ツイート分析には“ネガポジ分析“というものがある。ツイートの中で肯定的な発言と否定的な発言を抽出し、その割合を示すやり方だ。ここではそれをさらに進め、“感情分析“と言える手法をとってみている。その概要は以下。
調査概要
対象 2012年10月〜12月クールの連続ドラマ 手法 ツイッター上の、各ドラマについての放送時間中のツイートを収集し、テキストマイニングにかける。 ツイート収集 テレビジン(運営:福田一行氏)による、番組ごとに設定したキーワードをもとに収集したもの。テレビ局や番組のハッシュタグ、番組名や主役名など。 テキストマイニング 見える化エンジン(ツール提供:プラスアルファコンサルティング社)を使用。
以下の3種類にあたるワードを含むツイートを感情項目としてカウントし全体の中での割合を算出する
- 好意好感:いい・カッコいい・かわいい、など好意にあたる語彙を含むツイート
- 高揚興奮:面白い・すごい・素晴らしい、など感情の高まりにあたる語彙を含むツイート
- 否定:いや・ダメ・つまらない、など否定を示す語彙を含むツイート
これらのデータについて、以下2パターンの分析を行った。
●分析1:感情分析比較(16タイトル)
・・・第一話を分析し、3種類のどれが高いかでドラマを分類したもの
●分析2:ドラマ別ツイート推移(6タイトル)
・・・第一話から最終話まで3種類のツイートがどう推移したかを見た
分析結果
ここからは、詳しい分析結果を見ながら解説していこう。
分析1:感情分析比較
➢ ドラマの傾向によって3種類の感情項目の高低がある様子が見えた。
➢ 好意好感と高揚興奮が同レベルのもの、どちらかが高いものがある。
最初のタイプは、好意好感と高揚興奮が同程度のもの。このタイプは落ち着いた企画のものが並んだ。意外にも、「相棒」もこの中に入った。圧倒的に視聴率が高い「相棒」が感情の比率が低く出ているのが興味深い。固定ファンが落ち着いて視聴するということだろうか。
続いて好意好感が高く出たもの。木村拓哉が久々に主演して注目された「PRICELESS〜あるわけねぇだろ、んなもん!〜」もこのタイプとなっている。
この中で興味深いのは、「ゴーイングマイホーム」で、好意好感が25%近い。同作品は映画監督の是枝裕和が脚本・演出することで話題になった。テレビドラマとしては映像の質感や演出の空気感がまるでちがっていた。これに対するツイッターユーザーの期待感がこの数字になったのだろうか。
3つ目のタイプは高揚興奮が高く出たもの。ユニークな企画のドラマが並んでいる感がある。とくに「ドクターX」は高揚興奮が25%を越え、上のチャートの目盛をはみ出してしまった。興味を持って観てみたら予想以上の面白さでそれこそ“興奮“したのではないだろうか。実際このドラマはこのクールの“台風の目“的な存在で、高い視聴率を保っていた。
最後に特異な結果が出た「結婚しない」を別分類とした。否定が高く8%を越えている。他のドラマでは5%を越えることはないので、特別高い結果だと言えるだろう。一方好意好感もけっこう高いので、賛否両論がツイッター上で飛び交ったことがうかがえる。そしてこれは決してこのドラマにとって悪いことではないようだった。
分析2:1クール推移
➢ 特徴的な作品をピックアップし1クール全体の推移を追った。
➢ とりあげたのは「結婚しない」「勇者ヨシヒコと悪霊の鍵」「PRICELESS〜あるわけねぇだろう、んなもん!」「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」「東京全力少女」「高校入試」の6タイトル。
①「結婚しない」
このドラマは、タイプ別で見たように賛否両論つぶやかれていた。否定の方は「イタい」「生々しい」「つらい」といったものが多く、独身女性にいかにもありそうなシーンがドラマの中で描かれていたためのようだ。それが決してドラマにとってネガティブとは言えないようで、「イタい」と言いながら見続けていた人も多いのだろう、視聴率はとくに落ちることなく推移していた。そして徐々に否定のツイートも減っていっている。共感を得たからこそ第一話で否定が高く出ていたのだと思われる。
②「勇者ヨシヒコと悪霊の鍵」
このドラマは典型的な“興奮型”だった。そして1クール通してその形で推移している。高揚興奮のツイートのほとんどは、実は「www」で占められている。ツイートの中で「www」は本当によく使われており、他のドラマでもよく見かけた。ヨシヒコは安定して“ウケる”作品だったのだと言える。
またこのグラフではツイート全体の数の推移も別目盛で表示してみた。「勇者ヨシヒコ」はRPGをコミカルに実写化したことがネットユーザーにウケたようで、ツイート数が段違いに多い。他の作品は視聴率の高いものでも2000〜5000という水準なのだが、このドラマでは毎回1万ツイートを越え、初回では28000にもなった。
ツイート数は初回が多く最終回でまた増える。これは大まかには他のドラマも似た傾向で、弓を下向きにしたようなグラフになる。そしてその推移と感情別の推移や視聴率との相関性はほとんど見られなかった。同じドラマのツイート数の推移はあまり意味がないのかもしれない。
③「PRICELESS〜あるわけねぇだろ、んなもん!」
木村拓哉主演で注目されたこのドラマも、“好感型”のまま安定して推移している。だがよくよく見ると第五回だけ高揚興奮が高く出た。この回は中井貴一演じるモアイ部長が主人公と合流し物語が急転回する回だ。またこの回だけ脚本家もちがう。そのことがこの結果に出ているのかもしれない。
それから、具体的な数字は出しにくいのだがこのドラマでは上の好意好感の推移と視聴率の推移にかなり相関性が見いだせた。もちろん偶然に過ぎないが、分析を様々に行っていけば何かが見えてくる可能性は持てた。
④「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」
高揚興奮が格別に高く、第一話第二話では25%を越えている。その後も15%を下がることがなかった。中身はほとんど「面白い」で、思いの外の面白さに視聴者が驚き、また面白いと聞いて見た人も多かったようだ。視聴率も平均して高く推移し、最終回は2012年の全ドラマの中でもっとも高かったという。そうしたドラマとしての水準の高さが興奮度の高さに表れているのだと言える。
⑤「東京全力少女」
このドラマで特徴的なのは、当初高かった高揚興奮が徐々に落ちていくと共に否定が高まっていったこと。否定の中身は「イライラする」というものが多く、物語の進展に視聴者が納得していない様子が見受けられた。全体に不安定な推移で、途中で突如高揚興奮が急増したり、途中から好意好感が上がっているのも理由がはっきりしない。視聴率もふるわなかった様子。
⑥「高校入試」
湊かなえの書き下ろし脚本で話題になった作品。ある進学校の入学試験を舞台に、ネット掲示板でのやりとりが重要なモチーフとして使われ、ツイッターユーザーにとって刺激的な題材。ただ物語は非常に淡々と進み抑揚がない。そうしたドラマの特徴の表れだろうか。高揚興奮が高い水準なのだが、回ごとに上下が激しく推移した。またこのドラマは終盤でツイート数が激増し第十話までは4〜5000前後だったのが、最終話では12000を越えた。だが高揚興奮が高まったわけではない。そのあたりも含めて捉えにくい結果となった。
● 総括
➢ 分析手法としてはまだまだ未熟であり明確な傾向が出たとは言えない
➢ この手法によって好感型、興奮型などドラマの傾向による分類が見えた
➢ 傾向の型はドラマの進行とともに継続するが、それぞれの特徴に添った展開が見られた。ただし、あくまでドラマの内容などを事後に見て言えることである。
以上、やや消極的な総括となったが、何しろ初めての試みだ。この手法の分析を続けることで見えてくるものがありそうではある。手法の進化もさせながら、また試してみたい。
文章中に表示したグラフを含んで、分析結果をPDFにしたものはこちら。自由にダウンロードしてください。“感情分析PDF”
またこの記事は転載大歓迎。私(sakaiosamu62@gmail.com)宛てにメールをくれれば対処します。
著者紹介
境 治 (@sakaiosamu)
コピーライター→映像製作会社ロボット→広告代理店ビデオプロモーション。メディアとコンテンツの未来を切り拓くのがミッションです。だから、何だってかんだって相談オッケー!
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