配達ルートの都合上即日配達を見送っていた地域に低コストかつ迅速に商品を配達できるという点にある。また、人の手が届かない所からの撮影に際してもドローンは威力を発揮するだろう。
一般ユーザーレベルでの興味も急激に高まっており、2014年11月だけでも、YouTubeにアップされたドローンに関係する動画が、合計で80万時間再生されている。
商業化への問題は技術的なものより法整備上によるものである。アメリカ国内では無人飛行機の利用が認められているのは警察や消防及び政府機関などの公共サービスに限られており、一般のビジネス向けの利用は未だ禁止されている。ビジネス向けに法律が制定されるのは早くても2015年の後半と予測されている。
未だ無人飛行機市場は解禁されていないが、2025年までに市場規模は8兆円を超えることが試算されており、今後多くの企業がこの分野に進出するのは必至であろう。先ほど紹介したアマゾンがドローンの導入を検討していることから、同業他社である大手Eコマース企業の参入も十分に考えられる。また、ドローンを利用した新たなWifi環境整備も行われるであろう。いづれにしても、本格的な無人飛行機市場が解禁されるのが2015年からと予測出来ることから、解禁前の今年度から無人飛行機ビジネスに関する多くのニュースが伝えられると思われる。
11. ビッグデータの活用シーンの拡大
異なるタイプの新たなハードウェアの登場と共に、ビッグデータの種類も増加し、その需要も加速するであろう。昨年、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが乳がん予防のために乳房を切除したというニュースが紙面を賑わせたが、これも医療向けに使われたビックデータによるものである。
現在、スマートフォンやタブレット端末などのモバイル系を中心にデータが蓄積され、それがビジネス向けに売買されるというモデルが増えて来ている。今後、ウェアラブル端末が増えてくれば、これまでのモバイル端末からのビッグデータとはまた違った形で得られた情報のやり取りも増えてくるだろう。
ここで注目すべき点はプライバシーに対しての問題である。異に日本は個人情報、プライバシーに対しての障壁は欧米と比べて高い。欧米は比較的自由にビックデータを扱う事ができ、問題が起きたら対処するという形式が一般的である。そのため、それたを扱う企業にとっては参入障壁は低いと言えよう。一方、日本ではビッグデータを集められること自体がタブー視されている傾向にある。2017年には世界のビッグデータ関連市場規模は4兆円以上に達すると見込まれており、このような日本の文化的障壁は、日本のビッグデータ市場参入に遅れを生じさせることになりかねない。
日本がビッグデータ市場において遅れを取る可能性があるが、世界的には急成長している分野であるため、データの可視化など、今後ビジネスチャンスが多く出てくるのは必然であろう。また、データサイエンティストなどの分析を専門とする人材に対しての需要も増えるため、ウェアラブル端末を通じてどうやってビッグデータが使われるのかという点と同時に、人材の需要に対しても注目していきたい。
12. ロボットテクノロジーが身近な存在に
様々な産業においてついにロボットの普及がどんどん高まり始めている。ターミネーターやC-3POほどのレベルに達するにはしばし時間がかかるが、「もう人は必要ない!? 海外で流行しつつある物流のトレンド」の記事でも紹介した様に、ロボットの商業的利用価値はかなり高い。また、個人ユーザーにもパーソナルなサービスを提供するロボットもどんどん増えており、掃除機のルンバやペッパー君の様に、日常生活においても人間に取って代わるシーンが増えるだろう。
13. ユーザーの主流はミレニアル世代とジェネレーションZ
ミレニアル世代 (80年代から2000年代前半に生まれ) の下に潜んでいた現在18才以下の新たな世代、ジェネレーションZが台頭してきている。実はミレニアル世代とジェネレーションZを合わせると既にアメリカの全人口の半分以上。アメリカでサービスを成功させるためには若者ユーザーが大きな鍵となる。
ジェネレーションZの特徴はテクノロジーが発展した環境が彼らにとって自然であること。例えば、大学の宿題はYouTubeなどのソーシャルメディアを用いてリサーチを行うこと、テレビ、モバイル、ラップトップ、ディスクトップといった様々なスクリーンデバイスに毎日触れている事こと、情報処理速度が早いがメンタル面のチャレンジに弱いこと、映画館一つとっても3Dではなく4Dの時代が彼らにとって普通であることなど、興味深い特徴があげられる。テクノロジーに既に深く精通している若者の好奇心に、新たなテクノロジーが火を付けて行くだろう。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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