対談場所: btraxオフィス (サンフランシスコ市内)
インタビュアー: 日比谷すみれ
- 日本とアメリカのプロダクトやデザインの違い
- 教育—答えを求めるのか、何を作り出すのか
- デザイナーとは一体?
- デザインと向き合うことの大切さと辛さ
- 今後の道—良いデザインがもっと世の中に広まるために
—1.日本とアメリカのプロダクトやデザインの違い—
上杉周作氏 (以下SU) 以前見たSF Japan Nightよりも更にレベルが上がっていると感じましたが、捨てきれていない・削れきれていないという点でプロダクトが甘い物が多かったように感じました。見て「えっ!」って思う物がない。
Brandon K Hill (以下BH) 日本のやつって、既存の「改良版」なのに対して、アメリカでは全く無い物が出てくるよね。「えっ、うそ!」ていうマーケット、コンセプト、プロダクト。今の時代でもそういった何も無いエリアって、まだユーザー自身が気付いていないけど絶対ある。
SU) Hacker NewsというHacker向け情報サイトから週に一度メールが届くんですけど、Recently Launchedというコーナーが好きで。その週にローンチされたサービスが5、6つ出てくるんだけど、半分くらいはジョーク。(笑)だけど時々すごいのが出てくるんですよね。こんなの考えたことなかった、っていう。
BH) でもね、日本の良さって超あって。例えばデザインだと、プロダクトパッケージが本当に洗練されている。僕が日本でまずやることって、コンビニとかでドリンクのコーナーをずっと見るの。毎回行くたびにかなりおしゃれでかっこいいボトルのデザインが見れるから。完全不審者なんだけどさ。(笑)パッケージの仕事って売ること、つまり手に持たせてレジにに持っていかせることでしょ。だから、消費者が良いデザインを決める。デザインの質はそれに引っ張られる場合が多い。
実はアメリカの消費者って全体的に見るとセンス良くないんだけど、日本人の消費者ってセンス良いと思う。そんな日本人にウケるパッケージってかっこよくておしゃれ。変なこともしてるしよく分かんないのもあるけどすっごい素敵なの。こういうのが消費者にacceptされるのって素晴らしいと思って。デザイナーとしても仕事やりがいがある。アメリカだととりあえず原色で派手に作れば良いんだよ、それがマスで売れるから、てね。(笑)でもその一方で、アメリカのプロダクトやサービスは奇抜でユニークでイノベーションがあるものも多いと思う。0を1にするのが得意で、日本は上手に1を100にするよね。
—2.教育、答えを求めるのか、何かを作り出すのか—
【その日米のプロダクトやデザインの質の違いはどこから生まれてくるのでしょうか。】
BH) それは教育。日本の教育では、まず答えがあってどれだけその答えにたどり着くか。アメリカでは何も無いところに物を作り出して行くことが評価される。だからクリエイティブな人材が育ちやすいと思う。日本だと選択式の設問が多いけど、アメリカは自由回答が多い。
SU) 多くの数学者に共通することって、シンプルだけど美しく力強いものを求めることなんです。例えば、有名なオイラーの 式、eiπ + 1 = 0。この1つのシンプルな式に数学の一番大切なものが入ってるんです。大学で数学をやっているとものすごく難しい問題で答えが10行にもなるのもあるんだけど、一番ベストな答えは2行で答えることができます。数学できる人ってオイラーの定理だったりそういうのが好き。
こっちのサービスを見てても同じで、例えばtwitterとアメブロって両方とも自分を発信するっていうプラットフォーム。だけど、twitterは140字でやってるのにたいして、アメブロはたくさんの機能がどんどん追加されていきますよね。twitterはまるで「eiπ + 1 = 0」。ものすごいシンプルだけどその中でいかに最大限の効果を出せるか考えられています。
BH) それ何かっていうと、日本的考えが n+n なのに対してアメリカ的考えは n×n 。日本の場合だと、最初からどんどん足して行くことを良いとされるけど、アメリカのデザインやプロダクトって入り口がすごくフォーカスされていて、細くて小さい。そこに何かを入れるとばああーって一気に広がって行く。そのエフィシェンシーってすごいよね。ビジネスでもデザインでもそういった「レバレッジを効かせる」ということが考えられていて感心する。 アメリカではちょっと石を置いただけで大きい物がぽーんて上がるようになっているのに対して、日本ではみんなで頑張って大きい物を上げようとしている、っていうのかな。一回ステップバックして、どこにてこを置いたら一番簡単に石が上がるかな?っていうのを考えなきゃダメかも。
例えばアメリカのスタートアップなんかはバイラルマーケティングが非常に上手で、1人のユーザーを獲得したと同時にサービスが何100人にも広がる仕組みを作ってる。シリコンバレー周辺では、皆最小の労力で最大の結果を出す事を狙ってる。多くの人がどうやったらビーチで仕事が出来るかを真剣に考えていたりするしね。
SU) それに関連する事だと、The Visual Display of Quantitative Information(Edward R. Tufte )という本を日本のデザイナーに読んでほしくて。一番俺が重要だと思ったのは、『インクの量を最小化して、情報を最大化しろ。』という言葉。彼はデータ量を使ったインクで割る「date/ink」 という言葉を作ったんですけど、Quoraも10px×10px、色も灰色のアイコンでいかにインク量を少なくして表現しようとするか、そこから全てが始まっています。
もう1つ、日本とアメリカで象徴的な違いがあって、アメリカでは小学校で作文を書くときwordで書かせます。けど日本は作文用紙を使いますよね。2つの大きな違いって作文用紙は直すコストがwordよりもかなり大きい。ただ文字を消すだけならいいけど、段落の順番を変えるとかすごい労働量ですよね。ワードだったらただコピー&ペースト。それだけのインセンティブの違いだけど、効率を高めてる分、アメリカではその「再構成の回数」が日本のよりも10倍くらい多いんです。そのことによって構成を努力する力が身に付いたと思ってます。
BH) この間ちょうどオフィスで「アメリカ人はなんでシャーペンの良さが分からないんですか?」って話があったんだけど、これもまさに象徴的なことだよね。アメリカではそもそも消しゴム全然使わないから、書いた後に直すっていうコンセプトが無い。シリコンバレーでもなんでもそうだけど、作ってとりあえずリリースする。消しゴム、ないんだよね。この国。(笑)だけど日本人は直して直して、完璧になるまでなかなか出さない。ダメだったら破って次に進めばいいんだよ。
【アメリカの大学教育で学んだこととは?】
BH) 僕はサンフランシスコの大学のデザイン科にいたんだけど、すごく厳しかった。プロのデザイナーになるのはかなり大変で、デザインを学んだ人でも社会で通用するデザイナーになれるのは10%もいないから、学校の時点でふるいにかけられる。確かにそういう点では、親切だとも言えるのかな。クラスが厳しくて、デザインのプレゼンの際なんかには、みんながいる前で先生から普通に「お前デザイナー辞めろよ」みたいに言われるの。その先生も現役のデザイナーだったりするので、説得力があるよね。
SU) 俺もある現役デザイナーのクラスでスケッチ1000枚書いてこい、って言われて最後のほうは間に合わなかった。(笑)それと、ある授業の課題を何も考えずにやってしまったことがあって、みんな画鋲で持って来た物を前に貼るんですけど貼れなくて。先生に「お前のどこいった?」って聞かれたんですけど「いや、どこいったんでしょうね。」って。その後めちゃくちゃ落ち込んで、先生に「出せませんでした。」ってメールして「じゃぁ明日までにもってこい」って言われてその日やって・・・ってすっごい恥かいた経験があります。
アメリカの大学の授業って授業がトラウマになる人もたくさんいるくらい。生徒がすごいまじめなのもそうだし、そのクラスを作った人や今教えている人がよく考えた結果。毎年毎年教えられて行くことに改良が加えられて行く。日本の大学でそういうことをやろうとしても時間がかかってしまうと思います。ある意味アメリカの大学は教える方も真剣勝負だと思います。
【ではもし上杉さんとBrandonさんが日本の大学生だったとしたら?】
SU) いや無理ですね。精神的に。多分遊んでました。俺まわりに合わせようと生きているから。(笑)こっちだとみんな勉強してるからそれに合わせてればいいんですけどね。
BH) 日本の場合、入学時に学部を決めると思うんだけど、まず自分が入りたい学部が無い!(笑)無理矢理興味の無い学部に入ったとしても、続かないかな。辞めなくてもだらだら走ってアウトプット0かもしれない。ある時btraxにインターンに来たやつですごく優秀なやつがいて、そいつに「お前の大学すごいんだね」って聞いたら「大学関係ないっすよ、大学行ってないっすもん。」つまりそれは大学で身に付けたことじゃないって。日本の大学って魅力ないのかなと思った。
あと、そもそも東京は誘惑が多すぎる。主要な大学が都内にあるので、集中できなくて辛いことをやっていたくなくなる。アメリカってこの辺(サンフランシスコ)の大学の立地も超田舎だから。日本の大学の立地はありえないとおもう。あれだと学生にとっては拷問だよね。
SU) それはありますね。僕もこの間5週間日本にいてこっちに戻って来てびっくりしました。逆に僕が通った大学(カーネギーメロン大学)のあったピッツバーグは鉄鋼業で栄えた街で今は凄く廃れてしまった街だったから、今はもうお金もないし冬は寒いし。でも逆に勉強に集中できました。
大学ではコンピューターサイエンスを勉強していて、そのときに大学時代にダメダメダメダメ、ってダメ出しされるのに慣れたのが良かったなって。ある数学のクラスで一年間ずっと難しい定理を証明することばっかやらされて。1ページくらいの証明を書いて提出するんですけど、「いやここが甘くてダメだ」って何度も戻される。けどそのクラス自体、週30時間勉強しないと成績が取れない上、そのクラス以外の勉強もあわせると週70時間くらい勉強しないと単位が取れない。そのくらいの厳しいレベルでやっていたのが今すごく役に立ってます。
というのも、ダメだと言われたときに、自分がダメだったんじゃなくて、自分の努力が足りなかったり考えが甘かったことを指摘してくれたと自動的に捉えること。そういう前向きな姿勢を学ぶことができたんです。(これは理系に限った話じゃなくて)俺は大学で数学やったけど、アメリカでは文系の人でも小論文をすごい書かされて、「ダメだ」って何回も直されるんです。そういったことが高等教育でカバーされてたのが良かったかなって思ってます。
BH) 確かに、アメリカの大学を出た人って瞬間のフォーカス力がすごい。追いつめられる訓練を何度も何度もさせられるから。あり得ないぐらいの短い時間でのアウトプットを求められるから、常に気が抜けない。 SU) そうですね、日本もそういうの受験勉強でやってるはずなんですけど、多分アウトプットの形が違う。 BH) 受験勉強でフォーカスされるのは記憶力と耐久性。要するにマラソン。アメリカって短期勝負型で、スプリント、スプリント、スプリント。集中の質が違うよね。
SU) 日本人には是非一年間難しいプログラムでアメリカの大学に留学してほしいです。語学留学ではなくて・・・。そうすればこのあとはこうすればいい、というのが分かるから。
—3.デザイナーとは一体?—
【では「良いデザイナー」って一体何なんでしょうか?】
SU) まず自分の媒体を知っていなければいけないっていうのがあります。例えば、Webデザイナーに基本的にiPhoneのデザインをやらせてはいけないんですよ。どれくらい余白をとるかがWebとiPhoneでは全然違うから。とりあえず自分が手を動かすヤツをしっていないければいけない。あと色々あるけど、問題解決ができるかどうかも重要。
BH) 僕の場合はデザイナーを採用する立場から言わせてもらうと、媒体やスタイルを問わずデザインに関してのベーシックが全て出来ていて、プラス誰にも負けないような得意分野が1つぽーんとあるって人。
SU) 逆Tの字ですね。
BH)(そのTの字の)横が無くて縦だけの人は絶対ダメ。得意分野が一つだけあっても、ベーシックが出来ていないデザイナーは長持ちしないと思う。実は、「デザインができる」っていう表現自体がすごく難しくて、「作れる」ことの手前に、デザイナー的考えをするっていうのがある。みんな作ることばっか考えちゃうんだけど、作る前に解決するべき問題をどういう風に受け取って処理するか。そこ処理出来るか出来ないかで勝負決まっちゃうから。
だけど、「問題をどう処理するか=デザイナー的考え」と同時に「モノに命を吹き込む行為」であるデザインの側面もすごく面白い。例えば、ただの石はそのままだったら拾ってもすぐに捨てるけど、それに仏様の彫刻を施してあったら捨てないでしょ?同じ物がデザインを施されることによってその価値を生み出される。問題を解決した訳じゃなくても、良いデザインは人の気持ちを引っ張ることができる。そして悪いデザインのものは存在する時間が短いのと反対に、良いデザインのものって長く生き続けることができる。与えられたデザインの質でプロダクトの寿命を左右するから、そういう点でデザインの力ってすごい重要。
SU) そうですね。重要な使命感があって、生かすも殺すも自分次第。それが面白いです。
【ではどうしてデザイナーになったのでしょうか?】
BH) デザイナーになろうと思ってなってた訳じゃなくて、気付いたらなってた。魚ってがんばって泳いでないでしょ、気付いたら泳いでた。そんな感じ。デザインをするために生きてる感じしかしない。
SU) デザインは生き方って、誰かが言ってましたよね。
BH) イタリアのデザイナーが言ってたんだけど、デザイナーは一日24時間仕事をしている。デザイン作業をしていないときでも、日々の生活から常にインプットしていて、それをアウトプットに活用する事でずーっと「デザインの仕事」をしてる。
SU) 俺としてはあんまりそれかっこいいと思ってないです。時々短気になります。全く考えられていない広告とかを見て腹が立っちゃって、心の問題上あんまりよくない。(笑) BH)絶対音感がある人が雑音聞いたら気持ち悪くなるのと一緒だよね。アメリカのスーパーマーケットとか腹が立ってしょうがない。パッケージがひどい。
【アメリカのスーパーで見かけたサッポロビールの缶はとってもオシャレでしたよ。私はパッケージを見て買いました。】
BH) アメリカ人はそういう繊細な違いに気付かないよ。(笑)
SU) うん、気付かないですね。(笑)
BH)アメリカの場合、値段と量が重要で、でっかく0カロリーとか直接ベネフィットが書いてあることがポイント。
【そこは矛盾している気がします。Appleはシンプルなデザインを突き詰めていますよね?】
BH) え、だってAppleはやっぱりまだマジョリティじゃないよ。
SU) 今だに”Apple products are overpriced”って言われてますよね。
BH) ここ(サンフランシスコ)は特別だからね、ここにいるから気付かないだけ。あと、Appleが象徴的なのは良いデザインが世の中の人に受け入れられて、その効果を発揮するのには時間がかかるという事。彼らは設立時から一貫して素晴らしいデザインと機能性にこだわって商品を造って来たけど、やっと市民権を得られるようになったのはここ最近の話で、一時期は倒産の可能性もあった。本当に良いデザインを世の中に普及させようと思うと、短期間での結果は出にくいので、かなりの忍耐と強い信念が必要だと思う。でも長期的に見るとデザインのチカラは計り知れないと思う。
SU)(今はそういう状況だけど)俺がAppleの戦略でいいな、って思うのは、「子供にフォーカスしてること」なんです。Appleストアに行くと子供の遊び場が必ずあって、前まではiMac、今はiPadが置いてあります。それで子供がゲームで遊べるっていう。今そうやってAppleのプロダクトと育って行った将来、それよりもはるかに悪い物を見て、「何これ?」って思いますよね。けどWindowsに慣れて育ったら悪い物を見ても「悪くないじゃん」って感じてしまう。美しいものに慣れたとき、そうでないものを見るとすごい「あれ」ってなる、そのAppleの戦略良いなーと思って。
BH) あと、世の中で一番素敵な、完成されたデザインって自然っていう説がある。自然は何よりも素晴らしく機能的であり無駄が無く、意味がありシンプル。スズメバチが黄色と黒なのは危ないから、とか・・・すべてにおいてファンクションとフォームのつじつまがあっていて、一番合理的な形をしているのが自然。自然を研究するとデザインの勉強としていいのかもしれない。そういう意味で田舎育ちには良いデザイナーが多いのかも。
SU) Christopher Alexander の「Notes on the Synthesis of Form」という本に書かれていた「自然は常に最適な結果になるためにevolution(進化)していく」ということですね。長い間続いた古代文明の家などは必ず良くデザインされているらしいです。
—4.デザインと向き合うことの大切さと辛さ—
【では上杉さんはどうしてエンジニアからデザイナーになったのでしょうか?】
SU) 覚えてないです。(笑)本当にたまたま。エンジニアとして働いていたときにQuoraのデザイナーの人とランチをして、エンジニアとしてではなくデザイナーとして面接を受けろ、って言われて。Quoraにすごく行きたかったから、デザイナーとして面接を受けてダメだったらエンジニアで受け直そうなんて思ってたんですけど、デザイナーとして採用されたから、それからデザイナー。(笑)
でも、今デザイナーを捨てる気はありますし、自分が持っている物が何も無い状態にあるのが好きなんです。例えばブロガーとして有名だとずっと面白い記事を書かなきゃってすごいプレッシャーがありますよね?捨てるのに抵抗が無いんで、もしまた捨てた物が必要になったらあとから拾えば良いと思っていて。仕事もぽいって捨てちゃいましたし、抵抗が無い。
BH) けどデザイナーってそういう危うさがあるよね。デザイナーと仕事をする上でそこって普通の人と全然違うから大変。常に刺激なり何かしらの興奮がないとデザインすることを辞めちゃう。
SU) 上がデザイナーっていうのが重要で、理解してくれるリーダーなりマネージャーが必要だと思います。
BH) うん、デザイナーってデザインだけでは短期的な結果に近づきにくいんですよ。長期戦なんで。さっきも例に挙げたけどAppleだってそう。時間を掛けて良いデザインを生み出す事をみんな途中で捨てちゃうんだよね。「デザインをきっちりやっていく!」と決めた時のそのリスクってすごい。時間がかかる分、捨てる方が楽で、短期的にかかるコストや、プロダクションの効率性、目先の利益を出しやすいから。でも長期的に考えると差別化がしにくくなる。ビジネスのトップの人間がそこまで腹くくって、俺はデザインちゃんとやりたいからその通りにやって売上は気にするな、っていう人じゃないとデザイナーは良い仕事をできない。
SU) あと、自分に正直な人でなければデザイナーにはなれないと思います。QuoraのUIの中の文章を書いてて「これすごい良いんじゃない?」って思ってたけど翌朝見たら「ああだめだ→じゃぁどこが変えられるか?」っていう繰り返しです。最初の10行とか100回書き直します。デザイナーをやる前は 自分で「これで終わり」って思い込ませてしまって止めてしまってました。完全に自分に正直になって「まだだめだ」って自分に言えること。そして同時に、「もうだめだ」って思わないように心をコントロールしなきゃいけなくて、それが難しいですね。自分に嘘つかない人にならなきゃだめなのかなって。
【途中でくじけてしまうことは無いのでしょうか?】
SU) メンターがいたから助かったんです。上に立つ人って、俺が「これもういいでしょ」、って言ったときに「まだだめだ」っていわなきゃだめなんですけど、そのときに「お前はもうダメだ」じゃなくて落ち込ませないようにしかもやる気を出せるように言わなきゃダメなんですけど、それってすごい難しいですよね。
BH) それ、自分のような立場からするとすっごい難しい。デザイナーが出して来たものが納得いかないときに「それはだめ、やり直して」って言わなきゃいけないの。だけどその人が頑張ってやってるの知ってるからどうしようかなーって悩むよね。そう言う時は、頑張ってやり直さなきゃ行けない理由を説明する。上手い方法は「どうしてこういう風にやったの?」って聞いてあげること。「でもこういう考え方はどう思う?」って質問すると、「ああそっちのほうがいいかも」自分で理解してくれる。「やり直しても良いですか?」って自分で言ってもらえるところまで質問を投げて行けばいいのかなって。
SU) 自分の上司で上手いなーと思ったのは、「いいと思う。でももう一日考えろ」って言うの。(笑) 何その含みのある言い方、ってこっちとしては思うんだけど改めて見てみると直すところも見えて来て。それでそのことを上司に報告すると、もともとダメだって分かってたのに、「じゃあ今度次のを見せて」って言われる。そういう上司との関係ってすごい難しかった。
BH) 日本人で、デザイナーって聞くと「おしゃれ!かっこいい!」とか言う人いるけど、実際「超地味」で「超残酷」で「超疲れる」。しかもやった割に報酬や成果があわないんじゃないかって思うくらい大変。それでもやりたいって思う人じゃなきゃデザイナーは向いてない。
—5.今後の道。良いデザインがもっと世の中に広まるために―
【では今二人が現在解決したい問題とは一体?】
SU) 教育をデザインで変えたいですね。それについて今度のTEDでも話そうと思っています。イノベーションを起こすのに必要な人はどういう人たちか?と考えたとき、3つパターンがあって、その辺を説明出来ればと思います。あと良いデザイナーを生み出す為の教育に関してとかも。お楽しみに。
BH)僕はデザインとビジネスをもっと密接に関わらせて行きたい。資本主義の国の場合、どんなにきれいなデザインのモノでもビジネスの要素がなければ死んでしまう。例えば、もしどんなに良いデザインのwebサービスがあっても、ビジネスとして成り立たなかったらcloseしちゃうでしょ。世の中にインパクトを与えるためには、この要素が無いと人の心もお金も社会も動かせない。ビジネスとデザインをもっと密接に関わらせることによって、すごく良いデザインがビジネスに影響していくかなって。そんなよいデザインを普及させて行きたい。デザインとビジネスを融合させれば社会に対する影響力も大きいと考えてる。
【今後の目標は?】
SU) 肩書きや場所関係なく自分一人で生きて行けるようになりたい(ロケーションフリー的に)。けどデザイナーでフリーランスって難しいんですよね。だから最近またエンジニアリングを学んでいます。
BH)会社をやってる限りロケーションフリーは無理だとしても、多くのロケーションで人に影響を与えたい。世界の色んな地域で働ける環境作りがしたくて、なら自分の住みたい街に会社のブランチを作ればいいかなって思って。それがどこかというと、東京とLAとNY。それらの街にオフィスを作る予定です。
【最後に: デザイナーに必要な資質って何だと思いますか?3つ挙げてください。】
BH)
- 自己顕示欲の強さ。自分を表現したいかどうか、目立ちたがり屋
- 既存の物を疑って考えること。
- 遊び心。冗談とかイタズラ好きで、相手を喜ばせるっていうことを考えられるかどうかがとても重要。
SU)
- デザイナーって役をこなせるかどうか。デザイナーは会社の中でもプレッシャーを受ける立場だから。
- デザインやっている時間が一番好きになれるかどうか。
- 何が正しいのか、正しい答えを探し続けることを出来るかどうか。俺は中学、高校生のときに片付けがとても好きで週に一度どこに机があるのが一番良いかというのを考えて動かしていました。今はiPhoneのホーム画面もいつもどこにどのアプリがあるのが良いかというのを考えて動かしています
インタビューを終えて—デザイナーは世界で一番残酷で、一番夢のある職業—
このインタビューをするまで、私はデザイナーとはなんだか魔法使いみたいでカッコイイと思っていた。けどそれは完全に非デザイナー側からみた勝手な妄想であり、私はデザイナーの単なる一面しか見えていなかったと気付いた。
実際のデザインとは、ロジックというピースを1つ1つはめていった大きなジグソーパズル。決して短期勝負ではないその作業は私が想像していたものよりはるかに過酷なもの。そしてそんなデザインをする彼らデザイナーは、私よりも遥かに正直に自分と、デザインと向き合っている。今この世界にある優れたデザインは、世界のどこかであるデザイナーが命を吹き込んだ特別なもの。そう考えるとデザイナーとは世界で一番残酷、だけど世界で一番夢のある職業なのかもしれない。
また、同時にもう1つこのインタビューを通して確信したことがある。誤解を恐れずに言うと、デザインとはデザイナーのものだけではない、ということだ。今このpostを読んでいるあなたも、そしてこのpostを書いている私も毎日何かをデザインをしている。「どういう構成にしたら読んでいる人に彼の言ってることが上手く伝わるか」「文字の大きさは」「句読点をうつ場所は」・・・
誰かのことを想像して自分を表現するとき、私たちはもう、「デザイン」をしている。 二人の対談はデザイナーやデザイナーを目指す人のためだけではなく、全ての人に当てはまることだ。
「ダメだと言われたときに、自分がダメだったんじゃなくて、自分の努力が足りなかったり考えが甘かったことを指摘してくれたと自動的に捉えること。そういう前向きな姿勢を学ぶことができたんです。」
つまり自分に正直になること。それは決して簡単ではないが、パソコンやソフトウェア、テキストも必要なく、今すぐ始められるより良いデザインへの第一歩に違いない。
上杉周作 シリコンバレー在住のデザイナー。@chibicode 88 年生まれ。神奈川県出身。小学6年まで横浜みなとみらいで暮らす。中学からアメリカ東海岸に引越す。現在は海外を拠点にデザイナーと して活動中。元Facebook、Appleにてエンジニアとしてインターン。元Quoraデザイナー。カーネギーメロン大学でコンピューターサイエンスを学び、その後同大学院にてデザインの修士号を取得。シリコンバレーで今最も注目されている日本人の1人。講演「20歳を過ぎてからプログラミングを学ぼうと決めた人たちへ」 慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスで講演も行った。
Brandon K. Hill (ブランドン・片山・ヒル ) btrax, Inc.CEO @BrandonKHill サ ンフランシスコ州立大学デザイン科卒。北海道札幌市出身の日米ハーフ。高校卒業時までほぼ日本で育ち、1997年アメリカサンフランシスコに移住。現在は サンフランシスコに本社のあるグローバル市場向けBranding / Marketing 会社btrax CEO.。今後の目標は日本の若い起業家、起業家志望者に向け、より多くの成功事例を見せる事により、世界進出の夢を与えること。
第5回 SF Japan Night開催決定! 観戦チケット販売開始!
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<日時>
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<会場>
ラフォーレミュージアム原宿(ラフォーレ原宿 6F)
東京都渋谷区神宮前1-11-6
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第5回SF JapanNightセミファイナル、2月9日にラフォーレ原宿で開催決定!
問い合わせ: japannight@btrax.com
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